第9話 冒険者ギルド
すでに異世界ファンタジーにおいて冒険者ギルドの姿は、おおむね出来上がっています。
『いまさら』感はありますが、今回は冒険者ギルドについてまとめてみましたので、よかったらお付き合い下さい!
■異世界ファンタジーの冒険者
(1)冒険者とは
面倒なので現実世界の冒険者との対比は省略します。
意味もありませんし。
ファンタジー世界の冒険者は、仕事の受注をほぼ冒険者ギルドに依存しています。
ですから冒険者ギルドに登録されて、初めて『冒険者を名乗れる』といった図式も成立します。
もちろんギルドに属さないフリーの冒険者もアリでしょうが、訳アリな使い方になると思います。
後述しますが、筆者はギルドに属さない冒険者は不可能といった設定をとっています。
冒険者としての活動期はそう長くはないと思われます。
この頃の平均寿命は三十五歳前後と言われており、(乳幼児の死亡率が高かったためでもあるが)四十歳を過ぎると老人扱いされていました。
定住していない冒険者も多いので、結婚後所帯を持って引退というパターンも多い事でしょう。
子連れの冒険者って、厳しいモノがあるでしょうからね。
冒険者の年齢分布としては十五歳前後から三十歳前後といったところでしょうか。
さて冒険者という職業にどんな人がついたのでしょうか。
これが意外と難しい問題なのです。
冒険者が活躍したであろう中世ヨーロッパに相当する時代は、人口の九割以上が農奴です。
彼らに職業選択の自由はありません。
だとすると下級貴族や騎士階級の家督を継ぐ事ができない者や、商人の家を継ぐことができない者たちが冒険者になったのでしょうか。
はたまた耕地すら持たない農奴以下の流民のような存在がなったのでしょうか。
そもそも架空の世界の架空の団体なので、考えるだけ無駄な事かもしれませんね。
(2)冒険者パーティー
冒険者はパーティーを組んで依頼達成を目指します。
ソロやペアの冒険者もアリでしょう。
パーティーのメンバー構成は作者の知恵の絞りどころになりますね。
最近だいぶ下火になりましたが、『追放されてからのざまぁ』のベースだったりします。
男女の差別が少ない、もしくは無いのも特徴です。
報酬分配はそのパーティーによって異なります。
幼い頃から冒険者に憧れ、幼なじみでそのままパーティーを組むパターンは非常に多いです。
作品の設定によって、フィールド派とダンジョン派の系統があります。
■冒険者ギルド
まずギルドとは、中世より近世にかけて西欧において商工業者の同業者で結成された実在する職業別組合です。
よって冒険者ギルドとは、冒険者の既得権益を守るための組合であるはずです。
冒険者ギルドの組織規模は様々なタイプがみられます。
国家単位であったり、大きな都市ごとにあったり、大きな狩場の近くにあったり、ダンジョンの傍にあったり。
さて、主人公の冒険者が旅をして各国を巡る場合はどうしましょうか。
筆者的には、『各国の冒険者ギルドは独立している組織だが、ランクによる待遇は共通させている』といった設定にしています。
超国家的な大規模組織として設定してしまうのは、ちょっと気になる所。
交通や通信が発達していない世界では説明に無理があります。
(1)冒険者ギルドが存在する理由
筆者なりに冒険者ギルドとは、どういった組織なのか真面目に考えてみました。
『ハローワーク』だの『派遣会社』だの結構滅茶苦茶言われていますので。
ですから筆者が冒険者ギルド発祥の経緯を説明しましょう。
あくまで仮説ですが……。
貨幣の普及によって経済が廻り始めると、魔物討伐や素材採集で対価を稼ぐ冒険者の先祖が現れます。
しかし彼らが活動する土地の領主が、すぐさま厳しく取り締まるのです。
「ちょっとちょっとおまえ達、人の領地でなに勝手な事してくれてるのよ!」……と。
領主の貴族たちの言い分はもっともです。
封建制度下において、土地はその国の主権者(例えば国王)から分け与えられた、最も価値のあるものです。
たとえ中世ヨーロッパレベルの異世界においても、所有者のいない土地は存在しないと言う事ですね。
その領地の所有者となった貴族は、その領地の全ての所有権を持つ事になります。
それはその土地に暮らす農奴や、森に住む獣や、川に住む魚まで例外はありません。
農奴が森の獣を狩っただけで両腕を切り落とされるなど重罪に処されたそうです。
さて困ったのは冒険者たちです。
当初は領主側と直接取引をすることになりますが、余りにも手間がかかります。
代金を踏み倒されることもしばしば。
森の奥で狩猟や採集がバレる事は少ないですが、売りさばくとすぐに足がつきます。
そこで冒険者たちは考えます。
『そうだ、みんなでギルドを作って交渉しよう!』……と。
そしてギルド代表者と領主の間で『すべての取引において二割の租税をかける』と取り決めが交わされます。
こうしてギルド組合員となった冒険者だけが、領地内で狩猟や採集が出来るようになりました。
これが冒険者ギルド発祥の真実です。
(2)冒険者ギルドの収入
例えばギルドが10,000メルクで受注した依頼があるとします。
領主への租税に2,000メルク、ギルドの手数料が2,000メルクで、依頼票には6,000メルクの報酬額で提示されています。
冒険者ギルドは営利を目的とした団体ではありませんが、諸々の運営費で二割ほどハネるのは妥当でしょう。
「エ~ッ、冒険者って四割もハネられちゃうの!」と思ったあなた。
我々現代の日本人は、所得税や住民税などの直接税や、消費税やガソリン税などの間接税、はたまた年金などの社会保障費を合わせると、その納税額の合計は、所得の五割を軽く超える『人類史上稀にみる重税国家』の中で生活しているのですよ。
(3)冒険者ギルドの建物
その土地の環境に合わせた建物を描写したいところ。
王都の冒険者ギルド本部は、立派な石造りの建物でしょう。
狩場に近い小さな冒険者ギルドは古い木造建築が似合いますね。
冒険者ギルドの入り口には、剣や弓をモチーフにした鋳鉄の看板が飾られています。
ギルドの裏側には馬繋ぎ場や馬小屋・馬車小屋、倉庫、生臭いモノの納品所や解体所などがある事を忘れてはいけません。
冒険者ギルド周辺は、宿屋や武器屋、道具屋といった冒険者相手の店が軒を連ねています。
(4)冒険者ギルドの内部
観音開きの古い扉を開けて中に入ると、少し薄暗く感じます。
よそ者や新人には周囲から鋭い視線が突き刺さる事でしょう。
フロアは広く、側面には大きな依頼ボードがあって、いつも数人の冒険者が眺めています。
正面には受付カウンターがあります。
ギルドの規模によって受付事項が分かれていたりします。
受付カウンターの壁の奥は事務所になっている事が定番です。
二階には『ギルド長室』『応接室』『会議室』『資料室』などがある場合が多いです。
さらに至れり尽くせりの冒険者ギルドには、敷地内に『訓練場』や『実技試験所』が併設されていたりします。
(5)冒険者ギルドの酒場
受付カウンターのあるフロアの奥には、酒場が営業している事はお約束です。
年期の入ったカウンターの奥には、愛想のないマスターがいます。
奥さんや娘さんが手伝っていたりします。
フロアのテーブルは六人掛けくらいの木製の円卓である事が多いです。
酒場でありながら、ほぼレストランや食堂と同等のメニューを持っています。
味の方は、必ずしも保障されるわけではありません。
エールや葡萄酒の温度管理のために地下貯蔵庫があるのは常識です。
酒類の他にミルクも忘れずに!
(6)冒険者ギルドの役職員
トップの責任者はギルド長、もしくはギルドマスター。
伝説級の元冒険者だったり超絶級の魔力を持った女性だったり。
だいたい二階にギルド長室があって、秘書さんがついていたりもします。
どんな騒ぎもギルド長が一喝するだけで収まります。
受付カウンターを飾るのはもちろん受付嬢です。
モダンなコスチュームを採用しているギルドは多いです。
かわいい顔して実はとんでもない凄腕の……なんてパターンはよく見かけます。
冒険者登録時には不思議な魔道具を使いこなしたりもします。
読み書き・算術が出来、地理や魔物の生態にも詳しく、よくよく考えてみるとスーパーインテリガールですね。
受付カウンター裏の事務所には、事務員さんがてんてこ舞いで清算を処理します。
基本、報酬や買取り額は現金での清算になりますから。
もたもたしていると、カウンターに並ぶ冒険者たちがうるさいんですよ……。
とっても親切な冒険者ギルドには実技指導員や昇級試験官がいたりします。
魔術部門も併設されている事も多いです。
チート持ちの主人公が「アレ、俺って普通じゃないの?」なんて白々しく気付く場所です。
(7)冒険者登録・組合員証
冒険者登録に必要な条件をいくつか挙げてみましょう。
・年齢制限はあったり、無かったり。
・冒険者登録に用意された依頼を達成する。
・熟練冒険者に見習いとして師事した後、推薦をもらう。
・規定の保証金もしくは出資金を収める。
・冒険者ギルドのテストを受ける。
・説明不能の魔道具で適正を見抜かれる。
・簡単な書類作成のみ。
まあ、この辺はお好みでどうぞ、といったところです。
そして冒険者ギルドの受付カウンターにて、組合員証が発行されます。
ゲーム系要素が強い作品では、この時不思議な魔道具が登場します。
新規加入者のレベルや経験値などのステータスがカードに反映されたりすると驚きます。
組合員証は身分証明書として効力を発揮する設定が多いです。
入国や城塞都市の検問でスムーズに審査が通ります。
(8)冒険者ランク
冒険者個人の実力の評価として、ランク分け制度が存在するのは、もはや常識。
それとは別にパーティーランクがあります。
依頼を受ける際は、パーティーランクが基準になります。
標準的な所でFランクをスタートラインにAランクが最高位。
さらに特別なSランク(スペシャルランク)が存在します。
SSランク、SSSランクとインフレさせるのはあまり歓迎できません。
あくまでシェアワールドである事をお忘れなく。
(9)依頼
冒険者は多数の依頼票の中から、自分達の実力を考慮してチョイスします。
名の有る上級冒険者には、ご指名で依頼が入る事が多いです。
*依頼票*
冒険者ギルドのフロアには必ず依頼票が貼られたボードのコーナーがあります。
依頼票には、受注可能ランク・依頼内容・報酬額・期限など最低限の内容が記されています。
この依頼票を『ピッ!』と剥がして受付カウンターに持って行きます。
「よう、フェリーネちゃん。この依頼を受けたいんだが、詳しく聞かせてもらえるかい!」
「あらジルザークさん、かしこまりました。今資料を出しますね!」
なんて会話がある事でしょう。
*採集依頼・常時受付依頼*
最も基本的な冒険者ギルドでの依頼事案。
低ランク冒険者の重要な収入源。
薬草や魔力結石などの採集依頼は常時受付である事が多いです。
同じ品でも在庫の多少で買取り額は変動します。
特定の希少な素材の調達は厳密な意味では『採取依頼』になります。
当然報酬は高額になります。
*討伐(退治)依頼*
依頼主はその地を収める貴族の領主である事が多いでしょう。
盗賊団や手ごわい魔物などに領地を荒らされた場合、討伐の依頼がでます。
この時は冒険者ギルドもしっかりと報酬は頂きますよ。
普段から高額の租税を納めているのですから。
また街や村といった小規模な自治体からの依頼もあります。
『討伐』とは基本、人間である盗賊団やドラゴンなどの上位の魔物に使う言葉です。
熊討伐とかゴブリン討伐とかは『退治』の方が相応しいです。
*狩猟依頼*
基本は食糧や食材の調達依頼です。
狩猟で得る野生動物の肉は高級食材として王侯貴族からの受注は多いです。
また毛皮・皮革・油脂・骨・角・牙・羽毛などの素材は常時買取りの対象になります。
魔物系の素材は高額で取引される事でしょう。
密猟・密売が見つかると重罪に処せられます。
*護衛依頼*
冒険者ギルドの重要な仕事のひとつ。
傭兵ギルドとの競合があります。
野盗や盗賊団がのさばるこの時代。
貴族や商人たちの護衛の需要は非常に多いです。
その実力もさることながら、ネームバリューがモノをいいます。
有名なパーティーの名前が加わるだけで、襲われる確率は極端に低下します。
魔物が登場する作品には、さらに重要度は高まるでしょう。
*探索(探検)・先導依頼*
斥候・先導者が得意とする分野。
彼らがソロで請け負うなんて、カッコいいかも。
ダンジョンのマッピングなどは高額の報酬が得られます。
地図の精度が低いこの時代では、都市間の新ルートの開拓などの評価も高いです。
斥候や先導者は土地勘や地理に詳しいという知的財産で稼げる稀なジョブです。
貴族や商人たちの案内役や護衛団の指揮を執る事もあります。
彼らの能力は安全に直結しますので、熟練者の報酬は高額になります。
戦闘能力は低いですが、パーティーメンバーとしても優遇されます。
*配達依頼*
郵便や宅配便のサービスネットワークが存在するはずもない異世界では、親書や贈り物の代理配達・配送は冒険者ギルドが担い手となる事でしょう。
時に緊急性を要する場合も多いです。
この依頼で最も重要なのは『信頼』
評価の高い一流冒険者は、報酬も高額になります。
依頼料をケチって、低ランクの冒険者に任せると、そのままトンズラをこかれたりします。
*緊急依頼*
「とんでもない数の魔物が、この街を目指してきます~!」
「ま、まさか……魔物のスタンピートか!」
なんて展開に突然なったりします。
領主の館は大騒ぎになります。
自前の騎士団や衛兵では防ぎきる事は困難。
「至急、冒険者ギルドに増援要請を!」
領主と冒険者ギルドは持ちつ持たれつの関係であるはず。
(10)規則・強制事項・掟
冒険者ギルド組合員である以上、租税の関係でギルドもしくは指定買取り業者しか品物を卸す事が出来ません。
勝手に横流しすると組織の根幹を揺るがすため、厳しく罰せられます。
ギルドとはそういった組織です。
特殊な高額の依頼などは、達成に責任が生じるケースもあります。
このケースでは、受注した依頼を達成出来なかった場合、違約金が発生します。
上記の緊急依頼など、冒険者ギルドの総力が必要な場合、強制的に参加しなければならない義務があったりします。
不参加の場合、違約金などの制裁が加えられます。
冒険者組合員証には有効期限が有る事が多いです。
『一定の期間内に必ず何かしらの依頼をこなさなくてはいけない』といった規則があったりもします。
冒険者同士の上下関係はランクが優先されます。
■おわりに
今回は筆者のイメージする冒険者ギルドの姿を綴ってみました。
みなさんも定番要素は抑えつつ、オリジナリティーを加えて、素敵な冒険者ギルドを創造して下さいね。
最後までお読み下さり、ありがとうございます m(_ _"m)
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