あいつ。
主な登場人物
みっくん‥‥物語の主人公。1年前、幼馴染の沙耶香の
手を離してしまったのを後悔している大
学生。沙耶香が死亡した理由を確めるた
め、死亡してしまうのを止めるためタイ
ムスリップするが…
沙耶香‥‥みっくんの幼馴染。みっくんが迷子になら
ないように、転ばないようにといつも手を
握ってくる。明るい性格の沙耶香だが、1年
前に何らかの理由で死亡してしまう。
あの日。あの時、俺があいつの手を離していなかったら。
隣に君がいたのに。
2年前。高校三年生の時。俺には幼馴染がいた。
前田沙耶香。
あいつは、本当にずっと隣にいた。
うざい。っていっても、
「嫌だ!みっくん、すぐどこか行っちゃうから目とか手離したら危ないもん。」と言って手を握ってくる。
「そんなの小学生の頃の話だろ。別に今はどっか行ったりしねえよ。」と言っても
「信じたいけど信じられないね。みっくんは私より迷子になった回数多いんだよ?ドジだからすぐ転ぶし。今も昔もあんま変わんないよ?」と言ってくる。
手を離そうとしても、ぎゅっと握って
「離したらみっくん転んじゃうよ」と言ってくる。
それがうざくてとても嫌だった。周りからの視線も気になるし。
そして現在。
今思えば、あの手はとても震えていた。
あいつはその頃はうざかった。
でも、今はあの手で俺の手を握ってほしい。
俺はそう思いながら34階建てのビルの屋上から
飛び降りた。
そして俺はこの世から
消えた。
はずだった。
「みっくん、みっくん!」
あいつの声がする。いつもあいつからした金木犀の香り。
俺も天国に行ったのか。と目を開けた。
「あ!もう。だからやめときなって言ったでしょ?」
やっぱり。手を離したこと、怒ってるんだ。
「びっくりしたよ。綺麗な花あるからって木に登ってさ。急にみっくんが落ちてきたんだもん。」
なんの話だ?ああ。あの時の。
ん?あの時の…?
「制服も土だらけ。帰ったら真美さんに洗ってもらうんだよ?」
制服…?夢か…?
俺はそう思い、頬をビンタした。
「痛ってぇ…」
「え、なになに、急にビンタ?頭打った?救急車呼ぶか…?」
タイム…スリップ…したのか…?
「沙耶香…。まだここにいる…。」
俺はそう言いながら沙耶香を抱きしめた。
「え、なになに?ちょ、本当にどうした!?みっくん反抗期真っ只中だったのに!」
そうだ。ここで急に変わってしまえば、ただ違和感を覚えさせるだけだ。今は反抗期を演じよう。
「え、あ。お、俺…。大丈夫だから!制服も自分で洗えるから!俺帰る!」
こ、これで良かったのか…????
「あ!みっくん待ってよ!」
とりあえず、これは未来を変えろっていう神様からのプレゼントだ。だから、もう、手を離さない。
それが俺ができること。
そして、手の震えに気づいてあいつを楽にさせる。
「沙耶香、お前が今度は、転んだら困るから。ん。」
俺はそう言い、手を沙耶香の手に重ねた。
「どうしたの?急に。」
「こう、握ったら、もういなくなんない?」
俺は涙を浮かべながら言った。
もう、いなくなってほしくない。
「私はみっくんの側にいるんだから。いなくならないよ。」
俺の方を見上げた沙耶香の目にも涙が浮かんでいた。
「みっくん。みっくんを泣かせたのは誰?私?」
それはこっちのセリフだ。
沙耶香の目に涙を浮かばせたのは、沙耶香の手を震わせたのは、誰なのだろう。今すぐそいつを呼んで、殴りたい。
「こっちの……セリフだよ…。」
「もう、みっくん泣かないでよ…!泣いちゃうでしょ…?」
「もう泣いてるでしょ…笑」
沙耶香とは、いつでもこうやって笑っていたい。
沙耶香に、何があったのか。
あの日、手を離そうとした俺の手をなんでぎゅっと握らなかったのか。
それを知れたら、沙耶香が「死ぬ」こともなかったのに。