第5話 王侯貴族の社交界
労働から解放されている貴族階級ですが、社交に関しては相当なエネルギーを費やしていたようです。
今回は貴族達の社交を見て行きましょう。
■晩餐会
晩餐会とは、夕食の時間に、正餐を供する宴会です。
筆者的には現在のような正式な晩餐会をナーロッパファンタジー小説に登場させるのは、とても難易度が高いと思います。
晩餐会とは最も格式の高い夜会です。
通常夫婦連名宛の招待状があって、身分によって席次が決められています。
招待状のドレスコードに従います。
ちょっと気になった事は書籍化されたファンタジー小説でも、晩餐会と称して立食パーティーだったりする描写を見かける事。
これはちょっと違和感を覚えます。
現実世界の史実的にも『晩餐会』より『夜会』や『舞踏会』を使ったほうが自然でしょう。
*晩餐会のキーワード
招待状……貴族社交界では、来た! 来ない⁈ で大騒ぎしたらしい。
席次……席次表がある。主宰者が決める。これも騒ぎのネタになった。
ドレスコード……格式が高い順に『正礼装』『準礼装』『略礼装』の三種類。
イブニングドレス……女性の正礼装。夜会服。華やかさが求められる。
ローブ・デコルテ……肩、背中、胸の上部の鎖骨を露出させたドレス。
燕尾服……テールコート。最も格式の高い正礼装。ホワイトタイを着用。
タキシード……燕尾服の簡略版。ブラックタイを着用。正礼装もしくは準礼装。
■舞踏会
西洋における正式なダンスパーティー。
さて、ファンタジー小説においても舞踏会で強調されるのは、『集団婚活』の舞台である事でしょう。
なろう異世界恋愛小説では『婚約破棄』が告げられる最高の舞台です。
まず貴族令嬢達は、年頃になると『デビュタント』を迎えます。
我々がよく使う『デビュー』の語源ですね。
デビュタントの起源は、17世紀のイギリスで始まりました。
当初のデビュタントはパーティーのようなものではなく、君主への正式な紹介である厳正な式典でありました。
デビュタントは、貴族の女子が一人前のレディと認められ、恋愛結婚の対象になったことを意味しています。
デビュタントの初舞台となる舞踏会のことを『デビュタントボール』といいます。
彼女達は、純白のドレスを身にまとい、白いオペラグローブを合わせて臨みます。
逆説的に、デビュタントを終えた淑女たちは、白いドレスを着る事が出来ません。
『デビュタントボール』って使えると思いませんか。
「貴族令嬢の人生最初の大舞台……」なんて感じで。
オペラグローブとは、女性用礼服として着用される、肘を越え上腕中央かそれ以上(脇~肩付近)まで至る長い手袋の事です。
そしていよいよ舞踏会の始まりです。
一曲目がスタートすると、招待客のなかで最も地位が高い男性と、主宰者である女主人(あるいは娘)が踊り始めます。
その後夜のあいだ、若い男女が次々とパートナーを変えて、踊り語らいながら結婚相手を見つけました。
四曲以上同一の異性と踊る事はマナー違反とされていました。
食事は別室に軽食が用意されていて、サンドウィッチやスコーン、フルーツ、ワイン等で空腹や喉の渇きを満たし潤しました。
いつの時代でも残念な事に『恋愛対象の格差』は存在しました。
当然、当時の舞踏会でもそれは露骨で、いわゆる人気の無い令嬢は男性からパートナーの申し込みをされず、壁際で待機する事になるのです。
いわゆる『壁の花』ですネ。
令嬢たちは壁に飾られる事をとても恐れていました。
男性側も世知辛いですよ。
家督と財産を継げる長男(嫡男)に人気が集中しました。
家督を継げない次男以下だと、ランクが落ちてしまうのです。
現代日本と真逆でしょうか……。
やっぱり対象外にされてしまう男性もいて、彼をあしらえなかった女性たちは仕方なく踊り、ようやく別の場所へやり過せると、ほっと胸をなでおろした様です。
■お茶会(アフタヌーンティー)
貴族社会でお茶会(アフタヌーンティー)が始まったのは、なんと19世紀の中頃から。
中世・近世ヨーロッパには影も形もありません。
しかしナーロッパ世界の貴族令嬢の方々は、当然の如くお茶会を楽しんでおります。
よって時代考証は全く無視して話を進めます。
よくアニメなんかでも王侯貴族令嬢たちが、庭園に立てられた柱と屋根だけのお洒落な建物でお茶してるじゃないですか。
あの建物を『ガゼボ』と言います。
でもガゼボって書いても誰も解らないですよね。
小説ではなんと表現しましょうか……。
『洋風の東屋』とか『白い大理石の柱が~』とか、壁がないのが特徴なので『吹き込むそよ風が~』なんて使えると思います。
ガゼボの構造は柱が四本もしくは八本、円形もしくは八角形の屋根が多いです。
そしてよく登場するのが『ティースタンド』もしくは『ケーキスタンド』ですね。
三段式が豪華でよいです。
下からサンドウィッチ、スコーン、スイーツ(デザート)の順です。
そして下から順番にいただいていきます。
スコーンからサンドウィッチに戻るのは、マナー違反とされています。
上流階級の人達の間では、このお茶会で、どれだけセンスと歴史のある磁器や銀器を使えるか、またこだわった料理やお菓子を優雅にサービスできるか、インテリアがどれだけ洗練されたものなのかなど、多くにこだわりながら開催しました。
去年『ヌン活』という新語が流行しましたが、これ、ファンタジー小説にも使えると思いませんか!
名門貴族のお茶会の情報を仕入れては積極的に参加のチャンスを作り、野心を持って交流の輪を広げていく! みたいな。
異世界恋愛小説などでは、お茶会は重要なイベントです。
しかしリアル世界では、紅茶の普及は17世紀から、お茶会は19世紀からの登場であった事は覚えておいてください。
突っ込まれた時は「そんなのは百も承知!」と開き直りましょう。
それでは貴族のマダムや令嬢たちは『なにをやっていたの?』といえばサロンです。
■サロン
サロンとは、王侯貴族の貴婦人が日を定めて談話室に客人を集め、文学・芸術・学問その他文化全般について談話を楽しんだ社交界の風習を指します。
フランス文学に与えた影響は大きく、サロン文学という言葉さえあります。
恋愛小説もサロンから生まれたようですよ。
この時代の女性たちは、貴族にしても平民にしても相対的には学問とは縁が遠かったようですが、なかには才能を見せる女性も存在していました。
■貴族の挨拶
*男性の挨拶は『ボウ・アンド・スクレープ』といいます。
(bow)敬意の挨拶(scrap)男性のお辞儀
お辞儀する時に右足を引く動作を表す。このような動作を行う時、男性の右腕は腹部に水平に当てられ、左腕はやや斜め後方に差し出す形が典型的。
右腕をクルクルッと廻してから腹に添える、キザなパターンもありますね。
クリップスタジオで、木与瀬ゆらさんが素材提供されていたのを見つけましたので、貼っておきます。
*女性の挨拶は『カーテシー』といいます。
スカートであれば、両手でスカートの左右を摘まみ少し持ち上げ、右足を左足の後ろ側に引いてかかとを上げ、両膝を曲げ、腰を落とす感じ。
本物のカーテシーを見ると予想以上に両膝を曲げています。
次回は貴族たちの使用した馬車を取り上げます。
引き続きお付き合い下さい。
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筆者の代表作『導きの賢者と七人の乙女』では貴族社会には結構気を使って書いています。
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