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【完結】異世界転生を断った僕は、異世界で義理の姉と生活します  作者: りんごちゃん
第六章 せいぜい、幸あれ<ウォンテッド>
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51話

 「随分とピンチみたいじゃない」


 長らく花に変えられていた私、令条マイは上に大きく伸びをする。


「私の呪いが解かれたのもⅠのおかげなのかしら」


 私は新しくできた義妹をチラリと見る。

 扉の前でペタリとへたり込んでいる彼女の足は長く、出るとこ出ていて、非常に女性らしい。


「これは、ウカウカしていると、おねえちゃんポジションを奪われかねないわね」


 私の後ろで腰を抜かす、ピチピチの服を着たグラマラス女子に大人げなく対抗心を燃やす。


「自分のことながら、度し難いブラコンね」


 私は自嘲気味に口角を緩ませながら、前を見つめた。


「というか、私の記憶の中のⅠは少女の姿だったはずなのだけど」


 私達の前方三十メートルもいない距離に、二人の人間が向かい合い、死闘を繰り広げている。


「一人はレイよね。もう一人の赤い竜に変えられた方は、誰? なんか見たことある気がするけど……」


 少なくとも、私の記憶に巨竜の知り合いはいない。

 そもそも、私はこの場所が何処かを把握していない。

 だけれど、不思議と、木の香りや、異世界のこと、レイが得た対価の正体や激戦の傷を、私は知っていた。

 満天の星空の下、義弟とともに草原で語った、私が経験していない、おもいでと共に。


「アイツ、私の皮を被ってレイにあんなにイタズラして! これじゃあ私が、年の離れた義理の弟を誘惑する悪いおねえちゃんみたいじゃない! Uめ、次逢ったら絶対に許さないから!」


 私は元直属の上司への深い怒りを一旦、腹の中にしまう。


「とりあえず、状況を把握しよう」


 私は赤い高級絨毯の上に散らばる武器の中から使えそうなものを探す。


「レイが戦っている相手が敵でいいのよね。じゃあ、あの巨大な竜を倒せば、めでたしめでたしなのかしら」


 索敵代わりに、鼻をすする。

 近場に落ちていた、やけに軽くて剛いライフルを足で拾い上げ、周囲を確認した。


「大量の血と硝煙の匂い。そう、何人かが犠牲になって、今があるのね」


 よく見ると、扉から一段上がった玉座まで、直線状に伸びる赤いカーペットが、レイたちの手前で途切れている。

 きっと誰かが高火力の爆弾を作動させたのだろう。

 そう考えると、今、私が構えている、やけに精度の良いライフルもその人の私物なのかもしれない。


「感謝してもしきれないわね、私の家族を守り抜いてくれたのだから」


 私は長銃の上にとりつけられたスコープのねじを回しながら、照準をレイに合わしてみる。


「随分会えない間に、男らしくなったじゃない」


 傷だらけのレイは、私が知っていた頃の男の子とは違う。

 平和ボケした、ポワポワの、頼りがいのないマシュマロみたいな青年から、今やナイフのような殺伐とした空気をまとって、ユラユラと周囲の空間を歪ませている。


「ちょっと、殺意に飲まれすぎかな、うちの義弟は。早くあのドラゴンを抹消しないと、レイが消えてしまいそうだわ」


 女神の与える対価は人の手に余る。

 望めば望むだけ、ツケが回って、取り返しのつかないことになる。


「まぁ、レイの場合は、前払いが激しすぎるから債務の罠で消えないでしょうけどね。出力が足りな過ぎて、ガビついてるわ。このままだと、レイの意識が戻っても、レイから派生したよく分からないモノに成りかねない」


 私はその場にしゃがみ込み、銃を構え、発射の反動に備える。

 敵の西洋風のドラゴンは三メートルの巨体。

弾を当てるのはそう難しくない。


「本当に、あの竜だけで、他に敵はいないでしょうね。こんなに拓けた場所で捕捉されたら、対応しきれないからね」


 職業柄、発砲前に、しつこいほどに周りを警戒してしまう。

 今度は、舌をペロリと出して、匂いよりもより敏感に、この部屋に満ちる空気を調べる。


「私とレイと。これはⅠちゃんのだし。竜は、うーん、たぶんこのくさいやつね。じゃあ、このサッパリとした甘みは」


 私はよく知っていて、知りたくもなかった感覚に、胃の奥が熱くなる。


「U、アンタもこの部屋にいるのね。多分、なぜかバラバラの玉座の後ろら辺かしら。白い暗幕の裏で私達を見てるんでしょう」


 思わず、イラッとする。


「じゃあ、あの赤い竜もアンタのシンパってわけ? もう! これじゃあ本当にタダ働きじゃない!」


 遠い昔、といっても私の頭の中ではそんなに前でもないのだが……。

 Uと働いていた。否、働かされていた頃を思い出す。


「毎日まいにち、早朝に呼び出されて、アンタが生み出した魑魅魍魎の元へ派遣させられて! あぁ、ダメだ。胃が痛くなってきた」


 今、思い返すだけでもブラックだった。

 地に塗られた生活で、何度死にかけたことだろうか。

 伝線したストッキングで墓が建つかもしれない。


「それでも私が文字通り、死に物狂いで働いたおかげで、今があって、この対価の力でレイを救えるのだろうけれども」


 私は地面にしゃがみ込んだまま、腹の奥に息を入れる。


「まずはあの竜の力、見せてもらおうじゃない」


 素直に、鉛弾を三発、連続して、赤竜の頭・首・腹に打ち込む。


「うん、ダメ。攻撃が通る未来が見えない」


 私は黒いマガジンをライフルから抜き出し、詰められた弾を口の中へ放り投げた。


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