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初めまして、クレイマン  作者: 青六
20/40

No.20 二話 ~8~


 アルマさんが部屋の中に並ぶランプに火を点していくと、徐々に部屋の中が見えてきた。暗闇から浮き上がる部屋の中は典型的な魔術師の研究施設の形をしている。並ぶ本棚にフラスコや三脚台、大きなテーブルには数本の肉斬り包丁が突き立てられていた。ざっと見回しただけここが人体実験を主に魔術の実験をしていたのが分かる。ただ、部屋の何よりも目を引くものは部屋の中心から何かが爆発したように壁、天井、床に飛び散った血肉の跡だった。

「うっ!」

イキシアさんがハンカチ越しにこみ上げる嗚咽を押さえ込んだ。確かにこれは壮絶な光景。

 天井からぶら下がった腸か何かを引き剥がしてアルマさんが臭いを嗅いだり、指で挟んで感触を確かめる。

「二週間は経ってるな」

「う~ん。俺は三週間と見た」

「なに? どれ、見せてみろ」

壁に張り付く肉片を剥がしては指先で転がしながらクレイさんとアルマさんは勝手に論議を始めだした。本職はこのぐらいでは驚かないものらしい。

 僕は先ほどから胃袋の中でカバディを始めた内容物を押さえ込みながら、なるべく汚れていない小棚や本棚を物色することにする。あの二人の調子に合わせていたのでは頭がおかしくなりそうだ。それはイキシアさんも同じみたいで部屋の隅で小さくなっている。

「おっ、目玉見つけた! おりゃ!」

「痛ってぇ。投げんじゃねぇよ」

「投げてない。パスしたの~」

「パスするのに頭狙う奴がいるか!」

「うわっ! ばっちいから投げ返すなよ」

「始めに投げたのは誰だ馬鹿野郎」

僕が本棚から本を抜き取る中、どうやら頭のおかしいあの二人は目玉の投げ合いっこを始めたらしい。祖国にいたマッドネスな魔術師も流石に誰のものかも分からない目玉で遊んだりはしなかった。どこの国かは分からないけれど、切り落とした首をボール代わりにして遊ぶ野蛮な民族が居ると聞く。きっとあの二人はその子孫に違いない。拝啓父上様母上様、この国には蛮族という恐ろしい魔物が住み着いているようです。

「アイリス、これは一体何があったんだ?」

部屋の隅で大人しくしていたイキシアさんが、暇をもてあましたのか僕に尋ねる。一応一緒に調べている体を装っているのだけれども、どうも具合が悪そうだ。

「爆弾とかそういう物ではありマセン。きっと魔術的な何かデス」

「その根拠は?」

「炸裂の中心に近いテーブルや床、天井に爆発痕が無いデス」

「なるほど」

イキシアさんは感心したように頷きながら僕の手の届かない場所にある本を取って手渡してくれる。本棚の上のほうにあるものは揃いも揃って禁術の類ばかりだ。本の中に書き込まれている文字は師匠のもので、ここにある本だけでも師匠の家で見覚えのあるものが幾つかある。間違いなくここに師匠は、デリンジャーは居たはず。僕はイキシアさんの袖を引っ張った。

「イキシアサン。この部屋に心臓の入った瓶か何かが在りマセンカ?」

「心臓?」

「はい。師匠が本当に連続殺人鬼であったのならその心臓を保管しているはずデス」

一瞬嫌そうな表情を浮かべてイキシアさんは部屋の中を見渡した。そして小さく首を横に振った。

「ではどこかに隠し部屋があるはずデス。魔物にすべての心臓を使ったとは思えまセン」

「隠し部屋、というと本棚の後ろとかか?」

「そんなベタな所には無いと思いマス。おそらく・・・・」

「おーい、この本棚動くぞー!」

僕がこの部屋の構造から考えてベストな隠し部屋の場所を予想していたそばから、クレイさんが当たり前のように本棚をスライドさせていた。その奥には階段が見える。まさに隠し部屋。我が師匠ながらその隠し方は浅はか極まるのではないでしょうか。もっとこう、石畳の下にあるとか暖炉の影にあるとか隠し様は山ほどあるのに。

「えっと。ドンマイ?」

イキシアさんは苦笑いを浮かべて僕の頭を撫でてきた。そんな目で見ないでください。泣きたくなってきたじゃないですか。

 緊張感のかけらもないクレイさんとアルマさんの二人が隠し部屋の中に消えていくので、僕も急いで二人の後を追いかけた。


第二十回

おめでとう! 第二十回です。それほど大した話はないですが、ちょうど今回で物語の折り返しを迎えました。ということは残り二十回分もあるのか…。予想ではそのくらいです。お楽しみに…??


青六。

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