No.1 プロローグ
~プロローグ~
酷く頭を打つ鈍い痛みに俺は目を開けた。耳に鼻に口に入った気持ちの悪いものを一度に吐き出して俺は息を吹き返す。ずいぶん久しぶりに吸い込むような気がする空気は生暖かくて湿っていた。相当な時間、暗闇に身を沈めていたのだろう。薄雲に隠れたおぼろげな月の明かりですら眩しかった。
体は重たくて腕ひとつ動かすだけでも全身の筋肉が引きつる。徐々に温度、感触、臭い、音、が体に馴染みだして俺は自分が今この場所に生きているということを理解した。
「生きてるか?」
ぼやけた世界に初めて見る顔が浮かび上がった。綺麗な金髪が目の前をちらつく。俺は目を凝らしながら瞼に張り付く泥を剥がし取った。
「あんた誰だ?」
ジーパンにジャケットを着た女は、俺を見下ろしたまま微笑んだ。
「私はアルマ。お前は?」
「俺は・・・・・・・・誰だ・・・?」
「面倒な拾い物しちゃったかな」
その表情を隠すことなく彼女は顔にしわを寄せて苦笑い。唇に指を当て、しばし考える素振りを見せた彼女は名案とばかりに指を鳴らした。
「泥だらけの男。『クレイマン』でどうだ?」
俺の名前のことを言っているのかもしれない。そうだとしたら安直でいい加減な銘銘だ。
「どうだもくそもないだろ」
何が面白いのだろう。満足そうに何度も頷いた彼女は屈託のない笑みを浮かべた。その表情に俺は一瞬心を奪われて見とれてしまう。だが彼女はそんな事には気づかない。俺の見とれた顔はすぐに引っ込み、元の顔に。
「ところで、腹減ってないか?」
「・・・まぁまぁ」
「じゃ、飯にしよう」
なんだか一方的に言うと彼女は俺に手を差し伸べた。その手に引っ張り上げられて体を起こした俺はボーっとする頭で自分の体を改めて見つめる。泥に塗れていても分かる大きな手と締まった脚、自分のものなのに他人の体を見ているような不思議な感覚を思えた。
これが物語の始まり。その日は季節はずれの猛暑の日だった。
この度は「陽の射さぬ日向で」を読んでいただき有難うございます。既に完結済みですので定期的に読みやすい分量で更新してまいります。よろしければお付き合いいただければ至極!
青六。




