5話 説明。登録。…ん?
「――と言うわけですが、以上の中でご質問はございますか?」
「多分覚えられないんで、その時その時で聞きます」
全て口頭での説明。
異世界あるあるではないけど、ここでも紙は量産品ではないんだろう。
素直な方ですね、と言われたが、わかったと言って後で情けなく聞くよりは断然マシだ。
とりあえず要約すると。
・冒険者にはギルドカードが発行される。
・ギルドカードは身分証明書を兼ねる。
・ギルドカードの再発行は大金が必要。
・冒険者にはランクが設定されている。
・上からS>A>B>C>D>E>F。
・冒険者としての強さを基本として、貢献度、依頼をこなした度合いによってランクは上昇する。
・依頼は自分のランクまで受けられる。
・一つの依頼を複数人で受ける場合、上位ランクの依頼を受けることも可能。
・複数人で受けた場合、達成報酬は頭割り。
と言ったところ。
細かいことは他にもあるけど、その時々で聞いたり思い出したりしたらいいや。
後はギルドカードの説明として、
・氏名やランクの個人情報が記載される。
・レベルを含むステータスを数値化したものが表示される。
・所持するスキルが表示される。
・情報開示は任意。
・開示範囲も任意。
・持ち運びは楽。
くらいかな。
最後の持ち運びの意味がわからなかったけど、そこは後ですぐにわかった。
ステータスの数値化とか魔法みたいだなと思ったら魔法だった。
なんかそういうのがあるらしい。
というわけで。
「ではギルドカードの発行のために、ムラサキ様の情報を登録させていただきます」
手渡されたのは元いた世界の、ス◯ホみたいなサイズの銀色の板。
手にとって裏表を見てみる。板。
「そちらを両手で持ち、額に当てて登録、とおっしゃってください。それだけです」
声紋認識だろうか。血を滴らせとか言われなくてちょっとホッとした。
言われたままに板を持って「登録」と口にする。
「…あれ?」
その瞬間、持っていた板の感覚がなくなった。
手を下ろしてもそこに板がない。
いきなり紛失?持ってたよ?
「ああ、ご心配なく。ギルドカードは登録と同時に、登録者の一部となります。カードを表示したい場合は【カードオープン】、終了したい場合は【カードクローズ】と発声するか頭で思っていただければ大丈夫です」
ということなのでまずは頭で思ってみよう。
カードオープン、と。…おお、板が出てきた。
「だから持ち運びが楽、なんですね」
そういうことです、と受付さん。
「ランクに関してはこちらで登録や上昇を行いますので、必ず開示してくださいね?」
他の数値とかは自動的に変わる、ということか。
レベルが上がったりしたら、たらららったったったーん、とか鳴るのかな。
というか俺のステータスがここに書いてある。
板をテーブルの上に置いて、表示されている情報に目を通す。
受付さんは書類があるのか、まだこちらは見ていない。
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名前:シロウ・ムラサキ
年齢:17
性別:男
Lv:0
Rank:-
命力:50/50
術力:20/20
体力:10
腕力:10
脚力:10
知性:10
精神:30
スキル
「言霊(固有)」「創造(固有)」「収納(固有)」「早口」
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見てみたけど、普通がわからないからよくわからない。
「命力」は多分、ゲームでいうHPのことで、「術力」はMPか。
他もまぁ、そのまんまかな。…なんで「精神」だけちょっと高いんだ?そういうもん?
というか、意外だったな。
レベルって1からじゃなくて0からか。
ゴブリン倒したくらいじゃレベルは上がらないのね。
…殺されかけたんだけどな。
スキルもなんか四つある。
固有ってなんだろ。ユニークスキル、とかそんなの?
なんか三つもあるけど。
「言霊」は魔法に必要そうな気がする。
「創造」はなんだろ、魔法に使う言葉を作ることができる、とか?
「収納」はこれまた…異世界あるあるの四次元◯ケットみたいなあれかな。
それなら助かるね。
で、「早口」て。
早口て、なんだ。いや、早口か。スキルというより癖みたいなもん?いろんなスキルがあるんだな。
一回カード閉まってみるか。
カードクローズ。…手に吸い込まれるみたいになくなった。
こりゃほんと便利だ。
「お待たせしました、ムラサキ様。それでは改めて、カードの提示をお願いします」
「あ、はい」
改めて取り出したカードを受付さんに手渡す。
拝見します、と俺の情報を確認し始めた。
「え?」
途端に変な声を出して固まった。
「え?」
つられて俺も声を出して受付さんを見る。
何かしたわけじゃないのに、何か変なことしたんじゃないかと不安になる。
何したっけ俺。あ、17だと冒険者なれないとか?
でもさすがにそれは聞いてないしな。
俺が老けて見えたなら話は別だけどさ。
「…0?」
0?ああ、レベルか。そりゃ初期レベルでしょ。
そんなに強そうに見えてたのかな。
と思うと同時に、意識の向こうの方からクラウチングスタートで、違和感が走ってきた。
「なのに、このステータス…精神は高いし」
ぼそぼそ聞こえる声。
近づいてきた違和感が爽やかに、やぁっ!とか笑いかけてくる。
「しかもこのスキル…固有が三つも」
違和感が進化して嫌な予感になった。
「どんな人よ、こんな訳のわからないステータス持ってるなんて…」
「はい」
どんな人と言われて軽く手を上げて答えてみた。
受付さんがハッとして慌てて姿勢を正し、こちらを見る。
「し、失礼しました!な、なにぶん見たことがない表示でしたので…」
大丈夫です、との意思を込め、上げた手を下ろしながらひらひら振っておく。
「普通がわからないから、俺もよくわからないんですけど…」
「そうですよね…かといって他の人のステータスは勝手に見せられないし…」
今日に限ってマスターはいないしあの馬鹿、とか聞こえた。
たった一言で扱いがわかるってすごいと思うんだ。
「よくわからないですけど…冒険者になれない、です?」
気になるのはそこだけ。
それならそれで他の道を探さなきゃならないし。
「そんなことはありません!ただ、異例なためランクをどうしていいものか…」
「そこはもうFでいいです。俺が、えーと…ユチルさんにお願いしたてことで」
実際今お願いしてるし。
問題ない。冒険者登録が終わったら次は依頼のチュートリアル、だしね。簡単な方がいい。
それでも、と悩んでいた彼女をいいからいいから、と押し切った。
押しの強さに女性は弱い、て意味が違う。
とにかく、俺はようやく冒険者になった。
とりあえずゴブリンの魔石を金にして、適当に依頼やってみて、せめて今日の宿を探そう。
巻物はそれからだ。