余韻に浸るまもなく
数日後宿の食堂で簡単な朝食を済ませた俺たちは、いつも通り冒険者組合へと向かった。
ここ数日は簡単な依頼を受けていた、俺たちは次のステップアップのためを討伐依頼を探していた。冒険者というのは、戦って報酬を得なければ生きていけない職業なのだ。
「さて、今日の依頼はどうする?」
掲示板を見上げながら、ガルフが言った。
「レザーボア討伐、またあるみたいだよ?」ティナが指を差す。
「うーん……別の魔物にも挑戦してみたい気はするけど、またレザーボアでもいいかもな」
レザーボアの肉は思った以上に美味かった。売るだけでなく、食料としても価値がある。
「でも、私たちが今のままでどこまでやれるかも考えた方がいいわ。いきなり強い相手に手を出して全滅、なんてことにはなりたくないし」エリスが冷静に言う。
「確かに……」
昨日の戦闘を思い返すと、やはり俺たちはまだまだ未熟だ。特に、魔法の使い方をもっと工夫しないといけないと感じていた。
「そうだ、次はゴブリンの討伐とかどう?」
そう言ったのはティナだった。
「ゴブリン?」
「うん、ゴブリンの巣が近くにあって、最近被害が出てるんだって。少数のゴブリン相手なら、私たちでも戦えるんじゃない?」
「確かに……ゴブリンは個々の戦闘力はそこまで高くないっていうけど、連携を取ることがあるって聞くしな」ガルフが腕を組む。
「巣の外にいるゴブリンなら、多くても三〜六体程度で行動してるはず。変な場所で戦わなければそこまで危険じゃないじゃないかしら」エリスが補足する。
俺たちは顔を見合わせ、軽く頷いた。
「よし、決まりだな」
こうして、俺たちはゴブリン討伐の依頼を受けることにした。
ゴブリンを討伐する前に、俺たちは装備の点検と準備を整えた。
「ガルフ、盾は大丈夫か?」
「おう、昨日の戦いで少し傷がついたが、まだ使える」
「エリスは?」
「私はいつも通り。消耗品の確認をしておく」
「ティナはどうだ?」
「うーん、昨日の戦いでちょっと思ったんだけど……やっぱり動きが速い相手には、詠唱に時間がかかると当てにくいよね、ゴブリンならなおさら」
「そうだな……なら、ゴブリン相手にどれだけ魔法を効果的に使えるかも試してみよう」
俺たちは出発の準備を整え、ゴブリンが頻繁に目撃されるという森の入り口へと向かった。
「巣の近くに行きすぎると危険だから、なるべく開けた場所で戦おう」
「わかってる。でも、向こうもバカじゃないから、油断は禁物よ」
次なる戦いに備え、俺たちは慎重に歩を進めた。
巣の外で活動するゴブリンとの戦いは、レザーボアとは違う意味での難しさがある。
森の入り口に到着した俺たちは、息を潜めながら周囲の様子を窺った。
「ここからしばらく歩くと、ゴブリンの巣があるらしいわ」
エリスが地図を広げ、小声で説明する。
「巣を直接攻めるわけじゃないから、巣のすぐ近くまでは行かない。でも、ゴブリンは狩りのために巣から離れて動く個体もいるから」
「なるほどね。でも、どうやって探すの?」ティナが尋ねる。
「視界が開けた場所を歩いてれば、向こうから襲ってくる可能性が高い。ゴブリンは基本臆病な性格だけど、数がいれば強気になるらしいからな」
俺たちは慎重に森の中を進み、できるだけ広い場所を探した。
しばらく歩くと、小さな開けた場所が見つかった。
「ここなら戦いやすいな」
ガルフが辺りを見回しながら言う。
「じゃあ、少し待ってみようか」
俺たちは気配を探りながら、森の音に集中した。鳥のさえずり、木々のざわめき……そして——
「……いた」エリスが囁いた。
俺たちは物音のする方へと目を向ける。
茂みの奥に、小柄な影がいくつか動いているのが見えた。
ゴブリンだ。
数は四体。俺たちに気づいたのか、ゴブリンたちはこちらを警戒しながら動きを止めた。
俺たちも武器を構え、身構える。
そして、ゴブリンのうちの一体が奇声を上げると、残りのゴブリンも一斉に襲いかかってきた。
「来るぞ!」
ガルフが素早く前に出て、盾を構える。
最初に突っ込んできたゴブリンが、短剣を振りかざして襲いかかってきたが——
ガンッ!
ガルフの盾がそれを弾き返す。はじき返されたゴブリンは体制を崩す、その瞬間俺は距離を詰めるようとするが、他のゴブリンの横やりが入る。
「くそっ!ティナ、魔法の準備を!」
「わかってるけど……!」
ティナが詠唱を始めるが、ゴブリンたちの素早い動きに苦戦していた。
狙いを定める前にゴブリンが動くため、魔法の照準が定まらない。
「くそっ……」
「時間を稼ぐ! ガルフ、一歩下がれ!」
俺は素早く動き、風魔法で土埃を巻き上げた。
ゴブリンたちの足元が一瞬見えなくなる。
「やれるか!」
「——いくよ!」
詠唱完了。
ティナの雷魔法が放たれ、ゴブリンの一体が痺れたように動きを止める。
「エリス、ガルフに魔法!」
「わかってる!」
エリスがガルフに強化魔法をかけると、ガルフの動きが目に見えて素早くなる。
「行くぞ……!」
ガルフが盾を構えたまま突進し、動きの鈍ったゴブリンを弾き飛ばすと、ゴブリンはぐったりと倒れる。
「あと三体……!」
だが、残ったゴブリンたちも簡単にはやられない。