ラベンダー7
植物園のリニューアルオープンはそれはそれは華やかなものでした。写真でみたのですが、こんなに大勢の人で賑わう(植物園なので客層はほとんどおじいちゃんおばあちゃんでしたが)植物園はみたことはありません。僕はまだ三歳ぐらいだったのですが、広告の写真をみてどうしても行きたいと母にねだったそうです。僕の花好きはその時からでした。
その時のことはあまり覚えていませんが、今でも植物園は僕のお気に入りの場所です。特にお気に入りは、30種以上のバラが噴水を囲うようにぐるりと植えられた西洋風の庭です。モッコウバラのアーチを抜け噴水近くに据えられたベンチに座ると日本じゃない国に来た気分になります。薔薇はとても高貴な香りがします。高貴な香りとは、お父さんの受け売りですが、僕には凛とした花に高貴という言葉がぴったりだと思いました。
話がそれました。植物園のリニューアルですが、それはこの街の出身であるという、一人の学者先生が進めていたとのことでちょっと話題になりました。その頃、ちょうど園長さんが植物園を捨てて逃げてしまったので、その先生がほとんど一人で頑張って再興したらしいのです。園長さんには持病があったとか、借金があったとか色々噂されていましたが、少しだけ親交のあったお父さんは「確か心臓が悪いって言ってたよ」と病気でやめただけだろうと話していました。だだ、園長さんはかなりテキトーなおじさんで、水やりもろくにしていなかったとお父さんは怒っていました。「園長がいなくなってよかったよ」そんなことも言っていました。
四月オープンの植物園には、たくさんの花が咲いていましたが、中でも先生は喇叭水仙の花壇にこだわったらしく、今でも春にはきれいな水仙が良い香りを放っています。後から聞いたのですが、喇叭水仙には復活という花言葉もあるらしく「ぴったりでしょう」と先生は笑っていました。そのあと、先生は重大な秘密を話すように僕の耳に顔を寄せて、「この水仙は特別なんですよ。」と囁きました。