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第20話 禁忌魔法ミリオンジェイル

 俺は、兵舎の大浴場から足を踏み出した。空を見上げると、数多の魔物がギャアギャアと飛び回っている。町は騒然となっており、人々の悲鳴が聞こえていた。


「挨拶代わりだ」


 俺は、城の壁を駆け上がり、天高く跳躍した。そして、背中の剣を抜いて、ぐるりと一周させる。


 斬撃が円を描く。真空派が空を裂き、その一撃で、空にいた魔物が次々と両断されていく。


 城の屋根へ降り立つと、その光景を見ていた兵士や町の人たちが指差した叫んだ。


「あ、あれは!」

「ベイル様だ!」

「勇者ベイルが、ととのったぞ!」

「ベイル! ベイル!」


 惨憺たる様子の町並みだが、あちこちから人々の湧き立つ声が聞こえてきた。


 士気が上がったのを確認すると、俺は大通りへ降り立つ。こちらも酷いものだ。町のあちこちで兵士と魔物が激戦を広げている。


 軽く地面を蹴るようにして走る。そして、それらを横目に通り過ぎていく。いや、正確には通り過ぎながら、剣で切り伏せているのだった。俺が駆け抜けていくだけで、次々と魔物たちが両断されていく。


「ベイル! 南門だ! フランシェ様を助けてくれ!」


 誰かが言った。すぐさま、俺は進路を見極め、南門へと向かう。


 その途中『ぐはははは、俺はプリメーラ様の側近、デュラハンだ』とか『貴様を倒して魔王様の晩餐に添えてみせよう』とか言っている魔族がいたけど、話を聞いてやれるほどヒマではないので、一瞬で切り伏せておいた。


     ☆


 城壁から槍のように伸びる氷柱を、大剣で破壊していくジャイアントオーガ。


 フランシェは隙を見て、奴の頭上に氷塊を叩きつけるも、鉄のように硬い頭蓋骨の前には無意味。巨人の進行を防ぐ手立てなどなかった。


 ジャイアントオーガが大剣を振るうと、城壁の一部が派手に吹き飛んだ。破壊された部分を氷魔法で補修していく。


「ここは……絶対に抜かせないッ!」


 氷の翼をはためかせ、向かっていくフランシェ。迎撃せんと拳を打ち込むオーガ。


「なッ!」


 彼女は巨大な氷の盾を出現させて防ぐ。しかし、ガラス細工のように粉砕。フランシェは強引に押し返される。


「はあ……はあ……このままじゃ……」


 魔力は風前の灯火。どうやら、全力をもってしても、ジャイアントオーガの前では時間稼ぎにしかならないようだ。


「こう……なったら……」


 敗北は時間の問題だと悟るフランシェ。ならばと、最後に己はなにをすべきかを考える。


 ――終局魔法ミリオンジェイル。


 ミリオンジェイルは、ラングリード王家に伝わる禁忌魔法のひとつである。


 周囲一帯、おそらくラングリードの城下町すべてを射程範囲に収めて、完全凍結させる。生物も物質も完全に動きを止める。一度凍り付くと、溶けるまでに万の月日がかかると言われている、呪いにも近い魔法だ。


 だが、町の人たちが皆殺しにされるよりはマシ。ミリオンジェイルが解除される頃には世界の情勢も変わっているかもしれない。


 もう、これに賭けるしか――。


「はッ!?」


 ジャイアントオーガの剣が振り下ろされる。それは、氷の翼を砕きつつ、城壁をバラバラとアーモンドのように砕いていった。浮力を失ったフランシェは、瓦礫の上へ歪に落下する。


「がはッ! ……う……ぐ……詠唱を……」


 と、思ったのだが、ジャイアントオーガは、それを許してはくれないらしい。奴は、再び剣を振り上げた。


「はは……万事休す、ですね」


「ガォォォォォォォォッ!」


 振り下ろされる大剣。

 フランシェは観念して、瞳を閉じた。


 心の中で、民に謝罪を言葉を唱えた。


 ――私は、ベイルに甘えすぎていた。なにもできない姫で、ごめんなさい。


 大剣の影が落ちる。


 ――しかし、その影はフランシェを押しつぶすことがなかった。


「待たせたな」


 声が聞こえた。同時に、ドゴォンという巨大な音が響き渡った。


 ふと、フランシェが目を開けると、そこにはベイルの姿があった。


「べ、べい……る?」


「悪い、遅くなっちまった」


 なんと、彼がジャイアントオーガの大剣を、掌で軽々と受け止めていたのである。


「ガオァァァァァッ!」


「安心しろ。ここからは、俺がやる――」


 ベイルが、ジャイアントオーガを睨んだ。すると、奴は大剣を引いて、一歩下がった。ベイルの強さに気づいて、畏怖しているようだ。


 ジャイアントオーガが、大剣を派手に振り回す。ベイルは、それを素手で軽く弾いていく。


 まさか、フランシェが手も足も出なかった相手を、ここまで圧倒するとは――。


「はは、あなたもバケモノですね」


 フランシェは考え直す。


 彼に頼っていたことを恥じていたが、大きな間違いだ。フランシェが、どう足掻いたってベイルの強さに届くことなどない。


 彼という特化戦力は、唯一無二だと言うことを思い知らされる。彼抜きでの国防など――不可能だ。


 ベイルの掌から、火球が放たれた。それがジャイアントオーガに触れた瞬間、超巨大な火柱を巻き起こす。


 それは空へと伸び、白い雲を焼いた。天を紅く染めた。ジャイアントオーガを一瞬で焼き尽くす。


「ウゴァァアァァァァァァァッ!」


「アスティナの味わった灼熱地獄に比べれば、涼しいものだぜ」


 そう言っている間に、ジャイアントオーガは灰となって、大地へと消えていった。


「い、一撃で……」


 フランシェが口をぽかんと開いている間に、ベイルは告げる。


「さて、次はプリメーラだな。フランシェ……おまえの怒りもぶつけてきてやるよ」


 ハッと使命を思い出し、フランシェは言った。


「ジャイアントオーガは、こちらからきました。おそらく、この先にプリメーラがいるはずです」


 そう言って、フランシェは南を指差した。


「なるほど、じゃあ、北にいるな」


「え、なぜ?」


 フランシェの問いかけを答える前に、ベイルは西へと向かった。その速さは、まさに矢のようであった。

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