第2話 ファンタジー世界の国家
『悪役令嬢』『婚約破棄』モノなどのファンタジー小説でも、必ず王侯貴族社会が舞台となっています。
主人公の貴族令嬢は『何時の時代のどこの国の貴族?』……と、この設定はしっかり押さえないと突っ込みどころ満載の小説になってしまいます。
このエントリーでは、ファンタジー小説で必須の国家について見て行きましょう。
■国家の国号の違い
国家の国号は主権者(統治者)によって分類されます。
それでは順番に見て行きましょう。
(1)王国
王国とは、王が君主として統治する国家です。
現在、リアル世界で存在している王国としては、『デンマーク王国・スペイン王国・オランダ王国』などが挙げられます。
ファンタジー小説を書く上で、最もシンプルで使い易い国号だと思います。
ただし、一つだけ注意しなくてはいけないのは、王室と臣下の諸侯たちのチカラ関係です。
詳しくは後程『ナーロッパ世界の軍事力』で解説しますが、封建制度下で領土を持つ貴族たちが存在するなら、国王の強大な常備軍はありえません。
*豆知識*
「封建」とは正確には「封侯建国」といいます。封侯建国は「諸侯を封じて(土地と人民を与えて)国を建てる」という意味を持っています。
(2)帝国
帝国とは、皇帝が統治する国家という意味の言葉です。
現代の世界において帝国を名乗る国は存在しませんが、かつて呼ばれたものとしては、大英帝国や大日本帝国、オスマン帝国やドイツ帝国などが挙げられます。
帝国と王国の違いは、簡単に言えば『統治者が皇帝か王か』という事と、統治範囲が異なる点です。王が1つの国や民族のみを統治しているのに対し、皇帝は複数の国や民族を支配下に置いている点が特徴です。
『公国などの属国を従えている』『植民地を有している』といった図式が解りやすいでしょう。
(2)公国
国王ではなく、大公・公王・公爵のいずれかが統治する国。
筆者的には使いづらいのが、この公国だと思います。
理由は次回の貴族階級<爵位>で説明します。
単に小説上で扱う時、紛らわしいといった理由なのですけど。
(4)共和国
なろうファンタジーで滅多に登場する事がないのがこの共和国。
イタリアの中にあるサンマリノ共和国は、世界で最も古い共和国であり、唯一生き残っている都市国家です。
ヨーロッパおよび世界の民主主義発展の重要な変遷を代表しています。
サンマリノは西暦301年に創設されたそうです。
16世紀後半に入るとネーデルラント北部の7州が連合して独立し、1609年にネーデルラント連邦共和国を建国しています。
共和国とは、共和制をとる国家のことです。
共和制とは、国家元首の地位を個人(君主)に持たせない政治体制です。
共和制では、国家の所有や統治上の最高決定権(主権)を個人(君主)ではなく人民または人民の大部分が持ちます。
共和制では、国民が直接・間接の選挙で国の元首を選ぶことを原則としています。
国民が選んだ代表者たちが合議で政治を行います。
ほとんどの場合、共和制の代表は「大統領」と呼ばれます。
余談ですが……。
立憲君主制は、三権分立の原則を認めた憲法に従って、君主の権力が一定の制約を受ける政治体制です。
絶対君主が市民階級の台頭と妥協した結果生まれたもので、国民の権利の保護を図っています。
立憲君主制では、法律の制定や課税には議会の承認が必要です。
立憲君主制の例としては、イギリス、タイなどが挙げられます。
日本は現在の天皇は『象徴』ですので、立憲君主制ではなく立憲民主制です。
(5)連邦
一つの国ではあるが、国家の中に独立国並みの権力を持った国や領土が寄り集まってできているのが特徴。
リアル世界ではドイツ連邦、ロシア連邦などがあります。
また英連邦のように独立国が集まった形態も存在します。
なろうファンタジーにはあまり登場する事は無いでしょう。
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国号の分類が終わったところで、次はその国の主権者・統治者を見て行きましょう。
■国家の統治者
王国……国王が統治する国
帝国……皇帝が統治する国
皇国……天皇が統治する国
公国……大公・公王・公爵が治める国、侯の治める侯国もある。
共和国……共和制によって治められる国。 君主が統治しない国家形態。
■敬称
次は敬称です。
敬称とは人名や官職名などの後ろにつけて、または単独に用いて、その人に対する敬意を表す言葉ですね。
王室を例にしますので、帝国の皇室はそのまま王を皇に置き換えれば大丈夫です。
王……陛下
王妃……殿下 国王と同席の場合は夫婦合わせて『両陛下』と呼ばれる。
王子……殿下
王女……殿下
王太子……殿下
王の父(先王)……陛下、または爵位などで呼ばれる。
王の母(王太后、母太后)……陛下 「国母様!」なんて尊敬を込めて呼ばれたりもする。
王の兄弟……殿下 既に独立していれば貴族の爵位で呼ばれる
王の姉妹……殿下 嫁いでいる場合は夫の爵位の後に妃、夫人
女王の配偶者である王配……殿下
「マーガレット王女様、ご機嫌麗しゅう……」なんて公式の場で話しかけたりはしませぬ。
「マーガレット殿下、ご機嫌麗しゅう……」が正解。
日常的に親しき者が「王女様・姫様」と呼ぶのは問題ないでしょう。
■王家に関するキーワード
王位継承権……王様を継ぐ権利。王位継承権第一位とか、皇位継承権とか。
即位……皇帝・国王・教皇がその位に着くこと。
退位……皇帝・国王・教皇の座から退くこと。生前退位は少ない。
崩御……皇帝・国王・教皇が死去すること。
玉座……物理的には王の座す椅子を指す。『玉座を狙う』なんて使い方もする。
婚約……結婚の約束の取り決め。婚約した相手は婚約者。
婚約破棄……ナーロッパではなぜか大流行している。慰謝料が気になる所。
許嫁……幼い頃に婚約した相手。当人の意思は関係なく、両家で決められる。
簒奪者……特に王位、皇位を盗む人。ラインハルトがよくこう呼ばれた。
世継争い……お世継ぎ問題。王位や爵位の継承権争い。派閥が密接に絡んだりする。
降嫁……(こうか)皇族、王族の娘が家臣の貴族に嫁ぐこと。
戴冠式……国王・皇帝が即位の後、公式に王冠・帝冠を聖職者等から受け、王位・帝位への就任を宣明する儀式。
成聖式……キリスト教国では、高僧が新君主の頭に聖油を注ぎ、神への奉仕を誓わせる儀式が主体となる。戴冠式と同意の事も。
紋章……個人および家系を始めとして、公的機関、組合、軍隊の部隊などの組織および団体などを識別し、特定する意匠又は図案である。
国璽……(こくじ)国家の表徴として押す璽(印章または印影)。外交文書など、国家の公式文書に押される。
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■ 一夫多妻制を容認するか? 問題!
太閤豊臣秀吉の世継ぎは秀頼君。
我々日本人にとってこの事実は全く違和感がありません。
しかしキリスト教圏のヨーロッパでは、これが全く通用しないんですね。
キリスト教では重婚を固く禁じています。
これは王家であっても例外は無く、国王と妾の間に産まれた子は王位継承権がありませんでした。
しかしナーロッパワールドにおいては、なぜか『側妃』という身分の方が、大勢おられます。
ナーロッパワールドでは、妾の子でも王位継承権を持っているのですね。
これはいかにも日本人の作家たちが認識不足によって引き起こした間違いなのでしょう。
リアル世界の歴史上には『側妃』と身分を定められた女性は存在しないようです。
『正室』に対しては『側室』
『正妃』に対しては『側妃』と過去に誰かが造った言葉らしいです。
これは実に奇妙な現象です。
筆者的には『側妃』は小説のネタ的には容認派かな。
だって、世継ぎ争いや対立勢力など、彼女がいると物語を広げやすいじゃないですか!
本エントリー冒頭の地図は、筆者は良くも悪くも凝り性なので、拙作『導きの賢者と七人の乙女』の構想段階で描いた仮想世界地図です。
本編の『*設定資料2* エレンシア大陸地図と諸国紹介』で各国の設定などを紹介しています。
言語や首都、通貨なども定めています。
興味がある方は、是非ご覧になって見て下さい!
小説情報や作者名から簡単に飛べますので、どうぞよろしく。
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