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灰の魔導士   作者: toronton
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出発

朝日が町の屋根を照らし始めた頃、俺たちは準備を整え、遺跡調査へと出発した。


「今回は何もなければいいけどな」

ガルフが大きく伸びをしながら呟く。

「まぁ、前回よりは楽であってほしいわね」

エリスが淡々と歩きながら答える。

「そう思ってると、意外と面倒なことが起こるんだよねぇ……」

ティナが少し不吉なことを言う。

「やめろよ、フラグみたいに聞こえるだろ……」

俺は苦笑しながら荷物を調整しつつ、遺跡へと続く道を進む。


町を出ると、道はすぐに草原へと変わった。


舗装された道はなく、馬車が通ったわずかな轍が続いている。とはいえ、特に険しい道ではないので、俺たちの足でも順調に進めそうだ。


「貴族の依頼で定期調査ってことは、遺跡そのものはすでに大体わかってるってこと?」

ティナが言いながら、背負った杖を調整する。

「大きな発見は期待できないだろうな」

「なぁーんだ、財宝が見つかるかと思って楽しみにしてたのに」

「財宝を見つけたからと言って俺たちの物になるわけじゃないだろ」

「そうなの?」

「未探索の遺跡ならまだしも今回は領主が管理している遺跡だからな、その中にある財宝も領主の物として持っていかれるのがオチだろうな」

「ええ…なんだか世知辛いね……」

ティナが肩をすくめながらそう言った。


「もし見つけたらおこぼれ位は貰えるかもしれないから、それを期待しましょう?」

「はぁーい…」

現実を知ったティナは先ほどより重い足取りで歩みを進める


「ねぇ、リアン。今回の調査って、どこまで行けばいいの?」

ティナが地図を見ながら尋ねる。


「受付で言われた通り、遺跡の入り口と内部の特定のポイントを確認するだけだな。崩落の危険とか、魔物の巣になってないかってやつ」

「魔物がいたら戦闘かぁ……。まぁ、私たちなら問題ないだろうけどね!」

ティナが自信ありげに杖を掲げる。

「ゴブリンに苦戦してる駆け出しがか?」

突っ込むかのようにガルフが言う


 「それはそうだけどさ…ん?!この辺、食べられる草とか生えてるかも!」

 ティナはふと道端の草を見て目を輝かせる。

 「おい、寄り道してると日が暮れるぞ」

 俺が注意すると、ティナは少し不満そうにしながらも歩調を戻した。

 「……まあ、時間があったら今晩の食材にできるかもしれないし、夕飯前に少し探してみるか」

 「ほんと!? じゃあ、期待してて!」

 ティナが嬉しそうに笑う。




夕暮れが近づく頃、ようやく目的地が見えてきた。


 「……着いたな」

 目の前に広がるのは、荒れ果てた遺跡の入り口。朽ちた石造りの建物が静かに佇んでいる。


 「とりあえず、今日はここまでね。中に入るのは明日にしましょう」

 エリスが周囲を見渡しながら言う。


 「そうだな。暗くなった状態で調査を始めるのはリスクが高いし、今日は休もう」

 俺たちは情報にあった遺跡に近くに現れたとされるモンスターを警戒し、遺跡から少し離れた森の中に野営地を設けた。


 「じゃあ、手分けして準備しよう。俺とガルフで火を起こす。ティナは……なんか食材探しに行きたそうな顔してるな」

 「ふふっ、バレた? せっかくだからちょっとだけ見てくるよ!」

 ティナは小走りで近くの草むらへ向かい、エリスは持ってきた食材で簡単な食事を作り始めた。

 「今夜は、軽くスープと干し肉で済ませるわね。」

 「了解。あんまり重いもの食っても動きづらくなるしな」

 火が安定し、湯が沸き始める頃、ティナがいくつかの野草を持って戻ってきた。


 「これ、ちょっと試してみない?」

 「……また妙なものを混ぜるんじゃないだろうな?」


 「大丈夫大丈夫! これはちゃんと食べられるやつだよ!」

 エリスが苦笑しつつもティナの野草を少しだけスープに加える。

 「うん、悪くないかも。すこし風味が増してる」

 「やった!」

 そんなやりとりをしながら、俺たちは明日に備えてしっかりと食事を取った。


 夜が更け、焚き火の明かりが揺れる中、俺たちは順番に見張りを立てながら眠りについた。

 明日はいよいよ遺跡の中へ踏み込むことになる。

 静かに夜風が吹き抜ける中、俺は少し緊張しながら目を閉じた。



「……ッ!」

俺は反射的に目を覚ました。周囲は焚き火の残り火が揺れる程度の暗さ。仲間たちも気づいたのか、ガルフが寝袋から顔を出し、ティナも小さく息をのんでいる。


「今の……魔物か?」

ガルフが小声で呟く。

「わからない。でも、この辺りに生息している魔物なら、事前に聞いていたはず……」

エリスが慎重に周囲を見渡す。

「でも……今の鳴き声ボアでもゴブリンでもないよ……」

ティナが不安そうに呟く。


俺たちはしばらく静かに耳を澄ませた。

遠くでまた、低く響く鳴き声がする。

「距離はありそうだけど……妙に不気味だな」

「……うかつに動かないほうがいいな。今はまだ、こっちに気づいてないかもしれないし」


俺は息を潜めながら、周囲の様子を窺った。幸い、焚き火の光が弱くなっているおかげで目立たない。とにかく今は様子を見るしかない。

やがて、鳴き声は徐々に遠ざかり、森の静寂が戻ってきた。


「……朝になったら、慎重に調査した方がよさそうね」

エリスが小さく言う。

俺たちは互いに頷き、完全に油断はできないまま、それでも少しでも眠ることにした。

不穏な空気を残したまま、夜は静かに更けていった——。


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