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第33話 ダークエルフだってお風呂に入りたい

 ヴァルディスに続いてプリメーラの脅威も去った。町の復興も一段落。季節も夏から秋へと移り変わって、町は平和を取り戻しつつあった。


 そんな折り、移民局からちょっと変わった報告が寄せられる。


 辺境のダークエルフの村で水害があったそうだ。川が氾濫し、連鎖的に土砂崩れが起こった。


 復興しようにも、近隣の草木が再生不可能で食料も心許ない。ゆえに、ダークエルフは村を放棄して、このラングリードへと流れ着いてきたらしい。


 俺とフランシェは、騎士団の休憩室で、コーヒー片手にそのことを話題にしていた。彼女は、この件に関して懸念を抱いているようだった。


「ダークエルフって言っても、俺たちと変わらないだろ? なんの問題があるんだ?」


「移民は歓迎しますが、秩序を乱されることは望みません。ダークエルフは独自の価値観を強く持っているので、町に馴染めるのか心配です」


 エルフとかダークエルフは森を愛し、敬うという文化がある。


 例えば、俺たち人間は、邪魔な木や、景観を損ねる植物があれば、適当に切り倒して木材にするか焼いて処分するのだが、ダークエルフは、それらを尊重する。邪魔であってもそれに沿った家づくりをするのだ。


 少数ならば、郷に入っては郷に従え精神で、人間の文化を受け入れてくれるのだろう。しかし、それらが増えるにつれて、コミュニティを形成し始め、やがてはそういった自分たちの文化を主張し始めると、人間と衝突する恐れがある。


 また、ダークエルフはエルフよりも攻撃的だと言われている。魔族の血が入っているとかで、他種族に対する配慮があまりない。


「彼らを尊重しすぎれば、我々も窮屈な思いをするでしょう」


 うちは、目下発展中の観光都市なので、労働者を増やすためにも移民はウェルカム。他民族の価値観に対しても、寛容に対応していく必要があるのだ。


「向こうにはボスはいるのか?」


「はい。近いうちに、一度、話し合う予定です」


 いまのところ、別に困ったことはないのだけれど、ダークエルフが密集してコミュニティを成すと『ダークエルフ地区』や『ダークエルフタウン』みたいなエリアがつくられ、人間が踏み入りづらくなる。


 揉め事があると、暴動やデモも起こりやすくなる。そうならないためにも、あらかじめ共存のルールなどを決めておかなければならないとフランシェは考えているようだ。


「ま、俺は別にいいと思うがな」


「危機感はありませんか? 『水を無駄に使うな~』とか言って、温泉の数が減っていくかも」


 意地悪そうに、冗談を言うフランシェ。


「向こうの文化を尊重するように、こっちの文化も尊重させればいいだけだろ」


「上手くいくと良いのですがね――」


     ☆


 夕刻。

 その日の仕事を終えると、俺は街へと繰り出す。城の中にも、当然サウナ施設はあるのだが、やはりいろんなところを楽しみたい。


 公営サウナよりも、私営サウナの方が独特な趣向やこだわりがあって面白いのだ。ゆえに、時間がある時は、なるべく外出するようにしている。


「――ん? ここも改装中か?」


 いつものスーパー銭湯に入ろうとしたのだが、改装中の看板が掲げられていた。


「最近、このパターンが多いなぁ」


 まあ、魔王軍が攻めてきてるし、アスティナのおかげで熱波師も増えている。変革の時かもしれない。リニューアルは悪いことではないだろう。


 ただ、こうして同時に複数店舗が休業となると、他の銭湯が混んでしまうのは考えものだけど。


 ――時間もないし、今日は近場の適当なところで済ますか。


 と、思って来店したのが『ふらっと熱温泉』だ。


 ここの特徴は水着での混浴サウナ。どちらかというと若者向け。開店当初は、美女の水着姿を見たいエロ親父が多かったのだが、来店する女性のほとんどが彼氏持ち。


 リア充の熱々ぶりを見せつけられる一方なので、現在は眼福目的での来店はほとんどいない健全空間。


 まあ、俺もシングルなので、あまり好まないのだが、こういう店もリサーチしておく必要もあるだろう。


 そんなわけで、受付で着替え(水着)を受け取り、いざ――。


 身体を洗う代わりに、プールの消毒水の如く、風呂までの途中にボディソープとシャンプーの成分の入った、シャワーをウォッシャブルに全身へと強烈に吹き付けられる。


 そして、軽く湯に浸かって下茹で。そして、サウナへと赴く。


 ――なるほど、温度は低めか。


 広々とした空間へと、まばらに人が散っている。これだと、カップルできた人たちも、のびのびと過ごせる。ガチ勢には物足りないが、雰囲気は悪くない。


 サウナを楽しみながら、職業病の如く観察していると――。


「となり、よろしいかしら?」


 ――なにッ?


 返事をする余裕も与えず、グラマラスな美女が隣に腰掛けてくる。健康的なまでの褐色の肌に、ボンキュッボンの黄金比率の体系。


 纏う水着はレオタード。胸元を数本のヒモが交錯するように縫い付けられているのだが、はち切れんばかりのたわわな胸を押さえ込むことができないのか、いまにも弾けそうだ。


 ゆるふわウェーブの髪は、彼女の優しさを具現化しているようだった。瞳も慈愛に満ちていて、まるで聖母のようだ。


 ――耳が尖っている。ダークエルフか?


 俺を勇者ベイルと知って近寄ってきたのだろうか。まあ、わからないでもない。余所者からすれば大スターとの邂逅だ。ナンパされてもおかしくない。


 考えてみれば、これまでナンパされなかったのが不思議なぐらいだ。なるほど、ふらっと熱温泉……ありかもしれない。混浴サウナ、いいぞ!


 まあ、もちろん、この程度で鼻の下を伸ばすほど、うかつではない。


 俺はクールに言葉を交わす。


「他にも座るところはあるだろ。ヒマなのか?」


「うふふ。せっかく、開放的なところにきたのだもの……ステキな出会いを求めるのは、悪いコトかしら? ね、勇者ベイルさん?」


「俺を知ってるのか」


「有名人だもの。ステキな筋肉ね。鍛えているの?」


 そう言って、ツツと指で俺の胸板をなぞる。いかん、いかんぞ。公然の場で、カップルがいちゃついていて、気分の良い人はいないだろう。


 ほら、よくいるじゃないか。レストランで『はい、あーん』とかやっている謎カップルとか。アレは不快にして不可解だ。


「俺だけ、名を知られているのもフェアじゃないな。きみの名前は?」


「私は魔王軍幹部。五大魔将のひとり天計のウルフィよ」


「なッ――!」


 ――五大魔将、天計のウルフィッ!?」


 ――また、このパターンかよ!


 なんで魔王軍の幹部を町の中に入れてるんだよ。ザルかよ、この町の管理は! 

 ってか、ザルだよ! 観光都市だから、基本的に余所者はウェルカムだもんな!


 っていうか、こいつらも、普通に敵の中枢に入り込んでんじゃねえよ。ヴァルディスもプリメーラも、度胸ありすぎだろ。普通に考えたら、袋叩きに遭ってもおかしくねえんだぞ!


「魔王軍にも、かわいい幹部がいたものだ」


 心臓がバクバクしているが、平静を装う俺。


「あら、ありがと。でも、プリメーラちゃんもかわいかったでしょ?」


 幸い、広いサウナ室ゆえに、騒ぎにはなっていない。ヴァルディスの時と同じで、サウナの勉強にきてくれたぐらい――の、目的だとありがたいのだが。


「目的はなんだ?」


「うふっ、警戒しないで大丈夫よ。戦いにきたわけじゃないんだから」


「……戦いにきたわけじゃない?」


 よし! とりあえず、丸腰での戦闘は回避された。凜々しい態度を貼り付けたまま、ホッと胸を撫で下ろす。


「住んでいたところがなくなっちゃってね。生活するのも大変なの。魔王様はなんにもしてくれないし……。こうなったら、人間のお世話になっちゃおうと思って」


「例の水害か?」


「あら、知ってるの?」


 彼女もまた、災害によって住むところを失ったダークエルフのようだ。


「魔王様に恩義があるわけじゃないわ。魔王軍に所属していれば、魔物に襲われることもないでしょ? 従っているフリをするだけで、森で安心に暮らせるの」


 魔王軍幹部という肩書きは、あくまで仮の姿。利害関係が一致しているだけの関係。本来なら、俺の討伐も職務のうちのようだが、水害のせいでそれどころではなく、生活の安定のために職務を放棄しているようだった。


「おまえが、ダークエルフたちを束ねているのか?」


「そうよ。私たちも生きていくために必死なの。ラングリードは、いろんな種族を受け入れてくれる国だと言うから、ふふっ――頼っちゃいました」


 ということは、こいつが後日フランシェが会うと言っていたボスか。


 ――事情を聞く限り、彼女は人畜無害。


 まあ、ダークエルフの親玉が魔王軍の幹部だなんて、フランシェが知ったらこじれるだろうけど。


「俺に近づいた理由は?」


「偶然よ? 有名な顔を見かけたから、挨拶をしておいた方がいいかなって――」


 ウルフィが、俺の太ももに手を置いた。ゆっくりと付け根の方へと滑らせる。


「この町でクラスのなら、仲良くしておいた方が良いでしょ? うふふっ」


「お、おおっ?」


 その時だった。俺たちを強烈な熱波が襲った。


「うおっ!」

「きゃ!」


「――普段は姿を見せないおまえが、随分と大胆だな」


 視線をスライドさせると、そこにはプリメーラがいた。従業員の服を纏って、手にはタオルとロウリュウ用の桶を持っている。


「おまえ、ここでなにを?」


 俺が尋ねると、プリメーラは淡々と返す。


「フリーの熱波師になったのだ。呼ばれたら、どこにでも行く」


 うん。随分と、この町に馴染んでいるようだ。


「あらあらぁ、プリメーラちゃん。なにその格好、ステキ――きゃ!」


 プリメーラが、軽く熱波を浴びせる。


「油断するなよ、ベイル。こいつは魔王軍の中でも異端の存在だ。無害を装っていても、腹の中ではなにを考えているのかわからない。なんだったら、ここで始末してもいいぐらいだ」


「へぇ、プリメーラちゃんが裏切ったっていう噂は本当だったのねぇ」


「時代の流れだ」


 時代の流れって残酷だね。魔王軍の幹部が、銭湯で働いているのだから。


「うふふ。同感。もはや魔王軍なんてオワコンよね。これからは、ラングリードの一市民として仲良くしてくれると嬉しいわぁ」


「そう言いながら、なにか企んでいるのだろう?」


「あらあら、企んでなんかいないわ」


 にこにこと笑顔を貼り付けたままのウルフィ。


「さて、身体も火照ってきちゃったし、冷水を浴びてきちゃおうかなぁ。ととのってきまぁす」


 ウルフィは立ち上がると、俺の耳元で「じゃあね。ベイルちゃん」ささやき、ふっと息を吹きかけた。なんか凄く甘い香りがした。


 彼女を見送ると、プリメーラは嫌悪感をあらわにする。


「気をつけろ、ベイル。ああ見えて、ウルフィは只者じゃない。魔王軍の中でも飛び抜けて頭がいい」


「頭がいい? おまえだって相当なもんだろ」


「私とはタイプが違う」


 プリメーラは軍師タイプの将だった。戦闘でこそ才能が活きる。だが、ウルフィは内政タイプの天才。


 魔王軍の武器や食料が充実しているのは、すべて彼女の手腕によるもの。組織の裏方を担っていたのが、天計のウルフィだという。


「しかし、ダークエルフとして森に住んでいたんだろ?」


「どうだかな。奴の存在は謎に包まれている。魔王軍も、奴がどこにいるのか把握していなかった。移民の件も、裏があるのかもしれん」


 魔王とは袂を分かったかのような言動であったが、警戒しておいた方が良さそうだ。


「まあ、せっかくふらっと熱温泉にきてくれたのだ。いまだけは楽しんでいってくれ。熱波はいるか?」


「いや、いい」


「そうか。ああ、そろそろ冷水の時間か」


「もう少しだけいるよ」


「無理してないか……ん?」


 俺は、プリメーラから視線を外す。


 ――おい、おまえ頭が良いんだから察しろ。


 いや、察するな。とっとと仕事に戻れ。


「おまえ、もしかしてウルフィにいろんなところを触られて……変なところが隆起していないか?」


「なんのことだ?」


「ここのことだ」


 そう言って、プリメーラは柄杓で俺の股間にジャバジャバとアロマ水を注ぐ。


「おあぁぁぁぁぁぁおッ!」


 俺の股間にアロマの香りが移りゆくのだった。

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