3. 最後の種
五年後——
地球には、たった一本の大樹だけが残った。
それはただ生き残ったのではない。他のすべての大樹を根こそぎ吸い尽くし、地球上の最後の水滴までも奪い去り、最終的に唯一の「勝者」となった存在だった。
その幹は黒々と輝き、枝葉は雲を突き抜け、さらに成長し続けた。そして、ついには大気圏をも超え、宇宙へとその影を伸ばしていた。
もはやそれは、地球という星に収まりきる存在ではなかった。
その頂で——最後の花が開いた。
花びらは七色に輝きながら、ひとひら、またひとひらと宙へと舞う。中心には、青く光る種がたった一つ。
やがて、種は静かにふわりと離れ、風に乗るように浮かび上がる。
重力を離れ、地球の大気を抜け、深い宇宙の闇へと旅立っていく。
種が宇宙へと消えた、その瞬間だった。
ゴゴゴゴ……
地球に残された最後の大樹が、微かに震えた。
その漆黒の幹に、無数の亀裂が走る。まるで、すべてを終えた老木が、その役目を終えるかのように。
次の瞬間——
バラバラバラ……
その巨体は音もなく崩れ、砂のように細かく砕け散った。
瞬く間に地表へと崩れ落ち、大樹の影が消えると同時に、そこには何も残らなかった。
ただ、枯れ果てた大地が広がるのみ。
かつて生命で溢れていたこの星には、もはや何一つ、生きるものはいなかった。
新たな星で歴史が繰り返されているのかもしれない。人類が「かつて火星には川が流れ、海があった」と語る遥か昔、そこにもまたこの大樹が生まれ、繁茂し、すべての水を吸い尽くしたのではないか?
火星の荒涼とした大地は、もしかするとこの大樹の「過去の支配の跡」なのではないか?
地球の終焉は、火星の過去だった。
そして、また新たな星で歴史が繰り返されるのかもしれない。




