No.24 三話 ~1~
【コード3】
暗く湿った下り階段を上り、俺は閉塞感と緊張感から解き放たれた。それでも階段の先にある地下室にはまだ溝の臭いが立ち込めていた。全くうんざりする様な職場だ。一日あたりの給料がいいからといってこんな仕事を請け負うのは止めるべきだった。
だが、今回に限ってはそうとも言えない。手のひらにようやく収まるほどの瓶の中にある真っ赤な心臓を見つめて俺はこれまで感じたことの無いほど達成感を覚えていた。探し続けていたものがようやく手に入ったのだ。研究室の隅でネズミに齧られない様に大切に取っておいた妹の身体に駆け寄り、俺は心臓を瓶から取り出す。
「遅くなってごめんよ。でもこれでまた二人で暮らせる。今度はきっと一人にしたりしないし、寂しがらせるような事はしない。お前が大人になる時まで俺が守ってやる。」
時というものは残酷なものだ。太陽の光にも負けない輝かしさと夜空に浮かぶ星の海にも劣らぬ美しさを持っていた彼女ですら、死して時間を刻めば肉は腐れ落ち、蛆が湧く。あまりの痛ましさに流れ落ちそうになる涙をこらえながら、俺は大きく開いた胸の穴に心臓を納めた。
後は隙を見ては盗み書きしていた蘇りの儀式をすればいい。それで俺は蘇った彼女と昔の家に帰り、もう一度あの生活に戻るんだ。夢にまで見た未来を瞼の裏に思い浮かべると興奮が抑えきれない。思わず俺は身震いを起こす。
だがしかし、現実とは無常だ。扉の向こうに主の帰宅を告げる足音が排水路の壁に反響しながら聞こえてきた。予定よりもずっと早い帰宅だ。
俺は慌てて妹の死体に覆いを被せる。そして空になった心臓の瓶に気がついた。どこかに隠せる場所があればいいのだが、主は実験になると想像がつかないような場所を開いたり探し回ったりする。この部屋に隠すのはリスクが高すぎる。
俺は空瓶を片手にもう一度地下へ向かう階段に駆け込んだ。隠すならまだ幾つかある空瓶の中に紛れ込ませるのが一番だ。急いで戻ればきっと間に合うに違いない。もし間に合わなかったら、その時は殺してしまえばいい。あいつは俺の仇なんだから。
第二十四回
今回は少なめに。なぜって? 次が長いからさ。お楽しみに…
青六。




