反撃
初戦の敗北を引きずりながら、俺たちは森の中で野営していた。拠点の町まで戻るには時間がかかるし、そもそも手ぶらで帰るわけにもいかない。
「はぁ……まさか逃げ帰ることになるなんて」
「誰だよレザーボアが地味に厄介とか言ってたやつ…」
「うぐ……」
ティナがバツが悪そうに口をつぐむ
「まあ、無事だっただけマシだろ。あのまま戦ってたら、誰かが大怪我してたかもしれないしな」
ガルフが腕を組んで唸る。彼の盾がなければ、俺たちは全滅していた可能性すらある。
「でも、このまま帰ったら報酬はゼロよ?」
エリスが冷静な声で言う。事実、俺たちは依頼を達成できていない。レザーボアの討伐を完了しなければ、この遠征は無駄足になってしまう。
「……そうだな。負けっぱなしは嫌だ」
俺は焚き火を見つめながら、今日の戦闘を振り返る。
──レザーボアの突進は防ぎきれない。動きが速くて、ティナの魔法も当てにくい、だったら正面からの戦い方を変えるしかない。
「なあ、レザーボアってどういう時に動きが鈍ると思う?」
俺の問いかけに、エリスが考え込みながら答えた。
「食事中……かしら? 森で見かけるときは、よく地面を掘って何かを食べているわね」
「そういや、鼻が利くんだったな。今日も俺たちの気配より先に、荷物の中の食料に反応してた気がする」
ガルフの言葉に、俺はピンときた。
「……匂いを利用すれば、動きを誘導できるかもしれないってことか?」
俺は荷物の中から干し肉を取り出し、ちぎって焚き火にかざす。すると、じんわりと脂が溶け、香ばしい匂いが立ち上る。
「誘導してどうするの?どこで戦っても変わらないんじゃない?」
ティナが首を傾げる
俺はその言葉に少し考えこむと一つ作戦を思いつく
「なら、こういうのはどうだ?食べ物の匂いで気が生い茂ってる場所に誘導する」
「なんで?戦いずらいじゃん」
「俺たちじゃアイツの突進を止めれないだろ?だから木を盾にしながら立ち回るんだよ、それにあの巨体なら動き回ることも難しいだろ」
「まぁ、一理あるわね…」
そう言いつつエリスが干し肉をちぎり口に運ぶ
「どうかな?」
俺の提案に、ガルフが腕を組んで頷いた。
「いいんじゃないか。昨日みたいに正面からぶつかるんじゃなくて、こっちのペースで戦えるなら勝機はある」
「そうだね、いろいろ試してみないと」
ティナがぎゅっと拳を握る。彼女の攻撃が決まれば、一気に勝負を決められるはずだ。
「なら、私はガルフに強化魔法をかけるわ。今度はもっと長く耐えられるようにする」エリスも作戦に合わせて動くことを決めた。
「よし、さっさと終わらせて帰るぞ」
敗北を乗り越え、俺たちは再びレザーボアに挑む。
夜が明け、森の空気はひんやりとしていた。俺たちは昨日の準備を確認しながら、仕留めるべき相手——レザーボアが現れるのを待っていた。
「……来るよ」ティナが小声で呟く。
レザーボアはゆっくりと餌の近くまで近づいてきた。鼻をひくつかせ、警戒しながら周囲を見回している。一度戦った経験があるからか、以前より慎重だ。
「予定通りいくぞ」俺は仲間に目配せし、静かに合図を送る。
エリスがそっと杖を掲げると、ガルフの身体がわずかに輝いた。彼の筋肉が膨らみ、呼吸が深くなる。バフの魔法が成功した証拠だ。
「……任せろ」ガルフが静かに呟き、前に出る。
次の瞬間、俺は闇魔法を発動させた。レザーボアの視界を遮るように影が広がり、奴が驚いて身を震わせる。
「ティナ、準備を始めろ!」
ガルフが地を踏み鳴らし、突撃してくるレザーボアの進路を塞いだ。獣の鋭い牙が迫るが、ガルフは盾を構え、強烈な衝撃音とともに受け止める。
「くっ……!」ガルフが踏ん張る。
その間に、ティナが詠唱を続ける。だが、レザーボアの動きは速く、彼女の狙いを定めるのは難しい。
「もう少し……足止めを!」ティナが焦りの声を上げる。
俺はすぐに風魔法を使い、レザーボアの足元にえぐる。視界を失っている獣は急な足場の変化にがバランスを崩す。その一瞬の隙を逃さず、ティナが魔法を解き放った。
「いけっ!」
光の矢が放たれ、レザーボアの横腹を貫く。獣が悲鳴を上げてのたうち回る。ガルフがすかさず踏み込んでトドメを刺し、ついに仕留めることに成功した。
俺たちはしばらくの間、息を整えた。狩りは成功したが、思った以上に消耗していた。
「終わった…」
こうして、俺たちの初めての狩りは幕を閉じた。