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灰の魔導士   作者: toronton
13/71

重み

「よし、もう一度」


俺は集中し、魔力を流し込む。闇を広げる感覚はさっき掴んだから、次は密度を上げる——闇を濃くする。

(どうすれば密度を上げられる?)

水で考えるなら、霧のように薄く広げるのではなく、もっと濃く、重く……たとえば、墨を溶かした水のように。

俺は魔力をぎゅっと圧縮しながら、闇を展開することを意識した。


すると——


「お、結構濃くなったんじゃ……」

視界を覆う闇の靄は、さっきよりも濃くなった気がする。しかし、ソフィアは微妙な顔をしている。

「……まあまあね。でも、まだ“軽い”わ」

「軽い?」

「あなたの魔力が均一すぎるのよ。もっと“重み”を持たせなさい」

「重み……」

また難しいことを言うなぁ。

「いい? ただ魔力を濃くするだけじゃ、相手が少し動いただけで隙間ができるの。闇を“停滞”させるイメージで、空間に固定するようにしなさい」

「空間に……固定?」

「ほら、ちょっと見てなさい」

ソフィアはそう言うと、片手を軽く振った。


すると——俺の周囲が、一瞬で真っ暗になった。

「……!? え、なにこれ」

さっきまでの俺の魔法とは違う。目の前に広がる闇は、濃密で、息苦しくなるほど圧迫感があった。

(なんだこれ……!? まるで、闇そのものに閉じ込められたみたいだ……!)

動こうにも、どこに何があるのか全く分からない。まるで自分が、存在そのものを埋め尽くされてしまったかのような——そんな錯覚すら覚える。


「……わかった?」

ソフィアの声が、どこからか聞こえた。

「……うん、すごい。でも……どうやったんですか?」

俺がそう聞くと、ソフィアはゆっくり闇を消しながら答えた。

「簡単よ。闇をただ広げるんじゃなく“魔力を空間に固定する”の」

「空間に……固定?」

「ええ。たとえば、煙は風が吹けば流れるけど、霧は一定の範囲にとどまるでしょう? その感覚を意識しながら魔力を制御すれば、闇をそこに“停滞”させることができるの」

なるほど、そういうことか。

(ただ闇を広げるだけじゃなく、空間そのものに馴染ませて固定する……)

理屈はわかった。でも、それを実際にできるかどうかはまた別の話だ。


「やってみなさい」

「……はい!」

俺は再び魔力を練り、闇を広げる。そして、意識を変える——ただ撒くのではなく、その場に“停滞”させるように。

ゆっくりと、だが確実に、空間に闇が染み込んでいく感覚があった。


「……お?」

周囲の景色が、じわじわと闇に包まれていく。さっきよりもずっと濃く、そして“そこに留まっている”感じがする。

「やっとコツを掴んだみたいね」

ソフィアの声が聞こえた。

「でも、まだ甘いわ」

「えぇ……」

「あなたの魔力、まだ“揺れてる”のよ。これじゃ、簡単にかき消されるわ」

ソフィアが軽く指を弾くと——俺の作り出した闇が、一瞬で霧散した。

「うっ……」

「ほらね?」

容赦なく現実を突きつけられる。でも、ここまでできたのは確実な進歩だ。

「今の方法を繰り返し練習しなさい。それができるようになれば——」

ソフィアは一瞬、言葉を切り、ふっと笑った。

「戦場での生存率が、ぐっと上がるわよ」

戦場での生存率——。

つまり、この魔法がしっかり使えれば、それだけ俺の戦闘での選択肢が広がるということだ。


「そろそろ、実戦形式でやってみましょうか」

ソフィアが腕を組みながら言う。

「実戦?早くないですか……?」

「ええ。闇を固定できるようになったのなら、それをどう戦闘で使うか考えなきゃ意味がないでしょう?それに早く帰ってほしい」

「冷たっ」

だがソフィアの言うことにも一理ある、せっかく新しい技術を覚えたのに、実際の戦闘で役に立たなかったら本末転倒だ。

「どういう風にやるんですか?」

「簡単よ。私が相手をするから、あなたは闇魔法を駆使して私を倒しなさい」

「えぇ……」

嫌な予感がする。

「ま、私が本気を出すとあなたじゃ相手にならないから、制限はつけるわ。私の方は攻撃魔法を使わない。ただし——」


ソフィアは、ふっと笑いながら指を立てる。

「三回、私に触れられたらあなたの負け。」

「……触れられたら?」

「そう、ただ触れるだけ。でも、私は魔力探知を使うから、あなたの動きを察知するわよ? 闇に隠れても無駄、ってこと」

「なるほど……」

つまり、俺の闇魔法がどれだけ通用するか試されるってことか。


(やるしかないな……)

俺はゆっくりと息を吸い込み——魔力を練った。


「——いくぞ!」

すぐに俺は闇魔法を展開。ソフィアの視界を奪うように、濃い霧のような闇を広げ距離をとる。

相手の位置を把握しつつ、ゆっくりと動く。今までは闇を薄く広げていたが、今回は「停滞」させる技術を活かし、特定の範囲に濃密に留めるように意識する。


「ふぅん……いい感じね」

ソフィアの声がする。しかし、その位置がはっきりしない。

(探知される前に、仕掛ける!)

俺は闇の中を素早く移動し、死角から背後を狙った。だが——


ガシッ

「っ!? 速っ……!」

腕を軽く掴まれた。

「一回目ね」

「くそっ……」

(やっぱり魔力探知で見抜かれてる!)

俺はすぐに作戦を切り替える。

(“闇を固定する”なら、相手の動きを封じることもできるはず……!)


再び闇を発生させ、今度はソフィアの足元に集中させる。そして、密度をさらに高める——まるで粘る霧のように。

「……お?」

ソフィアの動きが、一瞬鈍る。

(よし、いける!)

その隙に俺は背後へ回り込み、攻撃態勢に入る。

(……勝った!)

そう思った瞬間——


「……甘い」

バッ

視界が揺れた。

(何だ……!?)

次の瞬間、俺は仰向けに倒されていた。

「ぐっ……!?」

「二回目。悪くなかったけど、詰めが甘いわね」

ソフィアが見下ろしている。


「……なんで?」

「“密度”を上げても、闇は闇。物理的なものじゃないんだから、力を込めれば動ける」


「つまり……ごり押し……?」

「違うわ。大事なのは“適切な密度”に調整することよ。強くすれば相手を拘束することもできるけど、強くしすぎれば、相手に察知されやすくなる。逆に薄すぎると効果が出ない。そのバランスを見極めるのが重要なの」


俺は、息を整えながら考える。

(密度を変える……か)

闇を広げるだけじゃなく、その場その場で適切な強さに調整する。


「次で最後よ。さあ、どうする?」

ソフィアが構える。


俺は、もう一度魔力を練った。

(今度こそ……!)





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