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第23話 勇者の使途不明金

「はぁ……」


 露店街。フリーマーケット如く、乱雑に並ぶテーブルの前で、メリアは薬品の素材を眺めていた。


 町を守ることができたのは嬉しいが、彼女は複雑な気持ちでいた。


 先の戦。ベイルが疲労困憊で苦しんでいる最中、メリアはなにもできなかった。


 メリアとて、結界師フローリアの血を引くサラブレッドだ。本来なら、ベイルを全力でサポートするだけの責務がある。


 なのに――。


「なんで、才能ないんだろ……」


 母フローリアの結界は、ドラゴンの火炎をも跳ね返すという。きっと、母ならひとりでも城下町を覆うほどの結界を張ることができただろう。


 実際、メリアに才能がないわけではない。結界には2種類あって、ひとつは外からの攻撃を防ぐバリアのようなモノ。もうひとつは、結界内にいる者を外に逃がさないモノ。


 メリアの場合、前者が苦手で後者が得意。ただ、能力を活かせる場がないだけなのである。


 だからといって、いいわけなどしたくなく、ならばと薬の知識とかで、役に立とうとしている。けど、現状ではオリポというサウナ後に最適なドリンクぐらいしか発明できていない。


 ――自分は、まだまだなんだ。


 母が優秀ゆえに、それ相応の役目を果たさなければ、メリアの誇りは崩れ去る。もちろん、それを卑下する家族ではないが、これはメリアの気持ちなのだ。


 ――もっと、ベイルくんの役に立ちたい。


「お、メリア」


 名前を呼ぶ声がした。振り返ると、そこにはベイルがいた。


「あ……ベイルくん」


「なんだ、買い物か?」


「う、うん……ベイルくんは」


「会議終わって、これからサボリ」


「お仕事サボっちゃうんですか?」


「冗談。パトロールだよ」


 ふと、ベイルは、露店に売られている商品に目をやった。


「なんだ? 素材が欲しいのか?」


「はい、ベイルくん魔物をたくさん倒してくれたおかげで、珍しいものが入荷されていて――」


「どれが欲しいんだ?」


「えっと……マンドラゴラとハーピィの翼と、ドラゴンの肝……」


「他には?」


「それぐらいかな……あとは、乾燥レッドスライムと黄金龍の瞳も欲しいけど、お小遣いが足りないから……」


「そっか。――じゃあ、店主。いま言ったの全部くれ」


 ぼんやりとメリアのやりとりを見ていた店主は驚いたようだ。世間話をしていただけだと思っていたのか、慌てて聞き返す。ベイルが復唱すると、店主は嬉しそうに紙袋へと入れ始める。


「へ? な、なんで? そんなにお小遣いないよ!」


「プレゼントさせてくれよ」


「へ?」


「この素材って、俺や騎士団のみんなのために使うんだろ? おまえにばっかり負担させるのは悪いからな」


「でも、実験に使うのもあるし、無駄にしちゃうのもあるから――」


「それも含めて、俺たちのためだろ? 大丈夫、ボーナスが入る予定だから」


「い、いいの?」


「おまえが毎回ポーションを飲ませてくれるから、俺は最後まで戦えるんだ。マジだぜ。メリアには、いつも助けられてる」


「ほんと?」


「戦の時だけじゃない。普段も、美味いポーションをつくってくれるおかげで、気持ちよくサウナを過ごせるし、コンディションだっていいんだ。騎士団の連中や町の人たちも、おまえに感謝してるんだぜ。QOL(クオリティ・オブ・ライフ。生活の質のこと)もバチクソ上がってるってな」


「そ、そうなんだ。えへへ……」


 温かい気持ちになった。メリアはひとりで一生懸命になっているだけだと思っていたけど、ちゃんと見てくれている人がいた。幸せになってくれている人がいた。


 露店のおじさんが「ほらよ」商品を紙袋に詰めて渡してくれる。コレがあれば、もっとたくさん薬がつくれるし、実験もいっぱいできると思った。


 ベイルが財布を取り出して、代わりに支払ってくれる。


「いくらだ?」


「142万ゴールドだ。端数は負けとくぜ」

「ひゃ……ッ? ひゃひゃくぅ?」


「ベイルくん? ど、どうかしたの?」


「ど、どうもしてない。……142万ゴールドだな。すまないが、後払いでもいいか?」


 黄金龍はの瞳は超レア素材だ。コレひとつで130万ぐらいする。まさか、ベイルが買ってくれると思わなくて、とりあえず欲しいと言ってしまったけど、本来なら手の届く品物ではない。


「あ、あの、無理しなくてもいいよ。100万越えはさすがに――」


「大丈夫だ。おまえには、これぐらいの価値がある。胸を張って受け取ってくれ」


 そう言って、ベイルは品物の詰められた袋を渡してきた。


 ちょっと、もうしわけない気もするけど――。


「ありがと」


 メリアは、紙袋をぎゅっと抱きしめて、嬉しそうに微笑むのだった。


     ☆


 数日後。

 フランシェの執務室。


「……復興の費用がかさみますね」


 デスクに向かい、今月の会計に目を通していくフランシェは、思わず独り言をつぶやいた。


 経済は潤ってきているのだが、ここ最近の戦により、出費が著しい。こういう時はいつもよからぬコトを考える輩がいる。費用の水増し請求や横領などが発生しやすい。


 そういった悪事を見逃すと、連鎖するように増えていく。ゆえに、フランシェは油断しない。部下だけに任せず、自らもチェック。


「石材の値段が若干高い気がしますね。……いや、これは相場の範疇でしょうか。一度、確認した方が良さそうです。……ん?」


 次の書類(領収書)に目を通したその時、明らかに異常な数字を目にする。


「……研究開発費……142万……?」


 請求者はベイル? ベイルが研究開発費に142万?


 ――ありえない。


 購入品目は、魔物の素材らしいが、ベイルがそういったことに着手するという報告は受けていない。


「これは、見過ごせませんね……」


 いや、ベイルのことだ。なにか理由があるのだろう。フランシェは彼に対して絶対的な信頼を置いている。ゆえに、私利私欲のための請求ではないとは思う。


 ――おそらく、人に言えない事情……事件に巻き込まれているのかもしれない。


 ぼったくりサウナに入って、とてつもない請求をされたのか。あるいは美人局にでもあったのか。


 はたまた焼き肉屋の経営を始めようとでもして、経営コンサルタントに依頼したら、内装費用をぼったくられて、装備や時計などを売りに出さなければならないほど、お金が足りなくなったとか……きっと、困っているに違いない。


「心配ですね」


 困っているのなら、フランシェが助けてあげなければならない。彼には恩がある。こういう時こそ、王家の力を駆使して、彼を全力で助けるべきなのだ――。

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