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初めまして、クレイマン  作者: 青六
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No.16 二話 ~4~


 この時間の処理場は昼に増して何かが出てきそうな恐ろしい雰囲気が漂っている。今のところ何も出てきてはいないので別にこれといって怖いわけではないが、それでも一人で来るのは気が引ける。懐中電灯に映し出される範囲以外は影の輪郭しか見えないほど暗い。何度か足を取られてこけそうになるアイリスの手を取り、アルマが微笑んでいた。この獣は今更母性本能に目覚めたのだろうか。なんて事は思っても絶対口にしない。

「ここがモルグ、デスカ?」

後ろから見る限り親子に見えなくもない子供役その一が、母親役その一を見上げて訊いた。案の定、会話の内容はろくなものではない。

「モルグなんて洒落た名前はついてないよ。ここはゴミ箱の一歩手前」

「そんな言い方すると罰が当たるぞ」

「罰が当たるならとっくに当たってるよ。お前もな」

「出来ればアルマだけに当たると助かる」

こちらを一目もしないでアルマの回し蹴りが俺の太ももに直撃。痛い、とにかく痛いけど我慢する。というか子供の前でそんなこと言っちゃいけないでしょ。死体はどこかの売れ残った惣菜とは違うんだよ。この街では残飯みたいなもんだけど違うんだよ。そうじゃないと困る。倫理的にかつ道徳的に。

「それはそうと、魔法使いの死体なんて見分けつくのかよ?」

俺はじわじわ痛みの広がっていく脚を引きずりながら意地で平気そうな態度をとった。ちょっと声が震えてるのは泣いてるからではない。

「魔法使いは普通の人間と違う背骨を持ってマス。それは死ぬと液体になって消えてしまうんデス」

「またそりゃ、エグイ話だな」

「そもそも魔法使いというのは血を媒体に魔法を使いマス。個人個人で得意不得意ありマスシ、血で誰の魔法かも分かりマス」

「でもって魔法使いが死ぬと心臓が止まって背骨が解けるってわけ。だから魔法使いの死体は背骨が無くて蛸みたいにウネウネしてるんだ」

「蛸は足がウネウネしてるからまだ許容範囲内だけどよ、体がウネウネしてる人間は完全にアウトだぜ」

アルマが両手を伸ばして体を波打たせている。何のまねだそれは。俺のマジックポイントを削ろうとしているのか。俺は後ろにいる事といいことに冷たい視線をアルマの背中に浴びせつつ冷めた笑みを浮かべた。あぁ気持ちいい。

 階段を上りきって汚れた壁沿いに進んだ先。普段俺が入らないほうの死体安置所だ。そこに入ってすぐの保管庫でアルマが足を止める。こっちは保管庫のドアに鍵がしてあるらしい。アルマが南京錠か何かをガシャガシャしている。

「ここは鍵つきなんだな」

「魔法使いの死体は何があるか分からんからな。突然生き返ることもあるから用心して鍵をしてるんだ」

用心ってそれ閉じ込めてるんじゃないのか。中で生き返った魔法使いは驚きだ。やっとの思いで生き返って「やったね!」と思ったら生き埋め状態だなんて。全く不憫な話だ。

 アルマは鍵を開けるとドアのロックを外す。金属の重たい音が処理場に響いた。営業時間外の静まり返った処理場の中ではその音がやけに大きく思える。

「とりあえず見る前に覚悟だけはしておいたほうがいいな。魔法使いなんてみんなろくな死に方しないからね」

「そういうものでショウカ」

「そういうものなの。クレイ、ゲロ袋渡しておいて」

「はいはい」

俺はあらかじめ持ってきていた買い物袋をアイリスに手渡す。アイリスはなんだか馬鹿にされたような気分になったらしく、ふてくされた表情を浮かべながらゲロ袋を受け取った。

「僕はそう簡単に吐きまセンヨ!」

「それは良かった。では一つ目~」

アイリスの強気発言に相手を煽るような物言いをしてアルマが死体を引っ張り出す。

 これは、なかなか酷い。言葉にすると伝わりにくいかもしれないが体が四百度くらい捻じ曲がってるし、よくわからないけれど足が肩から生えてる。もうどっちが頭でどっちが足か判断出来ない状態である。これはもう背骨がどうとかいう話ではないような気がするんだが。

「うっ・・・オロロロロロロロロロロロロロ」

「早いなおい! あ~あ、俺の晩飯になるはずだったものが・・・・」

なんてこったい。見た目は可愛らしい女の子でも嘔吐は一人前な勢いだ。嘔吐に一人前もクソもないだろうけどアイリスは盛大にゲロ袋にゲロを流し込んでいった。そして袋から顔を出すと涙目で俺を見る。

「・・・はい。お返ししまふ」

「いらねぇよ」

もちろん即答。てか俺のつぶやきを聞いてたんだな。感心感心。

「コントはいいから二つ目行くぞ~」

アルマは全くお構いなしな様子でアイリスが一通り吐き出したのを確認して次の死体を引っ張り出す。とりあえず一つ目の死体をしまって欲しいんですけど。

 俺の気持ちなんて端からお構いなしのアルマが引っ張り出す次の死体は、一つ目と比べてもなかなか強烈だ。これまた何故か頭が三つ生えてたり、腹から気持ち悪い昆虫みたいな足がいっぱい出ていたりする。だから背骨関係ないじゃん。

「ひっふっふ・・・・・オロロロロロロロロロロ」

今度はちょっと我慢できたらしいが、アイリスはまたマーライオンばりの吐瀉物放出をしている。その体の一体何処にそんな量が入っていたのか疑問に思える。もしかしてケツかどっかにホースでも付いているのではないだろうか。

「まだ吐けるのか。凄いな。感心するわ」

そんなところに感心しても仕様がないが、そう言わせるほど豪快な吐きっぷりだった。

 吐き終わったらしいアイリスを見ているとさっきよりもさらに酷い顔をあげる。そして彼女は俺にゲロ袋を向けた。

「ふぁい」

「だからいらねぇって」

「お前ら仲良いな」

「誰がこんなゲロ娘と仲良くするか!」

「酷いれふ・・・・」

「あぁ~分かった分かった。ほら背中さすってやるから」

すすり泣きを始めるアイリスが死体よりも不憫に思えて仕方なく彼女の背中をさすってやる。子供はすぐ泣くから困る。いや、大人でもすぐ泣く奴がもう一人いたっけ。あっちはもうどうでも良いけど。

「次が一番酷いから覚悟しろよ」

もうなんだかいじめっ子の表情になりつつあるアルマが次の死体を引っ張り出そうと身構えている。今か今かと待つその顔には素晴らしい笑顔が浮かんでいる。お前の母性本能は随分安値で売り払われるんだな。ちり紙交換並みのぼったくり具合だ。

「流石にもう何もでまふぇんでふ・・・」

「だと良いが」

もう吐かないでくれると俺も、一杯になりつつあるゲロ袋も、お互いに助かる。いや本当に。

「ふぇぁオロロロロロロロロロロ」

そんな願い事は流れる星に願っても無駄だった。もうゲロがゲロ袋からこぼれて床に落ちている。何時まで吐くんだろうというほど長く続く嘔吐にゲロ袋の体力はゼロどころか一回りして生まれ変わってしまいそうだ。まぁ生まれ変わってもただのゴミになるんだろうけど。

「袋じゃなくてバケツ持って来るべきだったな。で、結局探し人はいたのか?」

すすり泣きとか半泣きとかいうレベルじゃなくなっているアイリスは健気にも首を横に振る。

「まぁ、これだけ酷けりゃわかんねぇよな」

背中をさすりながら頭を撫でてやる。迷子になった子供なみに泣くアイリス。目の前にはびっくり人間の死体、手にはゲロ袋、向かいには「今どんな気持ち?」と煽りの表情を浮かべるアルマ。シュールな光景である。しかしアルマ、お前って本当にクソ野郎だな。

「なんだ。こっちに居たのか。事務所を探してしまったぞ。」

 泣きじゃくるアイリスを適当にあやしていると突然誰かが部屋に入ってきた。声で大体分かるが振り返るとやっぱりイキシアだった。状況が全く分かっていない表情である。大丈夫だ。俺も良く分からない。

「イキシアじゃん。どうしたの?」

いつも通りの態度に戻ったアルマが懐中電灯でイキシアを照らし出す。切り替わりが早い。たちが悪いほどに早い。流石だぜ墓場娘。

「大した用事ではないんだが、その~」

頬を人差し指でさする漫画でしか見た事ない典型的なはぐらかしをするイキシアは、視線を部屋の隅へと持っていく。どうせしょうもない理由に違いない。最近筋肉痛が二日後に来る、とかそんな所だろう。

 くだらない事を考えているうちに泣き止んだアイリスが急に俺の手を跳ね上げる勢いで顔を上げた。俺は驚く。

「はっ、この匂いは!」

首を左右に振り回して鼻をスンスンいわしている。そしてイキシアを見るとゲロ袋を投げ捨てて彼女に駆け寄っていった。

「うわ、なんなんだこの子供は!」

懐に手を突っ込んで弄る少女にイキシアは慌てて俺たちに説明を求めている様子だ。しかしそんな事よりも俺はゲロまみれになった靴を何とかしたい。どちらかといえば俺のほうが助けて欲しいくらいである。

「このハンカチ。これから師匠の魔力の匂いがします。この血は誰のものですか!」

一体何処から引っ張り出したのかアイリスは真っ赤に染まったハンカチを高々と掲げた。口の周りにまだゲロがついてるのもお構いなしだ。

「え? あっ、その・・・これはあの~」

イキシアは何故か耳まで赤くする。俯いてしばし考えるとゆっくりと俺を指差した。

「ええぇぇぇぇぇぇ」

アイリスは俺のほうを向きながら驚愕の声を上げた。

第十六回

個人的にこのふざけた感じがとっても好き。でも話はちゃんと進ませる。この感じも好き。勝手に自画自賛。でもそれが一番のモチベーションですよね。


青六。

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