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《2章:おまけ5》ラブコメよりもラブコメして誰得であるのか③

タイトル変更させて頂きました。3章からは正式にそちらに変更します

――――シャフリヤール帝国・宗主国ローシャン・首都ポルキア・ポルキア駅構内



 フィオネはネモに強く抱き締められていた。ここから数日間、ネモとフィオネは別々となる。それをよく理解してるので、2人揃って寂しさを埋めるようにひっいていた。更にそんな様子を、どんな感情で見ればいいのか分からない男ふたりが眺めていた。


 人が行き交う駅構内で、女の子ふたりが抱きつきあっているのはあまり目立たないとは言っても、先程から長い時間ふたりはこの状態で、男ふたりの心のやり場に困るようなシチュエーションだ。


 それでも、ある程度満足したタイミングでネモはフィオネから離れる。流石に当分離れるのだから言葉も交わしたいのは人間の欲だ。



「カルマ、何かあったらフィオネを死ぬ気で護ってね」


「言われずとも」



 そう言ってネモは、カルマにネモのスキルを付与している腕輪を渡した。今回の任務でフィオネに渡し、そしてカルマに渡った物ではある。あの日はあまり使用されてなかったのか、まだスキルが使用可能な状態でカルマから返されていたので、再びカルマに返した流れだ。(複雑だが、矢印としては、ネモ→フィオネ→カルマ→ネモ→カルマの順である)


 カルマはよく鍛えている。実際に胸板はものすごく厚いので、普通にシャツがパツパツに見える時があるくらいに、実は服の下は凄い。シスター・マングロウのようにボディビルダーみたいな筋肉の付き方はしていない。見た目が王子は筋肉の付き方も王子のようだ。クールな顔にごりごりな筋肉ムキムキは夢を壊してしまいそうになる。だから、服を脱いだら凄いんですということで、普段はそこまで目立った筋肉はついていない。


 だが、そんなカルマでもやはり限界は来るのだ。普段から何キロあるか分からない大盾を振り回して戦うカルマではあるが、体力の限界を超えたらその大盾すら回収できなくなってしまう。そこをネモの身体強化スキルの使用となる。前回の地下研究室での出来事を気に、シスター・マングロウからスキル付与をされているものを1個は身につけるように伝えられていた。ハウルがスキルを使用して作るのだが、そんなハウルもスキルを濫用すると意識が混沌としてしまうらしく、あまり連続で付与はしないよ、とあの胡散臭い笑顔で告げられてはいる。また、スキルが付与されている腕輪を2個以上の使用は、スキル過剰使用による体の負担が大きいため、使用するのは1個のみともシスター・マングロウからの指示が出ている。


 そのため、ネモにはフィオネスキルのが付与されたものを毎日付けていた。フィオネには、ネモの身体強化。そして、今回カルマにもネモの身体強化を渡された。これで限界値は延びる。盾は持ってこれないが、少なくともカルマが盾になりながら身体強化で逃げられるだろう。



「ネモ、力み過ぎだよヨぉ〜、そんな、吸血鬼の群れに突っ込んでいくワケじゃないんだからさァ〜。あたしもちゃんと持ってってるし、心配しなくていいって」


「それは知ってる。とりあえず、私はカルマよりフィオネが大切なだけ」



 ネモは変わらず、今回の任務でフィオネの傍に居られなかったことを後悔している。それをフィオネはよく知ってるのか、ネモの言葉に嬉しそうにはにかんだ。



「あまり、フィオネを誘惑するのはやめてもらっていいか」



 そんなネモとフィオネの間に手を差し込んでその眼差しを遮るカルマ。そして、ネモの隻眼をジッと睨んだ。あれだけお人形さんみたいなカルマだったと言うのに、随分と人間らしく欲を表すようになった。ネモは面白くないと言うように眉間に皺を寄せるが、ふたりの関係にネモが首を突っ込むのは野暮だ。それに、ネモはフィオネよりも長くは生きられないのだから、今のうちにフィオネはフィオネで別の道を示しててもいいもの。わかっているが、その相手がこのカルマというのが少しだけ気に食わない。話を聞いたところ、血筋だけを見れば立派な王子様ではないか。尚更に笑えない。そんなの、きっと苦労するに決まっている。



「フィオネの恋人だから大目に見るだけだから。フィオネに変なことしたらその下半身にぶら下がってるもん斬るからね」



 腕を組んでふんっと鼻を鳴らすネモも、鋭くカルマを睨み返す。カルマの中で、恋敵はクラウドではなくこの美貌の同僚である。カルマが持ってる切り札3枚――最近は(仮)が取れた――それを持ってしてもネモは強敵であった。むしろ、戦況で言えば最近(仮)がなくなった手札でしかネモと戦えない。腕を組んで上から目線でもぐうの音が出ないのも致し方ない。さらに――



「ネモ、過激過ぎる」



 隣でフィオネが、ケラケラと笑っているが、カルマに対してのフォローは特にないらしい。それが寂しいと思うか、フィオネらしいと言うかはカルマは後者だ。寂しいと思えるほどにフィオネを振り向かせてない自覚もあるので、今はこのフィオネらしさを堪能しているし、それを含めた所が好きなのだと言い聞かせる。



「さすがに相棒の俺から見ても可哀想になるからやめてあげて」



 ずっとそんな3人の横にいたアドビーが苦笑いを浮べる。



「アドビー、あたしがいない間にネモに手を出したらユルさないんだからねェ〜?」



 下から睨みを利かせているフィオネに、アドビーは呆れたようにため息を吐いた。



「20もいってないやつに手を出すかよ。未成年のおままごとじゃあるまいし」



 その言葉にカチンときたのはネモではなくフィオネであった。ピンではないがヒールの入ったパンプスの踵で思い切りアドビーの足を踏みつけると、アドビーは「ぎゃぁ」と態とらしい悲鳴をあげる。



「ネモの魅力に気が付かないくそオヤジは死ね。フロウの方がまだマシ!!」



 ふんと鼻息ら荒くフィオネはさっさと汽車へと乗っていく。そんな後ろ姿を見送りながら、隣でうずくまってるアドビーをネモは横目に見つめていた。



「兄さんの方がマシ……か」



 ぽつりとネモが零すと、アドビーは足に治癒術をかけきったのか体制を整えた。もちろん体を起こす途中でネモの呟きは聞こえたのか少しだけ慌てだす。



「アド、あとで後悔する前に、ちゃんと素直になるべきだ」



 カルマがアドビーにそう言って肩を叩くと、今度こそアドビーは何も言えないのか項垂れた。「だって、本当に俺の事好きなのか?ってなる時あるんだよな」なんてカルマにしか聞こえない声で呟く。カルマも、「まぁ、分かる」とアドビーの肩を数回叩いたら、先に乗ったフィオネの分の荷物も手に持って汽車に乗り込んだ。さすがに時間なのだろう。周りにいた雑踏が一気に静まり返った。他の乗客も乗り込んで、それを見送る人達がホームで自然と横並びしていく。


 そして、別れるそれぞれの声を聞きながら、汽車が先頭で汽笛を鳴らす。それと同時に勢いよく煙を吐いた。その様子を見て、もう出るのかとネモはセンチメンタルな感情となる。普通はネモとフィオネのように始終べったりにほうが珍しいのは分かるが、ネモとフィオネにとってたった3日。されど3日。離れるのは出会ってから初めてで、半身が消える感覚を覚える。


 そんな相方はネモが見えなくなるまで窓にべったりとはりついていた。


 その様子をカルマが不審げな表情で見ていたが敢えて何も言うことはなかった。何せ出かかった言葉を出してしまうと、ネモよりも己が劣っていると思うのがまざまざと分かってしまうからだ。あまりにもそれはつらい。あまりそういう事実は突き付けられたくはないので、カルマはフィオネを刺激するような下手なことを口にしないことを心掛けている。そうして、駅がすっかりと小さくなったところでフィオネはやっと椅子に正しく座りなおした。



「満足したか」



 やっとひざを突き合わせて座ることが出来た。カルマは、開口一番にそれを尋ねると、フィオネはふっくりと頬を膨らませる。どうやら満足は出来ていないらしい。そう可愛らしく拗ねられてもカルマには困るというもの。まだ付き合いたてでラブラブして熱々な関係のはずだと言うのに。どう見てもそう見えない。仕方がないのだ、フィオネにはネモが1番だし、ネモはフィオネが1番なのはあのふたりを見てても伝わってくる。それを理解している上に、それを理解した上で了承をしたのもカルマなのだ。致し方ないと言え少し虚しく感じてしまうのは欲が膨らんだからだろうか。


 だが、今目の前でむくれてるピンクも可愛いと思うのだからそれはそれで重症だろう。



「ナニぃ〜?」



 じっと見つめられると流石に気になるのかじっとりとフィオネが見つめ返す。ピンクに縁取られたまん丸い緑が、カルマを捉えるのは嫌ではない。おさなさの残る丸い頬に指を延ばして、ふにっと指先でつつく。それに満足気に笑うのだから、この人はほんとに変わった人だなとフィオネは視線を逸らした。


 頬をつつく時に浮かべた優しい眼差しに、不覚にも胸が高鳴ったのだから、顔面偏差値高い人は狡いのだ。移りゆく窓の外を眺めながらカルマと会話を続けていく。


 そうして、帝都から王都まてまだいたい2時間。帝都を南下したところにあるが、帝都に近い所にあるからなのか、汽車を降りれば頬に突き刺す空気。風が強いのか、帝都とは違う寒さを感じた。



「さっむ〜い」



 ふるっと肩を震わせていれば、ふんわりと首を包む温かさに目を丸くする。どうやらこうなることを見越していたのか、カルマは前もってマフラーを用意してくれていたらしい。


 フィオネ用に用意したわけではなさそうで、マフラーからはカルマの香りがする。それだけで、口元を引き結びたくなるような心の奥を擽られる感覚になる。



「ありがと」



 マフラーの下でもそもそとフィオネが口にすると、カルマの顔がパッと華やいだ。途端に、空気が一気に清浄されていく。公の場でそんな顔するのは反則である。普段から目立つ見た目ではあるが繁華街など人が多いところはカルマも埋もれているし、こういう王都の駅も人で埋もれるはずなのに、一瞬で空気清浄機になってしまえば目立ってしまっている。通りすがりの女性が一度はちらりとカルマを見ていく。流石にフィオネも気になってしまうので、自分の荷物を掴んで、もう片方の手をカルマの腕を掴む。



「行こう」



 そうやってせっついて腕を組んでいるので、随分とフィオネと距離が近い。腕と半身がしっかりと引っ付いている。柔らかいものが、腕に、しっかりと、当たっている、のだ。



「あ、ああ」



 途端に思考回路がショートしてしまうカルマは、フィオネに引っ張られて駅を出た。



「お待ちしておりました、カルマ坊っちゃま、フィオネ様」



 そして駅のロータリーへ出ると既に黒塗りの車の前でタキシードをビシッと着こなしたロマンスグレーの男性。その眼差しはとても柔らかかった。



「ああ、寒い中待たせてしまったな」


「とんでもございません、むしろ楽しみすぎて興奮した体が暑いくらいでしたので、冷やしてくれる風に助かりましたよ」



 そう言って、フィオネとカルマのてか荷物を受け取ると車の荷台に乗せていく。さっさと後ろを閉めてしまえば、再び穏やかな笑顔でフィオネを見た。フィオネはそれに肩を揺らすと、カルマの腕からするりと逃げようとしたが、それをカルマが許さないように逃げる手を捕まえる。流石に驚いて見上げると、不機嫌そうに視線を送られた。



「はははは……そうですか、なるほど、これは坊っちゃまは頑張って頂かないとですかね」



 楽しそうに笑いながら2人を車の後部座席に座らせる。何をそんなに楽しいことがあっただろうか。そんなことを思いながらフィオネは座り心地のいい車の座席に、流石は公爵家と素直に感嘆した。


 隣ではカルマが、運転席のロマンスグレーの男性と話をしている。カルマの性格上、和気藹々といった盛り上がりは見せてはいないが、それなりに口数が増えてるのでやはり身内と久々の再会は嬉しいのだろう。それを横で見ながら、カークランド家と蟠りが無くなった今ならもしかしてと思ったが、そもそも教会の人間は連合国に入れない。恐らく教会もいい顔をしないのだろう。カルマと使用人のやり取りを見て、少しだけ自分が手放した家族を恋しく思ったのは内緒である。


 そうこうして車に揺られてまた10分程。王都内と言っても、広い。トラヴィス王国は属国と言えど、やはりよく栄えていた。車の窓から見える都の街並みを見ながら、人の活気をよく感じとれていた。



「カークランド公国みたい」



 その活気の付け方が、港町をもつカークランド公国そっくりだとぼんやりと思った。この国とカークランド公国は国を1個挟んでいるので似ているはずは無いのだが、繁華街ではないというのに繁華街並に店がよく立ち並んでいる。そう、商売の街をしていた。カークランド公爵家は商売で成り立っている所もあってその賑やかさがとても似ていたのだ。


 だが、カルマはその意味の意図が読めずに顔を顰めた。



「ははは、まさかかの有名な商業国家と雰囲気が似ていると言われてしうと鼻が高いですね。トラヴィス国が商業国家に乗り出したのはカークランド公国よりも後ですから」



 運転席で嬉しそうに笑う男性にフィオネはなるほどと頷いた。だから雰囲気が似ているのか。そうひとり納得している横で、どういう事だと眉間に皺を寄せている。教会側は連合国を敵視してるあまりそういう部分の知識は薄い部分がある。情報操作か、教会側への連合国の上は少し遅れてくる。国の特色や、特徴などは特に見えないので分かりづらい。それでも潜入してる人たちが持ち帰ることも多いが、それを教育に入れるかは上の人たち次第である。


 フィオネのように元々はどこかの公国に属していた人間もいるため、語るかは別だが知ってる人は多い。現にフィオネなどはもと公爵家の使用人を目指していたこともあり、それなりの知識はある。勉強も苦手、頭良くない、そんなフィオネでも初恋(好きな人)は別だったからこそ、3年前までの知識であれば、実はそこら辺の人よりもカークランド公国に対しても、カークランド公爵家に対しても詳しい。それに、フィオネは別段カークランド公爵に恨みはない。更に言ってしまえば、親もいるので嫌えない。他の人のように吸血鬼に恨みを持っているかと言えば別である。ただ、逃げたかっただけなのだ。だから、上層の人たちにもあまりそういう情報を告げていない。ただ、匿ってほしい、そういえば教会は手を差し伸べる。フィオネはお会いしたことはないが、実際にこの世界には見えない神様がいて、善行を行うとその力が大きくなると教会は思っている。それに、教会の真ん中に立っている、巨木な聖樹(ユグドラシル)と呼ばれる年中枯れない不思議な力を持った木さえある。神様の話は真実味はないが、強ち嘘ではないのだろうとさえ思う。


 だからこそ、教会は黒くなれない。黒くなった途端に見放されてしまうのが分かっているから。汚職などはしない。だから皇国は清いと言われている。


 それでも、連合国に対しては別なのだからもっと根強い何かがあるのだろう。知らないが。


 だから、帝国生まれでも早い時期から皇国の教会に属しているカルマの知識が偏っているのは致し方ないところはある。逆に、長いことカークランドに尽くしていたフィオネの知識が偏っていることも致し方ないことなのだ。


 普段はネモと並べて頭が悪いだの、バカなの、阿呆などと散々バカにされてきたが今回だけは得意分野が降ってきた。どこかカルマへマウントをとるように腕を組むと得意げにふふんと鼻を鳴らすが、その姿はすでに小物感が溢れていた。


 そうこうして車で20分ほど、車内でフィオネは普段見せないカークランド公国の知識をカルマにひけちらかしていれば、あっという間に目的地へと到着する。両サイド、外から使用人が扉を開いてくれるので、それぞれがゆっくりと車から出た。



「おおおう、ふぅ~」



 車から出て一発目に飛び出た言葉は、感嘆なのか日和っている心を読ませないためのため息なのか。目の前に広がる大きな邸宅の豪華さに思わず漏れ出たのは事実だ。正直に言ってしまえば、今フィオネたちが所属している教会だって、神殿と居住区とどちらも十分に造りは豪華だ。カークランド公爵の邸宅だってものすごい広さがあるのだ。見慣れていると言われてしまえば見慣れているのだろうが、これが今お付き合いしている人の実家だと紹介されてしまえば流石のフィオネも気後れしてしまう。非公式とは言え、家柄も血筋も高貴な存在。皇帝からの指示がなければ何事もなくこの国の第一王子として生きていた可能性のある人。それを実感させられるほどに、その屋敷は権威の象徴であった。ごてごてしさはない。それでも広大な敷地に大きな邸に、歴史を感じる趣。シンプルな作りだというのに、豪華と思うのは建築家のお陰だろうか。


 そんなくだらないことを考えながら、口を開けて屋敷を見上げていた。その横で、カルマは手際よく二人分の荷物を持った使用人たちに指示を出していた。



「ようこそ、お越しくださいました」



 そして、ぼんやりと眺めていたフィオネにひとつ若い声が届く。飛行船で会った、同い年くらいの青年。綺麗な金髪に映える青を携えた、王子様よりも王子様然(実際は王子様ではあったが)としたカルマに雰囲気がそっくりな青年。



「お久しぶりです。あの時はご挨拶が出来ておらず誠に申し訳ございませんでした。カイルス・アーノルドと申します。カルマ叔父上の甥で、アーノルド公爵家の長男です」



 ふんわりと笑う愛想のいい笑顔に、きっとこの国のお嬢様の初恋泥棒は彼なのだろうと、くだらないことを考えるほどには、不覚にもフィオネも少しだけぐっときた。そんなフィオネですら乙女らしくときめいていれば、すぐに後ろから影が被さって視界が見えなくなる。



「久しぶりだな、カイルス」



 カルマの香りが近くから香る。背中に立つ気配は、フィオネよりも大きく、存在感がある。誰よりも前に出て皆の盾になるからなのか、思っていたよりも逞しい。そんなカルマの気配に、フィオネは自然と胸を高鳴らせた。これは不可抗力である、そう思って、フィオネは心の中で必死に最近習った聖書の一説を思い浮かべていた。



「……お久しぶりです。叔父上でも嫉妬なさるんですね」



 視界は真っ暗で目の前のカイルスがどんな表情で言っているかは定かではないが、その言葉は嫌味に聞こえてその本質はとても親し気だ。飛行船で会った時はもう少しよそよそしく感じたが、声音も柔らかである。だからか、手の向こうに感じるカルマからも怒りは感じない。



「そうだ」



 簡単に簡潔に正確に答えるだけ。それがまっすぐに届くから、フィオネは心の奥へと必死に閉まおうとしているその感情が引っ張られそうになる。


 足の底から一気に這いあがる熱は抑えられず、頭の先から耳の先まで熱がこもっているのがよくわかる。とりあえずは、背中にいるカルマの手を軽くたたいて見せる。いい加減真っ暗闇は苦手だ。ただでさえ視力上昇スキルを持っているのだから、尚更暗闇は得意ではないのだ。だから、両目を覆うくらいに大きな掌をそっとどかして見上げると、ネモとは違う海のように深い青がこちらを温かく見つめていた。



「冷えるから早く入ろう」



 ぶっきらぼうにそう伝えると、カルマはふっと笑った。

ここのくだり長くなりそうで、これだけで1章出来そうなのでいつか番外編でも作って書きます。これはここまでで次回からは3章へと突入させて頂きます。ただいま作成中ですので、不定期にて更新いたします。面白いと思った方、話が刺さった方などおりましたら、ブクマ・評価よろしくお願いします。

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