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第1話 ネットファンタジー小説の世界観

 


「むかしむかし、あるところに……」

「a long time ago in a galaxy far, far away」「訳:昔々、遙か銀河の彼方で」


 日本の昔話もスターウォーズも実に端的に「whenいつ?」「whereどこで?」を表現しています。


 今回は前回からの繰り越し、「そのファンタジー小説は『いつ? どこで?』繰り広げられている物語なの?」といったテーマを考えていきます。

 ナーロッパワールドの矛盾点とは、この『いつ? どこで?』に集約されていると考えます。



■その異世界はどこにあるのか?


 J・R・R・トールキンの不朽の名作『指輪物語』の舞台となる場所は地球です。 

 その時代は、著者が創造した歴史において、アトランティス帝国崩壊後に続く遙か遠い過去であると設定されています。

 そしておそらくヨーロッパであろう『中つ国』という世界を舞台に定めています。



 さて『小説になろう』での人気のジャンルは、異世界【恋愛】およびハイファンタジー【ファンタジー】である事は周知の事実です。

 その異世界こそがナーロッパワールドなのですね。

 そしてその異世界には転生や転移が当たり前の様に発生するのですが、その異世界とはどこにあるのでしょうか?

 考えられるパターンは三つです。


(A)現実世界とそっくりな空間が、広い宇宙の何処かにある。

(B)現実世界と同じ空間だが、時間が異なる。

(C)現実世界と次元もしくは世界線が異なる。


(A)はおおむねスターウォーズの世界観、(B)(C)の複合技が指輪物語の世界観といえるでしょう。


 ファンタジー小説を創作するに当たっては、後者の方が使い易いと思います。

 理論物理学や量子力学といった難しい学問を少々かじらせてもらって説明すれば、説得力が増す事でしょう。


 筆者は『余剰次元の中に無数にある、その中の一つの分岐世界』みたいな設定にしています。 

 これだと現実世界と動植物が似ている、もしくは同じといった設定に無理がでません。

 


■その異世界は中世なのか?


 つぎは「いつ?」を考えなくてはいけません。

『指輪物語』では地球の歴史上の架空の期間、六千から七千年前と設定とされています。


 ナーロッパというシェアワールドを使用する以上、『中世』というキーワードを無視するわけにはいきません。

 しかしこの中世というのが実に曲者なのです。

 ちょっと小難しいヨーロッパ史の話になるのですが、お付き合い願います。


 まずヨーロッパ史は四期の時代区分(古代・中世・近世・近代)に分けられています。

 さて問題の中世はどのくらいの時代かというと、5世紀から15世紀までの千年という、あまりのも長過ぎる期間を有しているのです。

 日本の歴史と比べてみると、大和朝廷|(ヤマト王権)から室町幕府中期くらいの長大な範囲であって、とても一括りにできる歴史ではありません。

 ですから下記の三つの区分が存在しています。


 5世紀から10世紀のヨーロッパについては「中世前期」

 11世紀から13世紀のヨーロッパについては「中世盛期」

 14世紀から15世紀のヨーロッパについては「中世後期」


 そして中世が終わると近世の時代区分に変わります。

 近世ヨーロッパは、15世紀半ばから18世紀終わりにかけての時代です。

 この時代は、ヨーロッパが地域を越えて世界に広がる時代でした。

 東ローマ帝国の滅亡と、ルネサンス・宗教改革・大航海時代のあたりです。

 終わりは、市民革命・産業革命の時代の前あたり(18世紀後半 ~19世紀初頭)です。


 近世ヨーロッパでは、ルネサンス(古代復興)、宗教改革(プロテスタントの誕生)、大航海時代(新航路や新大陸の発見)が起こりました。

 また王権神授説、重商主義、国王の常備軍を柱とする『絶対王政』が始まります。


 ここでは『絶対王政』が貴族社会を下地にしたナーロッパ小説とは、相性が悪いという事を覚えておいて下さい。



■異世界ナーロッパ―ワールドの正体! 


 なにを隠そう筆者も『小説家になろう』内で異世界転生モノを投稿しています。

 筆者は出来るだけリアリティーを追求したいので、作中の生活様式や登場する道具などの時代考証は欠かさない訳です。

 すると驚愕の事実に直面するのです。

 例えば中世では、食事はフォークで食べる習慣はないし、紅茶も無いし、お茶会も行われていない。

 貴族御用達の馬車も存在していない。

 要するに中世ヨーロッパを無理に再現しようとすると、書きたい描写が全く出来ないのです。

 筆者の拙作も含めて、ナーロッパ小説の生活様式は、ほとんどが近世以降の姿なのですよ。


 しかし困った事に、登場人物は広大な領地を持った王侯貴族の子息令嬢です。

 絶対王政下の弱体化・官僚化した貴族の子息令嬢ではありません。

 明らかに社会背景は封建制度下の紛れもない『中世』なのです。


 この社会背景と生活様式の時代のズレを内包するのがナーロッパの長所であり、逆に攻撃される最大の要因なのでしょう。


 そこで筆者が結論を出すとすれば……

「ナーロッパワールドとは、社会的には十二世紀前後の封建制度下であるが、生活様式は十七世紀以降の西ヨーロッパを模している幻想世界」

……これでいかがでしょうか。


 ああ、スッキリしました。

 喉のつかえが取れたようです。

 

 もともとナーロッパとは『似て非なる仮想世界』なのですから五百年ほどの時間差など問題にしません(汗)


「コラア! かってに決めつけるんじゃない。オレは中世を忠実に再現し物語を書いているぞ!」

 そうお叱りなる諸兄もいらっしゃるでしょう。

 貴方は正しい。

 しかしここで論じているのはナーロッパワールドであって、ナーロッパ小説です。

 貴方が描いているのは、ナーロッパ小説では無く、立派なファンタジー小説です。


 ちなみに筆者の拙作『導きの賢者と七人の乙女』では、この時間差問題を最小限に抑えるべく、物語の開始を十七世紀初頭に定めています。

 この時代背景は中世ではありませが、美味しいのですよ。

 封建制度から絶対王政への過渡期であって、騎士が没落し強大な軍隊が形成され始めます。

 傭兵も活躍する時代なので、冒険者を登場させても無理がありません。



 次回は『ファンタジー世界の国家』を見て行きます。






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