表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
灰の魔導士   作者: toronton
10/71

足跡の主

翌朝、朝食を済ませたリアンたちは、装備を整えて慎重に遺跡の内部へと足を踏み入れた。入口は崩れかけた石造りのアーチになっており、壁には風化した彫刻が刻まれている。中へ進むと、天井の穴から差し込む薄明かりが広がり、ぼんやりとした陰影を作り出していた。


「思ってたよりも崩れてないのね」

エリスが壁を軽く叩きながら呟く。


「定期的に調査が入ってる遺跡だからな。危ないところは前回の調査隊が補修してるのかも。」

俺は周囲を警戒しながら答えた。


進むにつれて、遺跡の内部は冷たい湿気を帯び、足元に苔や小さな水たまりが点在していた。空気は静かで、遠くで水滴が落ちる音だけが響いている。石畳は意外にも整っており、崩れた瓦礫がところどころにあるものの、通行には問題ない。


「記録によるとこの先に大きな広間があるはず」

エリスが地図を確認しながら言った。


「とりあえずその広間まで行ってみよう」

俺の言葉に皆が頷き、一列になって進んでいく


しばらくして、彼らは目指していた広間へと辿り着いた。天井は高く、壁にはかすれた文字や絵が刻まれている。床には過去の調査隊が残した目印があり、ここが何度も確認されてきた場所であることを示していた


「特に異常はなさそうだけど……」

ティナが周囲を見渡しながら言った。


「うん。とりあえず休憩がてら、ここで記録をまとめましょう。」

エリスは肩の力を少し抜き、持ってきたメモ帳を取り出した。


緊張が和らぎ、皆が一息ついていたその時だった。


「……ん?」

エリスがふと視線を床へ落とし、何かを見つけたようにしゃがみ込んだ。


「これ……足跡?」


他の三人もそれに気付き、すぐに周囲を警戒する。そこには、明らかに最近つけられたと思われる、不自然な足跡が残されていた。靴の形状からして人のものではなく、かといって普通の動物とも異なる特徴的な形をしている。

俺は慎重に足跡の方向を確認する。


「……これは、間違いなく何かいる…よね…」

ティナが小さく息をのむ。


緊張感が再び高まり、リアンたちは足跡の先へ進むことを決めた。


リアンたちは足跡をたどり、遺跡の奥へと慎重に進んでいった。湿った石の床に残された爪の跡や、崩れかけた柱の間を抜けながら、徐々に空気の冷たさが増していくのを感じる。


「なんか、空気が変わってきたな……」

ガルフが警戒するように呟く。確かに、先ほどまでの埃っぽい空間とは違い、どこか湿り気を帯びた匂いがする。


「何かの棲み処になってる可能性があるわ。足跡もまだ新しいし、ついさっきまでここにいたかも」

エリスが慎重に周囲を見渡す。足跡はさらに奥へと続いている。


そして、開けた空間に出た瞬間、低く唸る声が響いた。

「……ッ!」

そこにいたのは、鋭い牙としなやかな体躯を持つウルフ型の魔物だった。体長は人間の大人ほどもあり、黒い毛並みが闇に紛れるように揺れる。


「やっぱりいるよね……」

ティナが小さく呟きながら杖を構える。魔物の黄色い瞳が鋭く光り、ゆっくりと彼らに向かって姿勢を低くした。


「逃がす気はないってことか……」

ガルフが剣を抜く。魔物も戦闘態勢に入り、次の瞬間、一瞬の静寂を破るように飛びかかってきた


俺は咄嗟に風魔法で自身の足元を軽くし、素早く後ろへ跳ぶ。同時にティナが炎の弾を放つが、魔物は俊敏に横へ跳び、攻撃を回避する。


「速い……!」

エリスが警戒しながらも、強化魔法の準備を整える。ガルフは真正面から魔物の突進を受け止めるべく盾を構えた。


「来るぞ!」

ガルフが叫ぶと同時に、魔物が爪を振りかざして突っ込んでくる。ガルフは防ごうとするが、魔物の力に押され、後退していく。


「リアン!」

エリスの声に反応し、闇魔法で視界を一瞬遮る黒い靄を発生させる。魔物が動きを鈍らせた隙に、ガルフが剣を横薙ぎに振るい、浅くではあるがその肩に傷を負わせた。


「よし、少しは効いたか!」

しかし、魔物はすぐに体勢を立て直し、低く唸る。その目にはまだ戦意が宿っていた。


「やっぱり、そう簡単にはいかないよな……!」

息を整えながら、次の一手を考える。


黒いウルフ型の魔物が、一瞬の静寂を破り、鋭い牙を剥き出しにしながらリアンたちへと飛びかかってきた。


「ガルフ!」

リアンの声と同時に、ガルフが前に出て盾を構える。衝撃とともにウルフの巨体がぶつかり、ガルフの足が一歩後退した。しかし、彼は踏みとどまり、その場で剣を振りかざす。


「チッ、動きが速い……!」

ウルフは素早く後退し、剣を避けるとそのまま左右へと素早く駆け回る。まるで獲物を狩る前の狼のように、じわじわと距離を詰めながら隙を狙っていた。


「リアン、足止めを頼む!」


「わかった!」

ガルフの声を受け、闇の魔法を発動させると、ウルフの顔にまとわりつくように闇が視界を奪う。その隙にティナが魔法の準備を整えた。


「これで決めるよ!」

ティナの火球が完成し、轟音とともにウルフへ向かって放たれた。魔物は反射的に身をひねり回避しようとするが、完全には避けきれず、肩に直撃し、体制を崩す。


「ガルフ、今!!」

エリスがガルフに強化魔法をかけ、ガルフの動きに精彩が戻る。


「はああっ!」

剣が魔物の前脚を捉え、鮮血が飛び散る。魔物は苦痛の声を上げながら後ずさる。


「もう少し…このまま押し切る!」

ガルフが前に出て、魔物の動きを封じるように立ち回る。


ティナが素早く詠唱を終え、魔法を発動した。

「貫け!」

雷撃が魔物の体に直撃し、魔物が怯む、その隙にガルフが剣を首元めがけて振り下ろし、ウルフ型の魔物が最後の一撃を受けて崩れ落ちた。


「……終わったか?」

ガルフが警戒しながらも剣を構えたまま周囲を見渡す

「うん、もう動かないよ」

ティナが魔法の灯りをかざして確認し、エリスも慎重に頷いた


「どうやら、こいつがこの遺跡を縄張りにしてた魔物みたいだな。」

俺は慎重に魔物の死骸を確認しながら言った。


「この状態でこれ以上の探索は危険だ、一旦戻るとするか。」

どちらにせよ居るはずのない魔物が居たので、明日改めて最終確認はした方がいい。

仲間を見渡しながらそう言うと、皆も頷いた。


外に出ると、空はすでに夕暮れに染まり始めていた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ