14.
【お詫び】
タイトルに11/23:2章完結の文字を入れておりましたが正しくは「11/24:2章完結」です。
日付を一日早送りで記載しておりました。大変申し訳ございません。
ここまでで2章「あなたと私でシャルウィダンス」をお送りしました、本日19:30にエピローグを投稿します。2章後には前回同様おまけもおいおいと準備しておりますので、引き続きよろしくお願いします
「そういえば、これ。カルマにあげる」
男たちを氷漬けにした一行は、その5名の意識を苦もなく綺麗に刈り取ると、今度は固定していた氷を溶かす。そうでなくては、彼らは意識がない間に凍死してしまう。そして、エンジン部の中を物色して見つけた麻縄で見事に5人をぐるぐる巻きにし始めたクラウドを眺めていた当たりで、フィオネは思い出した。
ポケットの中にあるものを取り出すと、それをカルマに向ける。鈍色に光るそれは腕輪だ。カルマはそれを受け取ると、誰かのスキルが付与をされているのは分かるが、なんのスキルかがわからないでその腕輪をかざして眺める。
「それ、今朝方ネモから貰ったノ。ネモのスキルを、ハウルを通して付与してもらったんだって。あたしも身体強化ジャないからサ。闘う時物凄く体力使うから、ネモ気にしてくれてて。普段はネモがあたしを抱えて飛んだり跳ねたりしてくれてくれてたシ、今日も恐らくそのつもりだったんだろうケド、念のタメに、って、今日の朝渡された」
しかもそれを今の今まで忘れていたのだ。何せ、フィオネにとっては随分と濃い1日だった。そんな朝の出来事はすっかりと頭の中から押しやってしまっていたのだ。仕方ない。決して忘れっぽいからではない。
それを聞いたカルマは、今まで忘れていたことを追求することもなく、すんなりなるほど、と頷いて受け取った腕輪を付けた。スキル付与されているものは、意思に反して勝手に作動するものと、意志を通して作動するものとでわけられている。その仕組みは、ハウルのスキルの特性なのだろう。今回は後者らしく、つけたからと言って直ぐに身体強化がかかるようでは無いらしい。上手く使わせてもらおう。これからもフィオネをずっと抱えて動くのだ。少しでも体を楽に動かせるに越したことはないし、恐らくフィオネもそれをみこして渡してくれたのだ。
カルマとフィオネのそんなやり取りの区切りと、クラウドが男たちを巻き付けるのは同じくらいだった。
「では、先に行こうか」
廊下に男たちを転がしながら、そう言ってクラウドは涼しい顔をして先頭を歩こうとした時だ。そっと、クラウドから動きを手で制された。途端に、奥から数名の人がぞろぞろ現れる。その姿は物々しく体には鎧を着て、帯剣している。どう見ても、準備された騎士たちだ。それに警戒を見せたクラウドの肩をカルマが軽くたたく。
「アーノルド家だ」
敵では無い、と安直にその声が聞こえる。目の前にいる、金色の髪に青い瞳をした美丈夫だが若い青年は、カルマを見ると少し驚いたような表情をした。何かを言いたげに口を開きかけて、その形のいい唇をきゅっと結ぶと、カルマの前まで出る。どうやら彼がこの人たちの中でリーダーらしい。歳の頃だとフィオネと同じくらいか。それを考えれば、若いと言ったら失礼な気もしなくもない。
「この先に賊などは来られませんでしたか」
青年はぴっと背筋を伸ばして、カルマを見上げている。身長はカルマが圧倒的に高い。青年はこれから延びるのだろう。その成長後に期待である。
(おや……?)
そんな2人のやり取りを見ながら、フィオネはふっと感じた違和感。
カルマと青年が並ぶとよくわかる。ところどころ顔の作りは違うのだが、よく似ている。髪色と瞳はさることながら、それでも見受けられる似ている点にフィオネは2人をひっそりと凝視していた。ここで、「ふたりはよく似ているネ」なんて声を出せば、会話を遮る上に空気が読めない女だ。藪から棒をつついたら蛇も出てきそうだったので、しっかりとお口にチャックを意識する。元々フィオネがうっかり口を滑らせやすい状況になっている時は、べらべらと喋っているときだ。だんまりを決め込んでいる時は、特に問題もない。
「来ていた。そこの、エンジン部がある部屋の廊下にロープで纏めていたところだ。回収をよろしく頼む」
「かしこまりました……あの、そちらのお嬢さんは」
まさか、フィオネたちに視線が行くとは思わなかったのか、控えめの確認だったが突然の話題転換に目を丸くする。
「ああ、俺の同僚兼、恋人だ」
「こい……ッ!?」
(まだその設定続くんだ)
しかも、恋人だと宣言した途端にフィオネを抱き抱えてる腕に力が入る。そのせいで、随分と言葉に力が入っているように思えてしまう。後ろにクラウドがいるからと言え、目の前の相手にフィオネが恋人だと強く言う必要も無い気がしたが。
赤の他人の彼らに、そう伝えても伝えなくても対して大きな問題はない気もするので、フィオネはここで下手な混乱を起こすわけもいかなく、素直に口を閉ざしていた。後にこれが面倒なことになるとは、こういう時は素直にそこまで引きずらなくていいと突っ込んだ方が良かったと頭を抱える羽目になる。
そして、恋人宣言をした途端からその青年の顔がみるみると赤くなり、何やら困惑したように視線が泳いでいる。更には、後ろの騎士たちもざわざわとざわめきたった。
「これは、おじい様にご報告しなくては……」
小さな声で呟く声は、さすがのフィオネにもしっかりと聞こえたし、カルマにも聞こえていただろう。
「ああ、頼む」
(え?!なんで?!)
何故、ここで頼むって出るのか。何やら、後に引けない雰囲気にフィオネはだんだんと冷や汗をかいてくる。
「わかりました。あ、では、先に賊を回収しますね。帝国にいる間にぜひ、1度恋人様もご一緒にお屋敷に顔を出してください。父も祖父も心待ちにしておりますので」
「分かった」
フィオネが何も言えないまま、2人でしか分からない会話が淡々と織り成すと、青年は一礼してカルマたちの横をすり抜けた。途中、何人かの騎士にカルマは肩を叩かれ、「おめでとうございます」と口々に祝いを述べられる。混乱をしているのはただただフィオネひとりであった。
颯爽と離れていくその背中を見つめながら、しんと静まり返るこの空間。カルマは素知らぬ顔で、「では、行こうか」と止めていた足を動かし始めた。
「まてまてまてまてまて」
それを止めたのはフィオネである。流石に今の流れの説明がないのはフィオネも困る。何やら、帝国の中でも偉そうな人たちであった。アーノルド家とはどこで誰でどのような立場の人なのか。さらにはアーノルド家とカルマの関係性をしっかり説明してもらわなければならない。流石にフィオネも、自身がよく分からない家の人たちの事情に巻き込まれてるのは見て取れるのだ。見えないところでしれっと外堀が埋められている気がしなくもない。しかも、帝国滞在中にその格式高そうなお家へお邪魔しないとならない気がする。
フィオネ自体、公爵家に出入りしていたのでそこら辺の礼儀作法は体がしっかりと染み付いている。むしろ、ネモよりは育ちがいい自覚はある。突拍子のない発言や、戦闘で見せる狂犬ぶりなどはある意味でフィオネの素ではあるが、制御かけた時のお淑やかさはそこら辺の令嬢に引けを取らない。あえてそれを見せることはしないが見せろと言われ、やれと言われたらしっかりとやりこなせる自信だってある。が、それとこれとは別である。
「しっかりと話セ!!全部話セ!!あたしを巻き込むなら全てまるっとぺろっとゲロってしまえ」
そう言ってカルマの胸ぐらを掴むと、ゆさゆさと揺さぶる。カルマもそんなフィオネにされるが儘に、かくかくと首が揺れる。その表情は無ではある。
「落ち着け、フィオネ。視界が揺れる」
「揺らしてんだヨ!!もう、あたしたちは恋人のフリする必要ももう無いんだからああいうの必要ないだろ!!!」
「え、恋人同士ではなかったのか」
そこに反応したのは、ずっと状況を見ていたクラウドである。元々は、男性恐怖症であるフィオネのクラウド避けのために出た嘘のはずだ。それが何故、帝国の由緒正しそうなお家柄の偉そうな人達に話が登る。
「説明しろカルマ殿!!フィオネとは恋人同士では無いという事実からまず話しなさい!!」
そうなるとクラウドが黙ってはいない。フィオネの揺さぶりと一緒にクラウドも横からゆさゆさと揺さぶり始める。このふたりは幼馴染だとは聞いていたが、こんなにもやることなすことが同じだとは思わなかった。
カルマの中で成程幼馴染とはこういうものなのか、と、幼い頃からタッグを組んでるアドビーを思い出しながら似てないと思いたいと願うばかりだ。
「話す、話すからまずは揺さぶるな」
少し言葉を強めに伝えると、揺さぶりがぴたっと止んだ。悔しいことにふたりは息ぴったりで、同じ表情をしている。その顔に少しイラッとしながらも、カルマはフィオネを片手に抱き抱えながら、崩れた服装を正した。
「とりあえず、出口に向かいながら説明する」
「勿論、フィオネを恋人だと偽ったところからだな」
「それは鏡を見つめながら自分で考えるんだな。それに、何も嘘にしなくてもいいんだ。俺は本気だ」
「えっ……」
それにびっくりしたのは腕の中のフィオネだ。流石に、カルマもその反応へいちいち返してしまえば、話は始まらないので「とりあえず向かうぞ」と歩きながら話し始めた。
カルマの出生はシャフリヤール帝国の属国である、トラヴィス王国である。その王国の代々騎士の家系で成り立ち、騎士団長を排出するような家柄に生まれた。それが、アーノルド家である。アーノルド家は、人間の国の公爵位を持ち、過去には王家の降嫁先としても上がるほどの由緒正しいお家柄。更には、騎士団長を代々務めていた事もあり国の重要ポストに位置する家系である。
その家系に生まれたカルマの母親はアイリーンと名付けられ、その家系に恥じない美しくも強い女性へと育った。
「……アイリーン・アーノルドか。帝国の現皇帝陛下の側妃の名前と一緒だな」
「そうだ。今は、アイリーン・シャフリヤールと名乗り、皇帝陛下の側妃として隣に立っている」
「え。まって、前起きから既におなかいっぱいなんだけど」
クラウドの言葉にカルマがサラリと返してきたので、流石のフィオネも待ったをかけた。教会の対吸血鬼部隊は基本まともな過去を持っていない。フィオネにしても、ネモにしても。それは一般的な人達からみたら憐れむようなものばかりであるし、複雑さ故に哀れを通り越して虚無になることの方が多い。
カルマも何かしらそういうのを持ってると思っていたが、既に胸焼けがしてならない。
アーノルド家の私生児で現アーノルド家当主の隠し子かと思ったら、まさかの皇帝陛下の側妃の隠し子だ。
「しかも、隠れてないからな。皇帝陛下も認知してる」
「もっと最悪じゃん!!!!」
「話を続けるぞ」
「この先聞くのが怖いンだけど」
そして、再び話が再開する。
アイリーンが14の時、現皇帝陛下への輿入れが決まった。しかし、アイリーンは、当時幼馴染だった2歳年上のトラヴィス王国、現国王であるファルア陛下に恋をしていた。そして、ファルアもそんなアイリーンに恋をしていた。要は、両片思いである。まだ、幼いふたりは感情の制御が難しい。勿論、ファルアの婚約者候補に入っていたアイリーンは、将来ファルアと結婚すると婆k理思っていたことから、とても大きなショックを受けたのだろう。
輿入れが決まったその日、アイリーンはファルアの元へと尋ねる――
「そして、その翌年に俺が産まれたってわけだ」
「端折る内容じゃないし、サラリと話すような内容でもないし、何よりもそのひとことの内容が濃すぎるからネ!!!」
貴族の結婚は早いと聞く。15歳でカルマを産んだということは、彼女は今34歳だろう。しかも、私生児にしても国王陛下との私生児である。笑えない上に、闇が深すぎる。
「成程」
クラウドはクラウドで納得している。そんな軽い納得でいいのか。小川の流れのように、さっぱりさらさらと話すカルマの感覚も分からない。無表情はいつも通りだが、淡々と当たり前に話す姿は見ているこちら側は少しだけどう接したらいいか分からなくなるのだ。
「まあ、現国王のファルア陛下も俺のことは知ってるが王家は俺を受け入れられなかった。皇帝の方も認知はしているし度々会う度にアイリーン似てきたと皮肉るが、あちらの方に受け入れてもらえていない現状もあるな。
そして、裏切ったはずの母だが、皇帝陛下はそんな母のキモの座った姿を気に入ったんだ。結果、裏切ったというのに婚約は解消もされず、幼い俺を置いて母は輿入れをした。それが、母への罰だった。ファルア国王は、その愚かな行いによって国の損失としての罰を受けたが、それ以外の優秀なところを買われた。更には皇帝陛下がアイリーン同様に気に入ったと言い、今の地位を支援した結果、国王の血を築けている。当初、まだ赤子だった俺は、帝国にも行けず、王家にも入れなかったので、アーノルド家に入ることとなったんだが……まあ、見ての通り複雑も複雑。使用人たちは腫れ物を扱うように接するし、祖父たちもどうしたらいいか分からないため、5歳の頃、結局は教会預かりとなった。
あの時は、何故教会へ預けられたのかは分からなかったが、後ほどこの話を祖父から聞いた。ああ、そうだ、俺のスキルは後発ではなく生まれつきだな。騎士家系なので、遺伝だな。絶対防御か身体強化の2択で前者となったらしい。戦闘系スキルは多くないためか、部隊に所属できたのもそれのおかげだな――」
とそこで言葉を区切った時だ、カルマはいっきに身動きが取れなくなった。フィオネが身を乗り出しカルマの首に巻き付くように強く抱き締めたのだ。さらにはクラウドですらその上からフィオネごと強くカルマを抱きしめていた。困惑するしかないカルマは、自然と足を止めて、強く抱き締めてくる男女二人にどういう顔を向けたらいいか分からなかった。
「もう、もう、もう!!!カルマの馬鹿。そんな話淡々と語るものじゃない!!!」
「貴様も苦労したのだなぁ、よくもまあ、こんなに真っ直ぐに育ったものだ」
突然慰めてくる元主従のふたりからは、どうしてかズビッと鼻をすする音が双方から聞こえる。どうやら、どこかの琴線で触れたらしい。お涙ちょうだいの話のつもりは無かったが、ふたりには壮絶な過去話だったようだ。
確かに、淡々と語られた上に、どこか剽軽に話していたこともあるが、よくよく考えてもみるとかなり壮絶である。王家と公爵家との間に生まれた血筋の良い子ども。しかも、しっかりと両親は認知している上に、公爵家のお姫様はさらに宗主国の側妃へ。属国側も認知はしているが受け入れられずに、赤ちゃんの頃から妃の実家である公爵家へ。高貴な血を受け継いでいるせいか、扱いに困る使用人や親族。その結果、教会へ。
そんな複雑な事情を抱えているこの王子系イケメン。王子よりも王子だと揶揄されることもあったが、しっかりと彼は王子である。しかも、側妃側で言えば帝国の、王国側で言えば王国の、しっかりと王子だったのだ。そんな王子が、全面に立って敵の攻撃を防御してるだなんて、誰が想像できたか。
フィオネだって予想外である。せめて、一般市民と貴族との間であれば、ありふれた私生児の話で、こんなに胸がはち切れそうにまるほどの気持ちにならなかったと言うのに。
柔らかい彼の金糸に指を沈め、その丸い形をなぞるようによしよしと撫でた。その掌目を大きく開いたあと、穏やかな笑みを浮かべたカルマは、腕に抱えているネモの背中を撫で、器用にもう片方の手をクラウドの背に回した。
話もひと区切りつき、ずびずび鼻を鳴らしていたふたりも落ち着いたころ、再び出口へと進んだ。その頃にはすっかりクラウドもカルマを見る目が変わり、さらには親近感を湧いている様子。としかしたらクラウドの中に、小さな友情をカルマに抱いている様子でさえある。
そんなカルマも敵対心のないクラウドに対しては至って普通で、同じ歳であるということもあってか会話は弾んでいた。
道中は途中ですれ違ったアーノルド家の騎士たちが捌いたのか、時折縛られている男たちがちらほら。完全に気絶して延びている。カルマも充分強いと思ったが、あの青年も充分に強かったらしい。それと同時に、どこにこんなに潜り込んでいたのかとさえ思える。全員が全員、顔と正装が似合っていないのだ。
出口に向かう最中は再び敵対する人たちと相対することもなく、スムーズに進んだ。渡した腕輪が不要になるくらいには、あっさりと廊下を通りすぎる。
そして、人の溜まっているところが視界に入った時だ、ズシンと鈍い音が船内に響いたと思えば先程まで鳴り響いていたエンジン音が次第におさまる。どうやら、着陸したらしい。安全確保をとれたとのことで大きく扉が開くと、溜まっていた人達がわぁっと外へと放出されていく。まるで、ダムの放出作業のように、それは止まらない波となって出ていく。
「だいじょーぶですよ~押さないでくださ〜い」
「大丈夫ですよ。扉は開きましたから、ゆっくりと押さないで進んでください」
そう言って人々を誘導しているのは、カルマもフィオネもよく見知った顔だった。どうやら、やっと、メンバーと合流出来たらしい。
その事実に、ほっとしたフィオネは、だらっとカルマの腕の中で垂れた。パーティー開始前にクラウドと遭遇して、そのあとからは怒涛だったのだ。流石のフィオネも気を張っていた上に浸かれたのだ。そして、ある程度人が落ち着いてきたあたり。人の波が落ち着いたためか、反対側が良く見えるようになったからか、誘導していたひとりがカルマたちの存在に気がついた。そして、そのひとりが目を丸くする。そして、カルマたちに容赦なく指をさした。
「ああああああ!!!カルマとフィオネだぁ!!!!」
派手な格好と、濃い化粧。明るい金髪は腰までの長さもあるが、しっかりとコテで巻いて整えている。カルマと同じ絶対防御のスキル持ちであるビビだ。
その声に、反応したように通路に素早く入ってくる影。それはもう、目にも止まらない速さである。巨大Gの出現かと言わんばかりのその速さに、反応したのはカルマの腕にいるフィオネであった。
「ネモ!!!」
「フィオネ!!!」
フィオネはカルマの肩を掴んで踏み台にし、思いっきりカルマの腕の中から飛び出した。
「うぉっ……と」
そんな行動をすると思っていなかったカルマは、体制を崩して、後ろへと倒れていく。それも気にせずに、フィオネはネモに思い切り腕を広げ、ネモもフィオネに思い切り腕を広げて抱きとめた。
「ああ、フィオネ。良かった……無事だったんだ」
「ああ、ネモ、良かったァ……無事だったんだネ」
ふたりの言葉はそっくりで、ふたりして熱い抱擁を交わし、ふたりだけの世界を作っている。こんなにふたりして離れたことは滅多にない。寮でも基本部屋は隣同士だし、皇国にある自宅も隣同士だ。なんだったら、ほぼ半同棲状態なのもあり、ふたりが離れ離れになることは滅多なことがない限りない。ふたりして意識不明の時でさえ、同じ病室でベッドを並べていたほどだ。
ネモはフィオネの温もりを、フィオネはネモの温もりをしっかりと堪能しながら、お互いの頬に頬を擦り寄せていた。それはもう、一目も気にせずにべたべたいちゃいちゃと。
それを、カルマはクラウドの腕の中で虚無の境地で眺めている。体制を崩したカルマを支えたのは、その後ろにいたクラウドてある。しっかりとした胸板に、爽やかなシトラスの香りがする。そんなもの、腕の中にいた柔らかなフィオネに比べると数倍も魅力を感じない。
「恋敵は俺ではなくてあっちの方が強敵だぞ」
そう言って、指をさすのは熱い抱擁をし、いちゃいちゃらぶらぶとしているペアだ。なんだったら、再会のチューとか言って双方の頬に口づけをしているくらいである。熱々なのは、カルマよりもネモであるのはどこからどう見ても明らかであった。そんな光景を少しだけおかしそうに目を細めながら、クラウドは笑った。
「ああ、その通りだな」
次でこの章は最後なので、2本まとめて投げます。