第6話 貴族の移動手段としての馬車
今回は貴族たちが乗っていたであろう馬車のお話をしましょう。
おそらく馬車の資料を探していて、お困りの方は多いと思います。
十六世紀後半にヨーロッパ諸国の支配階級おいて馬車の使用がステータスになりました。
同世紀末までに馬車は貴族階級の主要な移動手段となり、17世紀には板バネによるサスペンションを備えた馬車が登場したようです。
やはり貴族の乗り物としての馬車も近世中盤からの登場ですね。
はたして馬車の乗り心地とは如何なるモノだったのでしょうか。
まず、皆さんが運転する自動車にハンドルが無くて、ブレーキが無かったらどうします?
もちろんバックも出来ません。
馬が曲がってこそ馬車も曲がるのです。
道路もガタガタ、轍やくぼみ、水たまりと劣悪です。
強烈な揺れとダイレクトな突き上げを体感する事が出来るでしょう。
この辺は吊り下げ機構や板バネのサスによって改善されていきますが、アブソーバーを持たないサスペンションはいつまでも揺れが収束せず、強烈な車酔いを引き起こした事でしょう。
さらにぬかるみにハマって立ち往生、馬の暴走、石に乗り上げて横転などは日常茶飯事であった様です。
馬車の破損、故障は多かった事でしょう。
まあ、『タウンコーチ』なんて馬車のカテゴリーがありますから、普段は市中の街乗りが主な使用だったと思われますが、領地に帰る時など長距離での使用もあったでしょう。
おそらくその時は、我慢大会で大冒険であったに違いありません……。
■王侯貴族の馬車のイメージ、そして構造
王侯貴族の馬車は、馬二頭立ての閉鎖されたキャビンを持つ『コーチ』が該当します。
室内は前後対面座席で前三名、後ろ三名。豪華な革張りのベンチシートです。
扉は片側もしくは両側。
だいたいこんなイメージで間違いないでしょう。
ちなみに裕福な貿易商などが使う大型の荷馬車は『ワゴン』に分類されます。
さて、細部を見て行きましょうか。
キャビン前部には御者が座る『御者台』が高い位置にあります。
外径の大きな木製の車輪は、ハブと放射状のスポークとリムで構成されています。
木製車輪の接地面の摩耗対策として、車輪外周には鉄輪が付けられています。
馬車は構造的には、フレームを組んで前後の車軸を固定し、その上にキャビンを乗せる仕組みでしょう。
キャビンは黒系や深い茶系の塗装が施されています。
ピカピカに磨き上げられて『景色を映している』なんてイメージですよね。
扉には誇らしげに紋章が描かれたりしています。
馬車工房のコーチビルダーは当時、花形職だったようです。
ジョセフ・エドマンドソンは馬車塗装工としての仕事から紋章学と系譜学に興味を持ち、最も有名な作品は、紋章5万点を包括的に記述した『紋章学全書』を残しました。
1764年に出版した貴族家系図を皮切りに紋章学と系譜学の作品を多く著した、その道の権威です。
多くの貴族から家系図や紋章の作成また更新を依頼される売れっ子だったようです。
■馬車の速度
時代によって所説みかけますが、馬の牽引力や馬車の性能より、圧倒的に道路状況が馬車の巡航速度を左右した事でしょう。
人の速足の二倍ほど、時速十キロメートルで巡航できれば御の字です。
馬や人間の休憩タイムはかなり長く取らなくてはいけません。
■馬車に関するキーワード
ロータリー……馬車はバックが出来ない。切り返しも出来ない。
馬車寄せ……王宮や大貴族の屋敷には馬車乗降スペースがあった。
馬車止め……馬車寄せと同意、もしくは馬車を待機させるスペース。
馬繋ぎ場……馬車に限らず、馬を繋ぎとめておくスペース。
馬小屋……馬のおうち。
馬車小屋……馬車庫。
御者……馬車を御する人。馬車を操縦する人。『運転する』とは書かないように!
御者台……御者席。御者が馬に指示を与える席。
キャビン……客室内、または客室構造自体。
タラップ……キャビンが高位置だとドア下に付いている。
暖房・冷房……あるわけない! 魔術なら可能か。
轅……(ながえ)(長柄)馬車から前方に長く突き出ている左右2本の棒。先端に軛をつけて牛や馬にひかせる。
軛……(くびき)轅と固定するための横棒・道具
頸環……(くびわ)馬が馬車や農耕具を曳くときに首にかける馬具
輓具……(ばんぐ)軛を含み車両やソリを牽引する機構全体
輓獣……(ばんじゅう)は、車両やソリ、農耕具などを牽引させるための使役動物。
上記用語とは別に『馬車ハーネス』という言葉も見つけました。
ちょっとアメリカンな感じがして、ファンタジー小説には使いづらいか……。
馬車に関する用語は、現在の自動車にも多く引き継がれているのが興味深いです。
輓獣は、ファンタジー世界では、巨大トカゲだったり、チョコボだったり、フィーロちゃんだったりもします。
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