鈴木太郎(バルフォード三世)
俺様・・・いや、私の名前は鈴木太郎。
とてつもなく平凡な名前の四十路のおじさんだ。
バルフォード三世の名で呼ばれている。
あの伝説のメタルゴッドの子孫という設定なのだ。
実は音楽家の父、歌劇団の母との子である。
音楽界のサラブレッドとして、幼い頃からクラシック音楽、西洋音楽やオペラなどの古典音楽の英才教育を受けてきた。
バイオリン、ピアノ、フルート、トランペット、ティンパニ、果てはハープまでほぼ全ての楽器を網羅し、様々な作曲家の教えの下、365日ほぼ休むことなく、ただひたすらに世界に名を馳せる音楽家になるのだと言われ、その通りに生きていた。
才能もあった。コンクール、コンテストや賞などを総ナメにし、世界有数の音楽家、演奏家にも引けを取らないほど成長した。
だが、私はすでに疲れていた。
周りからのプレッシャー、父から受けた拷問とも言える英才教育、母もおよそ愛情はなく、ただモノのように扱われた。名前からも察するにただ、自分達の分身を作りたかっただけなのだろう。
「死にたい」「楽になりたい」「こんな人生ならば、生まれなければよかった」
12歳の時、既に精神を病んでいた私は死に場所を求めていた。
ある日、とある国のコンテスト会場だった。
トイレに行くと言い、父と母の目を盗み、隠し持っていた長めのネクタイを使い自殺をしようと考えた。
「これでこの辛く苦しい人生を終われる・・・」
悔いはなかった。生の執着も全くない。その時トイレの鏡に映った自分の姿を見て、およそ生きているようには見えなかった。
「僕はもう、死んでる」
バレにくいように個室の端へ行き、ネクタイを荷物掛けに結び、よし死のうとした時である!
ガチャリ
だれか入って来た!・・・出ていくまで静かにしていよう。もしかしたら、少しの物音でバレてしまうかもしれない・・・
「ふいー間に合ったぜ〜」
三十代ぐらいの声か?短い独り言だが、あまり良い言葉遣いをするような人間ではなさそうだ。それにジャラジャラと金属が擦れ合う音がずっと聞こえる。
「おーい!早くしろよ!始まっちまうぞ!」
また増えたぞ?騒がしくされると困るのだが・・・
「◯ァック!トイレぐらいゆっくりさせろよ!」
「テメーのトイレで伝説が夢と散るかもしれねーんだぞ!この◯タレ◯ッチ野郎!」
「言ってくれるじゃねーかブラザー!その◯ァッキンマウスを俺様の◯◯◯で埋めてやるぞ!◯ァック!」
訂正、汚い言葉しか使わない連中だった!
そもそもこんな奴らが入って来れる場所じゃないのだが・・・警備員は仕事してないのか?
「あースッキリしたぜえ〜。やっぱヤル前のトイレは気合い入るな!」
「ハイハイ。いいから早くいくぞ!みんな待ってる」
「さて、◯ァッキン行きますか。悪魔的になぁ〜」
・・・ようやく静かになったな。
ある意味自分とは真逆に生きていたような人間だったが、もし生まれ変わるのなら、そういう生き方をしたかったな・・・
さて、早く楽になろう・・・
ネクタイに手をかけようとした・・・次の瞬間
ドカン!バコン!ギュギュギュギュ!
ドゴン!バキ!ウワアアアアアア!
凄まじい爆発音と、激しい重低音さらに複数の叫び声が聞こえたのだ!
「な、なんだ!?」
初めて聞く轟音に、ネクタイから手が離れ唖然としてしまった。
私は騒音の元を辿るべく、トイレから出て現場へ走った。
そして、運命の出会いを果たす・・・