表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
美少女荷物持ちの収納魔法【ナイナイ】が実は世界最凶だった件 ~魔王すら瞬殺だけど、カモミールを飲んでいたいの~  作者: 月城 友麻


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

16/40

16. 伝説の魔鳥

「行くわよ」


「くっ、分かりましたよぉ、行きましょう!」


 トトは覚悟を決め、リーシェと共に扉を押し開けた。


 ギイィィ……と、錆びた鉄を引き裂くような軋みが闘技場に反響する――。


 そこは、先ほどの円形闘技場よりもさらに広い空間だった。


 天井が途方もなく高い。見上げると、遥か頭上に巨大な魔法陣が浮かんでいた。十階層のものよりも複雑で、幾重にも重なった光の円環がゆっくりと回転している。


 そして、その魔法陣の中心から――巨大な影が降りてきた。


 緩やかに羽ばたく大きな翼だった。


 極彩色の羽毛が魔法灯の光を受けて、毒々しいほどに美しく輝いている。鶏のような赤いトサカ。鉤爪のように曲がった黄色い(くちばし)。そして――宝石のように冷たく光る、黄金色の双眸(そうぼう)


 その目に見つめられた瞬間、トトは全身が凍りつくような感覚に襲われた。


 コカトリス。


 石化の魔眼を持つ伝説の魔鳥。間近でその視線を浴びた者は石と化し、永遠に動けなくなるという。


「ま、まさかあれはコカトリス……!?」


 トトの声が裏返った。


「なんでそんな奴が?! もしかして……前人未到の階層かもしれないっすよ!?」


 過去の討伐の記録にコカトリスが出て来たことなどないのだ。であれば、ここは五十階層以下の階層ということになる。一時間足らずで前人未到の領域に達したのだ。


 しかし、リーシェには前人未到かなどどうでもよかった。


「ナイナイ」


 いつも通り気怠い声を出す。


 すぅ、と、巨鳥の叫びが消え、極彩色の羽毛が消え、闘技場を満たしていた魔気の圧力が消えた。コカトリスの巨体が、丸ごと虚空に呑まれていく。


 完全なる静寂――。


「……よし。帰りましょ」


「い、いやいや、さっきと同じっすよ姐さん! 収納しただけじゃ倒したことにならないっす! 扉開かないっすよ!」


「あー……そうだった」


 リーシェは億劫そうにため息をついた。


「出ろ」


 天井付近にコカトリスが出現した。闘技場の最も高い位置――地上数十メートルの虚空に、巨大な鳥の身体が放り出される。


 だが。


「ギョアアアッ!」


 コカトリスは落ちなかった。


 巨大な翼が風を掴み、数度の羽ばたきで体勢を立て直す。極彩色の羽毛が魔法灯の光を弾き、闘技場の天井に色とりどりの光の粒を散らした。


「……あら、飛ぶのね」


 リーシェが、珍しくわずかに眉を寄せた。


 落下処刑が通じない。オーガには有効だった戦法が、翼を持つ相手には無力だった。しかもコカトリスは逆上して一気に急降下してくる。


 黄金色の双眸(そうぼう)が妖しく輝き始めた。


「姐さん、魔眼っす! まともに喰らったら全身石になるっすよぉぉぉ!」


「ナイナイ!」


 リーシェは咄嗟にコカトリスを再び収納した。紫色の光が空間ごと呑み込まれ、闘技場に静寂が戻る。


 だが、これでは解決しない。倒さない限り出られないのだ。


「……面倒ね」


 リーシェは腕を組み、天井を見上げた。黒い瞳が、何かを考えるようにわずかに細められる。


 トトは固唾を呑んで見守った。この人が「面倒」と言いながら考え込む時は、大抵とんでもないことを言いだす前兆だ。


「……ねぇ、トト」


「は、はい!」


「壁をくりぬけるならこれも行けるわよね?」


「え?」


「出ろ」


 天井にコカトリスが出現した。翼を広げ、体勢を立て直そうと羽ばたく。再度黄金の双眸がリーシェを捉え、そのまま一気に襲い掛かろうとする――。


「ナイナイ」


 リーシェの黒い瞳が、コカトリスの頭部だけを見据えていた。


 すぅ、と。


 音が消えた。


 だが今度は、コカトリスの全身が消えたわけではない。


 頭だけが――消えた。


 トサカも。(くちばし)も。黄金の魔眼も。首から上の全てが、音もなく虚空に吸い込まれた。


 首から上を失った巨体が、一瞬だけ宙に留まり、極彩色の翼が反射的に数度羽ばたき――やがて、力を失ったように傾いていく。


 ゆっくりと。


 どこまでもゆっくりと。


 まるでスローモーションのように、首のない巨鳥が弧を描きながら落ちていった。切断面から赤黒い血が尾を引き、魔法灯の光の中で不思議な軌跡を描く。


 ドォォン……。


 鈍い音と共に、コカトリスの亡骸が闘技場の床に横たわった。極彩色の羽毛が衝撃で舞い上がり、雪のようにゆっくりと降り注ぐ。


 静寂が戻った。


「……部位だけでもいけるのね」


 リーシェは特に感慨もなく呟いた。新しい機能を試して、動作を確認した――ただそれだけの声色だった。


「あ、姐さん、えぐいっす……」


 トトは引きつった笑みを浮かべるしかなかった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ