一話 偶然の出会い
ということで、始まりました新連載。
ただでさえ遅い投稿がこれ以上遅くなりそうです(orz)
「ぜぇ、ぜぇ・・・ああもう。どこまでもしつこいわね」
うっそうとした森林の中で一人。乱れた深緑の髪を荒ぶらせる少女は悪態を吐きながら、今出せる全速力で木漏れ日のさす獣道を駆けていく。
痛々しい応急処置の痕が残る片腕を晒し、黒く変色した血を流す額を抑えながら、後ろから来る者達に意識を向けた。
「・・・・・・」
数本後ろの木陰から、3体の機械兵隊が現れた。人のように二足二腕でありながら、獣の眼光のように奔る赤いポインターをそこかしこに向け、手足の関節から僅かに見える人工筋肉を脈動させる。そこにいる機械兵隊の一体が逃げる少女の背中に眼光を重ね合わせた。
「対象、ロックオン」
少女の後ろ姿を精確に捕らえた瞬間、眼光が一層に強くなり、その腕に備え付けられた銃身に、機体表面にあるものと同じ翡翠色のラインが描かれた。その情報が他の兵隊に伝わると、全ての兵隊は木々を軽やかに避けながら、各々のルートで少女の方に向かって行く。
「———CodeType:無法者捕捉
SelectShift√3『抹消/完全』ヲ続行
——————対象ヲ殲滅ス」
無機質に、そして平坦に。規則正しくこだまする機会音声と共に、ラインと同じ光の弾丸を射出した。
「だから・・・少しは遠慮しなさい、ってのよ!」
鬱陶しい脂汗と纏わりつく痛みとを振り払い、少女は腰元のポーチから正六面体のブロックを取り出し、後方に向ける。すると、兵隊の銃と同じラインが浮かび上がり、少女一人を包む程度の薄い障壁が現れ、弾幕を退けた。
(このまま領域外に行けば、まだ助かる見込みはある。
それまでは、何としても逃げきらなきゃ!)
生きる為、やるべきことを成し遂げる為。少女は活路を求めて走り続けた。進みなれない環境のせいか、傷が痛むせいか。まともに前に進む事もできずに後ろから距離を詰められ、弾幕を受けている障壁にもヒビが入り始める。そんな瀬戸際。少女の視界から森林が消え、穏やかな平原が現れた。
「やった、ついに領域外についた。これであいつらの動きも・・・!?」
そう呟いた瞬間。後ろからの強烈な衝撃が、少女を襲った。
「あ、が」
障壁のおかげで体に直接的外傷はほとんど無かった。しかし、その振動で少女の体は数m以上先に吹き飛ばされ、張っていた障壁は粒子となり、手の中のブロックは跡形もなく砕け散った。与えられた痛みに叫ぶ余裕なく悶えながら、少女は自身を撃った相手の方を見た。
(冗談、きついわ。最後の、最後で、ゴリ押しの叩きつけで終わり・・・?)
自嘲と諦観をかき混ぜたような、笑いとも苦悶とも言えない表情で見つめる少女。その姿に何を思うことも無く、兵隊はただポインターを相手に重ね続けている。
「対象ノ生存ヲ確認。SelectShift√7『領域外活動』ノ項目ヲ追加。対象ノ殲滅ヲ続行ス」
先程と同じ平坦な後付けフレーズを発し、再びその銃口を向ける。自分はもうおしまいなんだと悟った少女は目をつむり、凄惨な亡骸と化した自身と、その後の事の流れを想像した。
「おーっと、そんな風に一人だけを狙ってていいのかな?」
聞き覚えのない声が、生を諦めた少女の耳に入り込んだ。死ぬ間際の空耳か、それとも生きる事に執着したがゆえの幻聴かと思いながら、いつまでも自身に注がれない弾幕にしびれを切らし目を開く。そこには、自身を狙っていた兵隊が、一人の少年によって倒されている光景が映っていた。
「ふぅ。奇襲成功っと。こういう自動兵隊は武器が豊富な分単純だからありがたいや。しかも、偶然とはいえコアに的中してるし」
『言ってる場合ですか。他の機体が来る前にさっさと武器を奪っておいてくださいね?どんな時でも油断は禁物、ですよ』
首元の通信機から、穏やかそうな男の声が聞こえる。その言葉に従うように、兵隊の関節に朱色の刃を入れて強引に切り離し、腕の銃を取り上げた。
「はいはい。わかってるよ・・・っと、忘れるとこだった。キミ、大丈夫?動けたりするかな」
銃を取り上げた少年は、銃身に何か手を加えながら少女の方を横目で見ている。助けてもらった恩義を感じつつ、対応の仕方が失礼だと言いたいのをこらえて返答した。
「い、一応は」
「そうかい。なら、そこから動かないでおいてね」
短く告げると、少年は青い上着のポケットから小さな白の球体を取り出し、少女の方へ放り投げる。それが地面に落ちると、先ほどの数倍は強固そうな防御壁が少女に覆いかぶさった。
「流れ弾防止の為に張っておくけど、お節介だったらごめんね」
状況から見て、錯乱や疑心を抱いてもおかしくないと判断した少年は、少女が下手な行動に出ないよう言葉を選んで口に出す。少女が首を縦に振ったのを確認すると、他の兵隊が来るであろう方向に向き直り、持った銃を構えた。
「ボトルズ。銃の解析はできたかい?」
『バッチリできてます。というより、もう既にシステムデータを送ったので、貴方の持ってるとっておきを使えば撃てるはずですよ。存分にぶっ放しちゃって下さい!』
「よし。じゃあやろうか」
その言葉がトリガーになったように、少年の穏やかな笑みは一瞬で真剣な物へ変わっていく。意識を切り替え少し待つと、少年から少し左の方に兵隊の姿が現れた。
「対象ノ増加ヲ確認。SelectShift√3ヲ√6『多人数処理』ヘ変更
新規ノ対象ヨリ殲滅ス」
コンマ程度の間が空き、兵隊は先程の様に銃を構える。少年は狙ってきた兵隊の銃身めがけて先撃ちし、その弾道少しをずらした。急なイレギュラーに逸らされた銃からは威力が弱まった弾がいくつか発射され、その先にあった防御壁に衝突した。
「ぅあぁ!」
「その程度じゃ壊れないから安心して!」
慌てる少女に見向きせず、少年は兵隊に向かって突撃していく。懐に潜ってくる少年に対して銃口を向けず、先程の一体のように銃身を叩きつけにかかる。自身を地面のシミに出来そうな一撃に怯まず更に一歩踏みこむと、兵隊のポインター部分にゼロ距離でぶっ放した。
「手ごたえあり。これで止まってくれるかな?」
周辺情報を得るための手段が奪われ、回路の何割かが吹き飛ばされた。それで動きが鈍くなったものの、少年を無力化しようとデタラメに両腕を振り回し始める。
「っと。片腕に掠ったか・・・ボクも精進しないとな」
「・対・・象・・・存在ヲ・・・認・・・√・・・へ・」
「させるか!」
激しいノイズと人工筋肉の軋む音が耳につく。その不快音に顔を否ませながら、暴れる兵隊の上半身にしがみつき、露わになった赤いコア部分を見据えて、先程の刃の柄で砕く。コアを失った兵隊は力なく膝から崩れ、機能を停止した。
「コア破壊!それじゃさっそく戦利品回収を」
『待って下さい、まだ反応が一つ・・・来ます!』
動力を失い廃産機体と化した機体を漁ろうとした少年。しかし、そこで息を整えようとする前に、もう一体の兵隊が真横から突撃してきた。
「どうやら、一息つくくらいの余裕もくれないらしいや」
『減らず口が出てる時点で余裕見え見えですけどね?』
そんなことないと通信に返しながら、少年は停止した兵隊の影に隠れた。その姿を確認する為か、そのまま停止した機体ごと吹き飛ばす勢いで突っ込んでくる。
(・・・今だ!)
機体同士がぶつかる寸前に、少年は影から飛び出して兵隊の裏に回る。その動きに対応しようと動かした兵隊は停止しきれずに激突した。表面がバコボコという大きな音をたて、擦れるたびに甲高い金切り音と共に青い火花を散らしながら倒れる。そうして横倒しになった機体へ近寄って腹部の少し右脇よりの部分を撃った。
「さっきはここら辺にコアがあったんだけど、当たってるかな?」
そう呟き、自分が撃ち貫いた部分を見る。丁度その穴一つ分左へずれた部分に、赤く光を発しているコアが確認できた。
「あら、ちょっとずれてたか。それじゃあもう一度・・・うわっ!」
もう一度狙おうと少年は銃を構えた。が、今の一撃で少年を危険視した兵隊が素早く起き上がり、少年を排除しようとした。
「ちょっと、いきなり起き上がったりしないでよ。転ぶと結構痛いんだよ?」
体勢を崩しそうになり、銃の付いた腕に引っ付きぶらぶらしている少年。起き上がった兵隊は、自身の腕にしがみつき何かしている少年を振り払って、乱雑に遠くへ投げ飛ばした。
「その程度かな?ほらほら、こっちだよこっち!」
吹っ飛ばされながらも、少年は平然と手を叩いて挑発する。標的が腕の射程から外に出ると、宙にいる少年に銃口を向け弾を撃ち放つ。しかし、その弾は正面で捉えた対象を撃ち貫くことはなく、銃身内で跳ねまわり爆裂した。
「隠れた相手には警戒しないといけないよ。じゃないと、そういう風に銃口の中にガラクタ詰め込まれたりしちゃうからさ」
満足げな表情で受け身を取って着地した。内から暴発した衝撃で片腕から胸部辺りまでが破壊され、その衝撃で再び横倒しになっていた。
「まあもっとも、言うには遅いし自動兵隊に言っても分からないんだろうけど。
それじゃ、これで今度こそ詰みだね」
何でもないように起き上がり、的確に三発目をコアに撃ち込んだ。撃ち込まれた兵隊は先ほどの機体のように機能を停止し、動く気配はない。
「ふぅ。意外と手間取ったな・・・それじゃ、回収回収」
派手に動き回っていた少年は何でもない様子で兵隊を漁っていく。それを唖然してと見ていた少女を守り続けていた防御壁が揺らぎ、乱れた映像の様に消滅した。
「あ、消えちゃった・・・ボトルズ、今のデータ取れた?」
『勿論。簡易シェルターの性能・問題点と戦闘記録。状況記録までバッチリですよ・・・ですが、次こそ単独特攻しないでくださいね』
「善処はしとくよ。それより、ここから一番近くて休めそうな場所までのナビお願い」
『それよりって・・・はぁ。了解です。ちょっと待ってて下さいね』
少年は胸のポケットから端末を取り出し、そこから伸ばしたコードを破壊した兵隊たちの回路に当てる。触れているコードの先から黄色の光が駆け回り、その兵隊内をぐるりと一周して端末へと戻っていく。戻った光と共に現れた情報を見て、通信相手と同じような溜息を吐く。
「なんだ。これ自体はただの破壊具なのか。じゃあ、給金はそこまで期待できないな」
「・・・貴方、いったい何者なの」
「ん、ボクかい」
「ボクはハック。ハック・スティルディン。様々な区域を巡る環掘士の一人だよ。
そういうキミは、なんていうんだい?」
「・・・あたしの名前は、エイダ。その・・・助けてくれて、ありがと」
「ん。どういたしまして、エイダ」
照れくさそうにお礼を言うエイダ。ハックは何でもないように受け取ると、倒れたままのエイダを抱え上げた。
「ちょっと、わわっ」
「その様子だと、まだ動くの辛いんだよね?もう少し安全な所で処置するから、ちょっとだけ我慢してて」
少女一人を持ち上げた状態のままで、通信機に手を伸ばしマップを出現させる。そこには、直ぐ近くの岩場の座標を示す点が表記されていた。
「こっちか」
目的座標の方角と自分の進行方向とを何度も確認し、少年はゆっくりと歩きだした。
どうだったでしょうか。ただでさえ執筆経験が浅いというのに、慣れない近未来のSF作品というものを書いたのでおかしい点が多々あると思われます。
ですので、おかしいと思われる点は徹底的につついてもらえるとありがたいです。