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21 板に付いた猫と娘に向ける視線

 そんな訳で、バーデンは王子セインの、俺は王女クイデの教師となった。

 確かにクイデは昔のセレジュに良く似ていた。

 ただ、おそらくその時の王宮の人間にそんなことを言っても絶対に信用されなかっただろう。

 セレジュは猫をかぶりまくっていた。

 かぶった猫が当たり前になりすぎて、笑顔一つとっても、心からのものではなく、貼り付けた様なものにしかなっていないと。

 そんな合間に、俺達は王宮の死角となる場所と時間を探し、三人で会うことにとうとう成功した。

 その時ようやく、仮面の様に貼り付いたセレジュの表情が昔のものに近くなった。

 彼女はこう言った。


「あんまりにも長かったから、上手く顔の筋肉が動かないわ」


 俺等と遊んでいた昔は、本当に表情豊かだったのに。


「仕方ないわよ。だって、こんな口調で話すこともできない。陛下がチェスの腕を見せろ見せろとおっしゃるのだって避け続けるの大変だし」


 でもね、と彼女は続けた。


「正妃様に第二第三王子が生まれて欲しいから、とお願いしたのは効いたわ。おかげで陛下の訪れが減ったもの」

「そんなにたびたびいらしていたのか?」

「だって、第一第二側妃様は、後ろ盾の大きい政治的なつながりの方々よ。陛下は私だけは自分自身の思いで、とかロマンチックなことを思ってらっしゃる。冗談じゃないわ。猫をかぶった私を見て好きになっただけでしょうに」


 ふん、と鼻で笑う。


「セインはそんな陛下そっくりよ」

「そしてクイデ様は君にそっくりだ」 


 俺は言う。


「そうね。あの子は明らかに。だからこそ私はあの子を見ていると悔しいのよ。第三王女ってことで、あまり期待されない分、結構好きにやっているわ。母親としてどうか、と言われても、そもそも私は母親になりたくなかったのだもの。乳母にできるだけ任せているのもそのせいよ。だいたい、陛下はあの子には乗馬服を着て普通の鞍で乗馬させているのよ」


 ああ、やはり根に持っているな、と俺は思った。


「俺等の地方がいけなかったんだろうな。北東の辺境伯令嬢は君の歳で馬を乗り回していたよ」

「辺境伯令嬢。どういう子だった?」


 ふと、彼女はそこに食いついてきた。


「凜々しいね。厳しい自然の中で生き抜く貴族の姿としてよく合っていたな」

「今幾つ?」

「確か、セイン王子と同じだったな」


 その話をしてから、しばらくセレジュは色々考えている様だった。

 俺はその間、クイデに勉強を教える日々だった。

 俺はできるだけ外に出た。

 色んな知識の基礎を教えるにしても、自然と戯れながら、歩きながら、覚える様にしていった。


「せんせい、何でこのはっぱは色が変わるの?」

「それはね……」


 彼女は好奇心旺盛だった。

 俺はおそらく、あの頃のセレジュが覚えたかったであろう知識をクイデに与えようとしていたのだろう。

 できるだけ母親の視界から遠ざけながら。

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