No.15 二話 ~3~
それにしても奇妙な二人組みだ。僕は空になった皿と満たされた胃袋で居心地良く言い争いをする二人を眺めた。一人は金髪の女の人で細身の割りに胸が大きい。確かアルマと言っていた。もう一人は大柄でこれといって目立ったところの無い顔つきの男で、クレイとかなんとか言う名前。二人ともちょっと奇妙な性格だが不思議と親近感のわく人だ。僕は口の周りについたソースをテーブルクロスで拭う。
「ごちそうさまデス」
「おう、もういいのか?」
頭一つ分は小さいアルマさんに押さえ込まれるクレイさんが意外そうな顔をしてこっちを見た。普段に比べたら三倍くらい食べたのだけど、この人たちから見たら小食に思えたのかもしれない。
「もうお腹一杯デス」
「よし。じゃあ俺が残り食べていいな!」
「何言ってんだ? 働かざるもの食うべからずって諺があるだろう」
「馬鹿野郎、今日一日でどんだけ働いたと思ってんだ!」
「五月蝿い! 私が見てないときに働いても意味無いんだよ!」
「うわっ、でたよ。鬼畜発言!」
部屋の隅々まで聞こえる綺麗な炸裂音とともにクレイさんは頭を抱え込む。いつの間にかアルマさんが片手に持った硬そうな靴が彼の頭頂部にヒットしていた。苦悶の声を上げながら床で悶絶するクレイさんを楽しそうに眺めてアルマさんが椅子に座る。そして鍋の中を綺麗に自分のさらに注ぎ込んだ。他人として見てもクレイさんがあまりにも惨めだった。
「そういえばアイリスは外国から来たんだったよな?」
「ハイ。南の大陸から貿易船に乗って来マシタ」
「外国人にしてはこの国の人間みたいな名前だが」
「半分こっちの血が入ってマス。だから言葉もそれなりに話せマス。」
「なるほど」
スプーンを口に入れながらアルマさんが小さく頷く。
「しかし南の大陸から遥々何のためにこの街に?」
「人探しデス」
アルマさんのスプーンの動きが口元で止まった。何かまずいことを言ったのか。気づくと床でミミズのようにのた打ち回っていたクレイさんが頭を抑えながら立ち上がっている。
「それってどんな人?」
あれだけ思いっきり殴られて、もう平気なのかと一瞬思ったがやっぱりまだ痛んでいるようだ。涙目になりながら鼻を啜り問いかけてきた。何だろう、ちょっと危ないにおいがしてきた気がする。
「あぁ、別に警戒しなくていい。こいつが記憶喪失でさ。記憶の手がかりを探しているんだよ」
「でも、別人デス」
「それが当てにならないんだな~」
どういう訳かは分からないけどそれなりに深い事情があるみたいだ。そこまで訊く気にはなれないけど、この様子だと人探しの手伝いくらいはしてくれそうだ。私はちょっと頼りないクレイさんを見た。
「その探してる人というのは、魔法使いなんデス」
「あ? 魔法使い?」
「ご存知無いデス? この国では魔法使いが知られてないのデスカ?」
「まぁ数は少ないけど居るよ。知らないのは単にこいつの記憶が無いだけ」
アルマさんがハンバーグに視線を落としたまま眉を吊り上げて言った。適当な扱いに不満そうな表情を浮かべるクレイさんは拗ねたように机に肘をついている。僕が言うのも変なのかもしれないけど、まるで子供のような態度だ。
「僕が探しているのは普通の魔法使いではアリマセン。心臓を抉る殺人鬼デス」
「殺人鬼って・・・・嫌な感じだな、おい」
「この街で連続殺人鬼が居ると聞きマシタ。僕はその人を探してマス」
「クレイは知らない話だ。お前が来る前に流行ってた事件でな、夜な夜な人を殺しては心臓を抉っていく狂気殺人って新聞によく載ってたよ。」
「人の心臓は魔術界では生命の根源とされてマス。僕の師匠はまさにこの街で行われていることをして祖国を追われマシタ」
「それを追って来たわけ?」
「師匠はいけないことをしていマス。それを止めるのが弟子の役目デス」
他の門下での師匠と弟子の関係がどんなものかは良く知らない。けれども祖国の審問から逃げ出した上に、外国でさらに悪事を重ねる師匠を止める人間はたった一人の弟子である僕以外に誰がいるだろうか。その決意と意思で幾つもの海を渡り、大陸を歩いてきてようやく見つけた手がかりだ。何とかここ当たりで師匠を見つけておきたい。
「でも最近はその話も出なくなってきたからな。どっかに行ったか、誰かに殺されたか・・・・」
「でしたらその手がかりを探すだけデス」
「そう言えば最近入ってきた魔法使いの死体があるけど、見ていく?」
「もちろんデス!」
「あんまりお勧めしないけどなぁ」
口にしている台詞とは正反対に、何かを企んでいるような含み笑いをしながらアルマさんは言った。
第十五回
いい加減な設定のアイリスですが、実は物語の重要なキーになるキャラクターでもあります。とにかくいい加減なので動かし易さに関しては頭一つ抜ける子のヒロイン。シリアスもコミカルもこなせる人物は良いものです。私もずいぶん彼女に助けられました。どうぞ彼女の自由奔放な様子を楽しんでください。
青六。




