16話
青い空を塞ぐ、巨人が立っていた。
頭には大きな六角ボルトが刺さり、繋ぎ目だらけの巨体が敵意をむき出す。
「えらいこっちゃ、えらいこっちゃ」
それを目視や否や、クラックは中央へ駆け出した。
「クラック、あのタワーになにが」
巨人の右手が隕石の如く、僕らの頭上に落ちて来る。
街はサイレンと悲鳴で大騒音状態。
人々が蜘蛛の子を散らす様に地下へと逃げていく。
水上都市が、巨人の変わり者の、文字通りのその手によって、潰されようとしている。
「いいか、レイ。あれは間違いなく、変わり者、おれ達の敵だ」
しかし、手は見えない何かにはじかれ、巨人は後に一歩、のけぞる形で後退。
「電磁バリアも長くは持たねぇ。一刻も早く、反撃しねぇと」
巨人が天に吠える。
再度攻撃を仕掛けて来る。
「じゃあ、シンボルタワーに向かってる理由は?」
「秘密兵器に決まってるだろう」
背後では、バチバチと、電撃の火花が散っていた。
継ぎ接ぎだらけの巨人を殴るたびに、白いフラッシュのような光が街を包む。
「どうしようもなく、やばくなったとき、おれの愛用戦闘機がタワーに運ばれてることになっている」
「それが秘密兵器?」
「いや、別だ」
僕らはビルにたどり着く。
何度見てもでかく、大きい。
間近だと首をいくらあげても、全容が見えない。
「このビル自体がカタパルトになってる。それが、この街の秘密だ」
「? 攻撃手段は?」
「俺だよ」
僕らはビルの自動ドアをくぐる。
後ろからは、バリアが破られた! もうおしまいだ! という人々の針のように鋭い悲鳴が聞こえる。
「終わらせてたまるかよぉ」
クラックはすぐさま、赤い戦闘機のコクピットに飛び込む。
僕はその姿を外から眺めた。
「おい! どうした、レイ。さっさと入れ」
「クラック! 僕も街を守りたい」
「おお、だからさっさと、戦闘機の後ろに乗れや」
「いや、だからこそ僕は乗れない」
僕はクラックに作戦を伝える。
「お前、正気かぁ?」
「バカげてるのは、分かってる」
「時間が惜しい。多少のすり傷は覚悟しろよ」
クラックが周囲のスタッフに手短に指示をとばす。
「これでいいはずだ。これで、街を救えるはずなんだ」
機体が地面に対して、ほぼ垂直に傾く。
「ほんじゃあ、天国でも見に行くか」
僕とクラックは、何万メートルも上空の、遥か彼方に見える僅かな光の点に向かって、とんでもない加速度で、ビルから吐き捨てられるかのように、弾丸のごとく、打ち上げられたのだった。
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