福岡県久留米市 高良山付近の団地 23時ごろ
『すいません、「おっちゃん」。ちょっと大変な事に……今から、映像を送ります……あっ‼』
「小坊主」こと青円さんの慌てた声。
「あ……あの馬鹿……」
送られてきた画像を見て、私は、思わずそう言ってしまった。そこには、私が壊した筈のあの「水城」が映っている。
「めずらしいね……瀾ちゃんが動揺して……平常心に戻るまで2分以上かかった」
双子の妹の治水がそう言った。治水には、他人の心や体の状態を見る能力が有るので、この手の事はすぐにバレる。
「今村君と、瀾ちゃんの元彼女が付き合ってるのを知った時より、動揺してるね」
「すまん、ちょっと黙っててくれ、こちら『スーちゃん』、駄目元で聞くが、そっちにモバイルPCを持ってってる人は居ないか?」
『こちら「ファットマン」。何なら、俺が、今から……ざっと2㎞強だから』
「いや、駄目元で聞いたんだ。行かなくていい」
「水城」の制御コンピュータに搭載されてる無線LAN経由で、制御コンピュータにログインし、強制停止コマンドを打ち込む手は、当然の如く使える筈も無かった。
『こちら「ルチア」……今村く……じゃなかった「早太郎」が……』
「ルチア」チームの一番近くに有る地上型ドローンを移動させ、カメラを向ける。
「あの……瀾ちゃん……冗談抜きで大丈夫?」
横で見ていた治水が、そう言った。
「冗談抜きで大丈夫じゃない」
くそ……あの時、せめて、制御コンピュータのOSが入っている記憶媒体を破壊しておくべきだった。
いかすかない底抜けの馬鹿とは判っていたが、流石に、あいつの目の前で、あいつの父親の形見を完全な粗大ゴミにするなんて悪趣味な真似をやるのは気が引けた。
そのせいで、中途半端にしか制御コンピュータを壊さなかった。
しかし、私のその甘さが……この混乱した事態を生んでしまった。
……そう言えば、高専の生徒とか言ってたな……。なら、中途半端に制御コンピュータを壊しても、修理せる可能性を思い付いておくべきだった……。




