第3話 貴族階級<爵位>
ファンタジー小説で王侯貴族が出てくる小説を書く時に引っ掛かるのが、その身分制度や地位の違いによる呼び方だと思います。
特に敬称ですね。
最近なろうを席捲している異世界恋愛物でも、主人公は侯爵令嬢など、かなり身分の高い貴族の娘に設定されている事が多いでしょう。
ファンタジーフィクションのジャンルなのだから、貴族制度について曖昧でも、ある程度は誤魔化しが効くかもしれません。
また、この物語はこういう世界で、こんな身分制度があるのですよ! とオリジナルで構築してしまうのも、不可能ではないでしょう。
しかしそれでは読者に説明するのは、かなりの重労働で効率が悪い。
そんな事を延々と説明した所で、読者にとっては苦痛意外何物でもありません。
ここはナーロッパという共通の世界観を利用するのが最善の一手であると考えます。
史実に基づいたある程度のリアリティにスパイス程度のオリジナリティーが良策ではないでしょうか。
そもそも貴族とは、『ウィキペディア(Wikipedia)』から引用すると……
“特権を備えた名誉や称号を持ち、それゆえに他の社会階級の人々と明確に区別された社会階層に属する集団。”
“一部では現代まで続いているヨーロッパでの貴族制度は古代の影響を受けつつも、中世に形成された部分が大きい。特に封建制と専制君主の普及はヨーロッパ貴族の性質に大きな影響を及ぼした。公爵・伯爵といった中世時代に一般化した新たな貴族称号は、当初は君主から特定地域の支配権を付与される代わりに、防衛や戦力提供の義務を負う軍務制度として設置されたものだった。”……引用ここまで。
■爵位(貴族称号)について
読者側から見ても、貴族の爵位については現実世界に基づいた正確性を求めています。
しかし現実世界のヨーロッパにおいて、イギリスやフランス、ドイツ、スペインなど若干のニュアンスのズレがあるようです。
筆者的には解りやすくするため、自分の拙作では貴族階級を以下の様に定めて使っています。
王国では、国王―侯爵―辺境伯―伯爵―子爵―男爵
帝国では、皇帝―(公爵)―侯爵―伯爵―子爵―男爵
公国では、公爵-伯爵―子爵―男爵
(1)公爵
まず筆者の考えなのですが、公爵家を登場させるのは、『ちょっと難易度が高いかな⁈』と思っています。
公爵って貴族階級の最上位である事は間違いないのですが、かなり紛らわしいのですよ。
それは三つの理由があります。
一つ目はかつての日本の華族令では公爵、侯爵、伯爵、子爵、男爵の五爵制による順位付けがあった事。
対してヨーロッパにおける公爵は、国王の資格を持たないが、君主として統治する国を持てた爵位です。
現実世界では、ルクセンブルク大公国、モナコ公国、アンドラ公国、リヒティンシュタイン公国などが実在しています。
二つ目は公国の国家元首としての呼称の違いです。
公国の国家元首は大公・公王・公爵と呼び分けられています。
実質的な支配は同等でも、王を名乗る権利があれば公王(大公)、無ければ貴族階級の公爵まま呼ばれます。
この国王ではないけれど『公王』という呼び方に矛盾を感じます。
これは日本語での翻訳が曖昧であった結果であるような気もするのですけど。
三つ目は単純に『公爵』と『侯爵』のひらがな読みが同じ事。
公国の元首が公爵になるのではなく、『公爵が元首になる場合に王国を名乗れなかった』が正確です。
さらに公王・公爵の敬称も迷います。
公王の場合は「陛下」でしょう。
公王は国王ではありませんが、日本語では王と書く以上、『陛下』と呼んでよいと思います。
当時の中世・近世ヨーロッパではどうだったかは分かりませんが……。
公王ではない公爵を呼ぶ場合は、「閣下」です。
同等身分や高い身分(皇族など)から公爵を呼ぶ場合は『~卿』と呼びます。
皇帝「ヘッグルント卿よ、久しいな」
公爵「皇帝陛下におかれましては~」
家臣「公爵閣下に至急お知らせしたき議が~」
家臣「こちらにおわすお方こそ、ヘッグルント公爵閣下であらせられるぞ」
公王の子は「殿下」、その妃は「妃殿下」になります。
公妃殿下や公太子妃殿下。
(2)侯爵
侯爵は辺境伯より分離した爵位のようです。
時代と共に区別されたようですが、共通する事は国境防衛の重責です。
侯爵は王国内では最高位の貴族であり、小説内では王家の外戚や、王妃候補がでる家柄に相応しいのではないでしょうか。
正式な場で呼びかける時の敬称は「閣下」
(3)辺境伯
辺境伯は、主に隣国の脅威の防衛を任された重要な爵位です。
広大な領地を持ち、とてもチカラがある貴族です。
ナーロッパ小説では辺境伯令嬢は田舎者として扱われ、その設定によりストーリーが展開していたりします。
辺境という言葉が田舎を連想させるからでしょう。
実際は王家に次ぐような大貴族の令嬢なのですけど。
正式な場で呼びかける時の敬称は「閣下」
(4)伯爵
小説の作中で上級貴族として最も使い易いのが伯爵でしょう。
王族を支える側近で、地方に領地を与えられています。
また地方に領地を持たない『宮中伯』と呼ばれる行政を担う役もあったようです。
王家の外戚であったり、娘が王妃候補だったり、はたまた借金まみれの没落貴族だったりと伯爵位は非常に使い易い爵位だと思います。
正式な場で呼びかける時の敬称は「閣下」
格上の国王や侯爵からは「○○○○卿よ……」と呼びかけます。
(5)子爵
伯爵の下位、『副伯』という意味で中堅の貴族称号です。
子爵は伯爵の嫡男が本家の爵位を継ぐまでの名乗る爵位だったり、伯爵家の分家の当主が名乗る爵位としても使われていたようです。
小都市や小城主など、地方の領主としての爵位でしょうか。
どちらかといえばマイナーな爵位です。
正式な場で呼びかける時の敬称は「閣下」
(6)男爵
一番位の低い貴族。
地方の小領地を治める貴族です。
裕福な商家の娘が貧乏な男爵家に嫁ぐなんて、よくある話です。
正式な場で呼びかける時の敬称は「閣下」
(7)騎士(英・ナイト)(仏・シュヴァリエ)(独・リッター)
中世ヨーロッパといえば騎士でしょう。
国家や君主に尽くした功績に対する褒美として与えられた名誉的称号です。
主君が騎士の称号を与える時、目の前に膝まづかせ、剣の刀身を横にして、肩をポンポンと叩いて忠誠を誓わせるシーンは有名ですね。
通常は一代限りの称号で、世襲はできません。
ファンタジー小説では世襲もアリかもしれません。
王家に直接仕える騎士もいれば、貴族に仕える騎士もいます。
また王家の場合は近衛騎士団という特別職が有ったりします。
まあファンタジー小説の定番ネタですね。
正式な場で呼びかける時の敬称は「○○○○卿」でよいでしょう。
『騎士道』とは騎士階級の行動規範です。
初期の騎士たちは領地で武器や鎧を独占して、滅茶苦茶やっていたらしいです。
度重なる十字軍の遠征でも残虐非道の限りを尽くしていましたしね。
それを抑えるためにキリスト教的教えが長年説かれ、中世盛期にやっと騎士の行動規範が形付けられました。
時代と共にそれは美化され、主君への忠誠や、貴婦人への献身などが徳とされました。
特に主君の奥さんが忠誠の対象となりました。
現代的にはちょっと違和感はありますが、ロマンチックな感じはしますね。
(8)貴族の夫人・息子・娘の呼び方
貴族の夫人の呼び方は簡単に爵位の後に夫人をつければ問題なし。
公爵夫人、侯爵夫人、伯爵夫人、子爵夫人、男爵夫人となります。
さて貴族の息子や娘の呼び方はちょっと迷ってしまいます。
ヨーロッパでは、爵位は当主が持っている地位であり、子供達が親の爵位を名乗る事はありません。
敬称は「令息」と「令嬢」になります。
ちょっと例文を作ってみましょうか。
正確とは言い切れませんが。
拙作のヒロインで伯爵令嬢のエジェリー・バイエフェルトの名前を使います。
「エジェリー・バイエフェルトと申します。どうぞお見知りおきを」
「おお、バイエフェルト伯爵家のご令嬢ですな。なんとお美しい!」
「バイエフェルト伯家のエジェリーと申します。ごきげんよう」
「エジェリー嬢、一緒に踊っていただけませんか」
こんな感じで如何でしょうか。
(9)貴族の表現例
王侯貴族 上級貴族 上流貴族 上位貴族
中級貴族 中流貴族 中位貴族
下級貴族 下流貴族 下位貴族
門閥貴族 名門貴族 名のある貴族
中央貴族 地方貴族 田舎貴族、辺境貴族
新興貴族 成り上がり貴族
貧乏貴族 没落貴族 名ばかりの貴族
腐れ貴族 豚貴族 外道貴族
(10)爵位の変更
叙爵……ラインハルト・フォン・ミューゼルは伯爵位を賜り、名をラインハルト・フォン・ローエングラムと改めた。
封爵……王国一の勇猛で知られるカールソン家は国防の要の地に封爵され辺境伯となった。
昇爵……ラインハルト・フォン・ローエングラムは武勲を上げ、伯爵から侯爵へと昇爵した。