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美少女荷物持ちの収納魔法【ナイナイ】が実は世界最凶だった件 ~魔王すら瞬殺だけど、カモミールを飲んでいたいの~  作者: 月城 友麻


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19. 解体ボタン

 リーシェにだけ見えている宙に浮かぶ表示画面――そこには収納された品々がずらりと並んでいた。もちろん魔物たちも――ゴブリン、スライム、コボルト、コカトリスの頭、そして今しがた収納したばかりのワイバーン。


 だが、今までと違うことがあった。


 各魔物の横に、見慣れないボタンが浮かんでいるのだ。


 【解体】


 淡い光を放つ、新しいアイコン。今までどこにもなかったもの。


「解体……?」


 リーシェは怪訝そうに目を細めた。


「姐さん、何が見えてるんすか?」


「収納した魔物の横に、【解体】って書いてあるの。前はなかったのに」


「解体って……解体素材にするってことっすか?」


「さあ? 押してみよっと」


「え、ちょっと、いきなり……」


「えい」


 リーシェは迷いなくボタンを押した。


 直後。


 収納空間の中で、何かが起きた。


 リーシェの目には見えていた。巨大なワイバーンの身体が、一瞬で分解されていく光景が。それは暴力的な解体ではなかった。まるで最初から部品の集合体だったかのように、ワイバーンの身体が美しく、整然と、構成要素へと還元(かんげん)されていったのだ。


 赤い巨体が、一枚一枚の鱗に、宝石のように輝く素材の山に。骨が、牙が、筋が、内臓が――全てが一瞬で、アイテムとして使える状態の素材群へと変貌した。


 そしてワイバーンの表示が消え、代わりに現れたのは――ワイバーンの牙×四。鋼鱗×五百二十八。漆黒の翼膜×二。竜骨×一式。紅玉の魔石×一。竜血×三十リットル。竜心臓×一。竜肝×一。竜筋腱×一式。


 ずらりと並ぶ素材リスト。どれもこれも、冒険者が喉から手が出るほど欲しがる超高級素材ばかりだ。


「……すごいわね」


 リーシェは少しだけ目を丸くした。珍しいことだった。


「姐さん? 何が起きたんすか?」


「ワイバーンが素材になったわ。全部」


「ぜ、全部……?」


「牙が四本、鱗が五百二十八枚、翼膜が二枚、骨が一式、紅玉の魔石が一個、血が三十リットル……」


「ま、待って待って待って!」


 トトが両手を振って制止した。顔が真っ赤になっている。興奮しすぎて、頬が紅潮しているのだ。


「ワイバーンの素材って、一個でも金貨三十枚以上するんすよ!? 鋼鱗なんか一枚でも高級武具の素材になるのに、五百二十八枚!? 紅玉の魔石なんか、国宝級の……!」


「そう。じゃあツケは余裕で返せるわね」


「ツケどころの話じゃないっすよ! これ全部合わせたら豪邸が何軒も建ちますって!」


「家なんていらないわ。宿で充分」


 リーシェの感想はそれだけだった。


 トトは天を仰いだ。この人の金銭感覚は、もう何かが根本的におかしい。


 だが、トトが次の言葉を口にする前に――それは起きた。


 身体が、虹色に輝き始めたのだ。


「あ……これは……!」


 虹色の光の微粒子が、全身から噴き上がる。赤い鉱石の光と混じり合い、極彩色の輝きが二人を包み込んでいく。三度目のレベルアップの光。だが今回は、前の二回とは明らかに規模が違った。光の量も、身体に流れ込んでくる力の大きさも、桁外れだ。


 伝説の魔獣を倒した報酬。それに相応しい、圧倒的な力の奔流。


「すげ……身体中に力が……!」


 トトは両手を握りしめた。全身の細胞が活性化していくような感覚。筋肉が強化され、感覚が研ぎ澄まされ、視界が鮮明になっていく。


 だが――トトの意識は、すぐにリーシェに持っていかれた。


 リーシェの背後に、盛大な輝きが宿っていたからだ。


 豪奢な光背。


 前回よりも遥かに大きく、遥かに鮮烈な光が、リーシェの背中から広がっていた。白金の輝きが後光(ごこう)のように放射状に伸び、洞窟の壁面を、天井を、溶岩たまりを、全てを神聖な輝きで照らし出している。


 先ほどのものとは比べものにならなかった。


 さっきの光背は、例えるならランプの明かりだった。だが今――最深部で放たれたこの光は、まるで小さな太陽がリーシェの背中に宿ったかのようだった。


 赤い洞窟が、白金の光に塗り替えられていく。溶岩の赤が、鉱石の赤が、全てが聖なる輝きの前に色褪せる。


 トトは見惚れた。


 光の中に佇むリーシェの姿は、もはや人間には見えなかった。黒髪が白金の光を受けて青みを帯び、白い肌が透けるように輝き、整った横顔が神聖な光で縁取られている。


 聖典の挿絵。御伽噺の天使。この世ならざる者。


 そのどれもが陳腐に感じるほどの、圧倒的な神々しさ。


「ほわぁ……あ、姐さん……」


 トトの声が、掠れた。


 ――だがその時。


 リーシェの身体が、びくりと震えた。


「……っ」


 突然、リーシェが頭を押さえた。


 白い手が、こめかみを掴むようにぎゅっと握りしめた。均整の取れた顔が苦痛に歪み、口がキュッと結ばれた。


 光背が脈打つように明滅する。



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