束の間の休息
「今日は休みにしようと思う」
レザーボアに続き、ゴブリン戦闘続きだったせいか、体はそこそこ疲れている。こういうときこそ、しっかり休息を取るべきだろう。
「やっとゆっくりできるねー!」
ティナが伸びをしながら、晴れやかな表情を見せる。普段は魔法の詠唱に集中していることが多い彼女も、こういうときは年相応の少女らしい。
「お前は相変わらず元気だな……」
「そりゃそうでしょ! せっかくの休みなんだから、楽しまなきゃ!」
ティナは嬉しそうに手を叩くと、突然思い出したように俺たちを見回した
「そうだ、せっかくならみんなでどこか行こうよ! ずっと戦闘ばっかりだったし、たまには楽しいことしない?」
「ほう……例えば?」
ガルフが腕を組んでティナを見る。すると、ティナはすかさず指を立てて答えた
「買い物! 美味しいものを食べる! あとは……うーん、お祭りとかあれば最高なんだけどなぁ」
「今日は特に祭りの予定はないね……でも、たまには外へ行くのも悪くないかな」
エリスが静かに同意する
「そうだな、せっかく報酬も入ったとこだし多少のご褒美も許されるだろ」
「じゃあ決まり! まずは市場を見て回ろうよ!」
俺たちは宿を出て、市場へ向かった
市場は相変わらず賑わっていた。新鮮な果物や焼きたてのパン、香ばしい肉の串焼きの香りが漂い、店主たちの威勢のいい声が飛び交っている。
「お、これ美味そうじゃねぇか?」
ガルフが肉の串焼きを手に取る。こんがり焼かれた肉からは食欲をそそる香りが立ち上っていた。
「なら、これ買ってみようか」
俺たちは少しずつ食べ歩きしながら、市場を見て回る。久々の平和な時間に、自然と会話も弾んだ。
「ところでさ、リアン。次の依頼、何か考えてる?」
エリスがふと俺に問いかける。
「そうだな……ゴブリン相手で少し消耗したし、少し楽な依頼を受けてもいいかもしれないな」
「確かに。さすがに連戦続きはキツイしね」
エリスも同意し、俺たちは次の依頼についての話を軽く交わした。
やがて市場を一通り巡り終えた俺たちは、適当に買い込んだ食材を持って一旦宿へと戻った。
「じゃあ、今日は私が料理するよ!」
「おい、何を作る気だ?」
「ふふふ、それはお楽しみ!」
ティナは手際よく食材を切り、鍋に次々と放り込んでいく。その動きは慣れたものだった……が
「よし、味見……ん、ちょっと物足りないかな。そうだ、こっちのスパイスも入れてみよう!」
ティナは袋から見慣れない香辛料を1つ2つと取り出し、鍋へ投入していった。途端に今まで嗅いだことがない匂いがが立ち昇る
「お、おい…それ、なんのスパイス?」リアンが少し警戒しながら尋ねる
「ん? 市場で見つけたやつ。なんかいい香りがしたから買ってみたの!」
「……大丈夫か、それ?」
「大丈夫、大丈夫! ほら、味見してみて!」
リアンは恐る恐るスプーンを受け取り、一口すする。
「……うまい。」
「でしょ!」
驚くほどにコクが深く、適度な辛みが味を引き締めていた。見た目の適当さとは裏腹にしっかり美味しい。
「ティナ、お前、料理うまいんだな。」
「ふふん、まあね! 料理は自由な発想が大事なんだよ!」
ティナが得意げに笑う中、ガルフとエリスも料理を口に運ぶ。
「……うめぇ……けど、なんか食べたことない味だな。」
「確かに。普通のシチューとは違うけど、これはこれでアリかも。」
「でしょ? 新しい味を生み出すのが料理人の楽しみなんだから!」
ティナは満足そうに胸を張る。
「お前はいつから料理人になった?」
「いいでしょ!人間だれしも料理人なの!」
ティナが頬を膨らませる。
こうして、俺たちの束の間の休息は穏やかに過ぎて