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初めまして、クレイマン  作者: 青六
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No.18 二話 ~6~


 始めて会ったときから見たことあるような気はしていたんだが、人の記憶なんてそうそうあてにならない。誰かに似ているだけだと思っていたけれども、名前を聞いてようやく思い出した。

 私は事務所の古新聞置き場を掘り返して曖昧な記憶の下、例の記事を探し出した。

「あったぞ、クレイ!」

机の上に新聞を広げるとふてくされた顔でクレイは私を睨みつける。

「どうした?」

「何か納得いかねぇ。お前が覚えてれば俺は殴られずに済んでたんだぜ?」

「悪かったよ。それはさっき謝っただろ」

「そうなんだけどよ」

何が納得いかないのかよく分からん。私に出来る事は大体全部やったのだ。

 とにかく、どうにかできる問題ではなさそうなのでさっさと新聞のほうへと視線を移した。確かこの日の新聞の二面かどっかにあった気がするんだが。新聞の隅から隅へと視線を動かしていくとやっぱりあった。小さな写真と十行ほどの記事だ。

「これだ!」

私が指をさすとクレイは新聞に顔を寄せる。

「この子供、さっき見たぞ」

写真のうち片一方をクレイが指差した。年頃の少女が滲んだインクの上に印刷されている。そしてその隣にもう一つの写真。クレイの顔が映っていた。

「『マーセル・ロイドの妹、ニーシャ・ロイドが心臓を抉られて殺された。手口は実に巧妙でニーシャ・ロイドは絶命する前に心臓を抉り取られていた模様。そのことから医師、もしくはその分野に深い知識をもつ者による犯行とみなし警察は全力を挙げて捜索中である。ロイド兄妹は裕福な家庭に生まれたものの両親の貿易業が失敗し、多額の負債を抱えていた。両親は二人を残して自殺。両親の借金を抱えながら健気に生活していた仲の良い兄妹に降りかかった悲惨な事件であった。』・・・か」

私は新聞を食い入るように見つめるクレイを見た。新聞の写真はもう少し幼いころの写真だったのか、今のクレイに付いている『マーセル・ロイド』の顔は多少青年っぽさを帯びている。

「大丈夫か、クレイ?」

あの部屋での一件以来、クレイが黙り込んでいるとどうしても心配になってしまう。また人形のように朦朧とした目つきになってしまうのではないか。今度そうなったら正気に戻らなくなるのではないか。そんな根拠のない心配が頭を巡ってしまう。ただ、今はそんな事はない様子だ。口元を押さえてクレイは私を見た。

「さっき誰かの記憶を見たって言ったよな」

「うん」

「あれ、実は二人の記憶を見ていたんじゃないかと思うんだ」

「別人の記憶か・・・」

確かにクレイは一度『イド・リヴァー』の人格になったこともある。他の二人の記憶や人格が残っていてもおかしくはない。

 だがそんなことを言ったらクレイは一体誰なのか分からなくなってしまうのではないだろうか。ただでさえ人間はその記憶と外見で個人を特定しているのに、複数人の外見を持ちながら複数人の記憶まで持っていたら判別なんてつくはずがない。それをクレイ自身は理解しているのだろうか。

「俺の記憶が正しければニーシャを殺したのは『デリンジャー』だ」

「やっぱりそうなるよね。となると頼りの綱はアイリスか?」

「一番の近道は、な。頼りになるかは知らねぇけど」

ひとまず自分の体を構成する人間たちが分かったので安心したのか、クレイは大きな欠伸をして椅子にもたれ掛かる。その拍子に椅子の脚が軋む音がした。

「今日は悪かったな。折角デートに誘ってくれたのによ」

何を思ったのか神妙な顔をしながらクレイは言う。別にデートとかそういうつもりは無かったんだが、よく考えるとそうも思える状況だったんだな。考えて見るとなかなか大胆な行動だったと思う。

「本当だよっ!」

私は机の下でクレイの脛を蹴ってやった。

「痛っ!」

「痛かろう」

「だから何でそこで嬉しそうにするかな」

文句を言いながらも痛そうに脛をさするクレイはいつも通りのクレイだ。何故かその姿を見ていると私はほっとする。いつもと変わらないこの空気が何時までも続けば良いのに。でもクレイが記憶を取り戻したらこんな時間も終わってしまうんだろう。そう思うとクレイの記憶が戻って欲しくないという気持ちがこみ上げてくる。こんなこと言ったらクレイは怒るんだろうな。私は思わず苦笑いがこぼれてしまった。


第十八回

この物語には複数の女性が登場します。メインもくそもない話ですが、書き手からすればアルマが一応メインヒロインでしょうか。そんな気がします。


青六。


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