ラベンダー4
幼い頃、近所には寂れた植物園があった。広い敷地は、小さな季節の花を集めた四季の花壇、温室、桜や梅の林、バラ園などいくつかのエリアにわかれていた。エリア同士は細い小道で行き来ができたが、高い生垣とレンガの壁で囲われていて、それぞれが独立していた。
四季の花壇は、円を四つに割って春夏秋冬とそれぞれ時計のように花が植えられていた。しかし、その花は色褪せ地面に張り付いて、ほとんどが枯れてしまっていた。植物園が広すぎたせいだろうか、ほとんどが手付かずで捨ておかれ、管理が間に合っていないようだった。そういえば、夏の暑い日にも水を上げているのをみたことがなかった。置かれていた木製のベンチも虫に喰われ苔が生えていた。
こんなひどい有様の植物園だったが、一番荒れていたのはバラ園だった。開演当初は、イギリスのとある城の庭を模して話題となっていたらしいが、その様子は見る影もなかった。バラ園の真ん中に設けられた金属の噴水は緑青が吹いて濁った雨水が溜まっていた。モッコウバラと名札がされたアーチには黒く枯れた蔦のようなものが巻きつき、アーチの金色の塗料はべろりと皮のように剥げて地面に散乱していた。いくつか薔薇は咲いていたが、真っ赤に燃えるような鮮やかさは無く、ただ赤茶の無残な花が下を向いて咲いているだけであった。
こんな有様であったから、人は寄り付かず、ますます資金不足で植物園は荒れた。小学生は無料であったが、いつしかお化けがでると噂され、誰も近づかなくなってしまった。植物園はいつも暗い雰囲気をたたえていた。