4話 森を抜けて初めての街へ
しばらく説明回というか、早速ぐだぐだします。
巻物を開こうとして、はた、とその手を止めて。
耳を澄ませる。
「……。」
今のところ変な声やらは聞こえない。けれども、またいつさっきみたいな奴が現れるかもわからない。
さっきはなんとかなったけど、なんとかなった奴が同じようにまた現れてくれるとも限らない。
ならばやっぱり、安全な場所に行きたい。
巻物を読んでみれば何か書いてあるかもしれないけど、一度しか読めないとか言いやがってたし。
というわけでとりあえず立ち上がる。
股間が冷たいのはもう諦めた。
幸い「えー、なにその染みー」とか言われる心配はなさそうな色のズボンだ。
それに歩いているうちに乾くだろ。…乾くよね?
そう思いながら周りを軽く見回す。
「…ん?」
キラッとしたものが視界に入った。
さっき殺…倒したゴブリンが消えた辺りで。
近寄ってみると、何やら光る石のようなものがそこにポツンと。
拾い上げてみると、ガラス…いや、宝石のような、緑色の石だった。
「…ドロップ品、てことかな」
とは言っても、神さんも言っていたように所詮ザコのドロップ品。
大した価値はないだろう…としてもっ!
もし売れるなら金にしたい。
ファンタジーってそういうものだと思ってる。
ラノベ好きの、好奇心。
改めて歩き始める。
何はともあれ森を抜けないことには話にならない。
「抜けた」
…うん、道があった。
話になった。何この御都合展開。
まあ…ゴブリンから逃げてる時に思ってたよりも距離走ってて、しかも運良く道の方に向かっていた、ということなんだろうけど。
無理やり、神さんの最後のお詫びとかだと思って深く考えないようにする。
道に立ち、再度辺りを見渡せば、とおーーくの方に何やら壁のようなものが。
しかも、豆粒みたいだけどもしかしたら、城?みたいな建物が見える。
どんだけ周りになんもない道なんだとか聞こえてきそう。
どこから?俺の良心から。
ともかく、まずは目指してみよう。
◇◆◇◆
「遠い!」
急いだわけでもないけれど、ゆっくり歩いたわけでもない。
なのに1、2時間くらい歩いた気がする。
「でかい!」
着いて二言目に八つ当たり。
考えれば、それだけの距離から見えていた場所。
壁と見えていたのは、門というか城壁というか。
でかかった。
すれ違う人が俺の声にびくっとして、俺を見て更にびくっとして避けていく。
でっかい城壁の手前で大きな声を出しているにもかかわらず、誰からも声をかけられない。
寂しいんじゃないよ?
単純におまわりさん的存在が、この辺りにいないというだけだろう。
ジロジロ見られて恥ずかしいんじゃないよ?
周りからの視線は一旦全部無視して、いざ入国。入城?
「まずは…ギルド、かな」
こういう時はやっぱりギルドだろ。
どこにあるかわからないけど。
散策がてら歩いてればわかる、うん。多分。
というか、でかい街?国?城下町?だけあって活気は凄いな。
見た所人間ばっかりか。
エルフとか獣人とかいないかな。どうせならいてください。
なんか食べたいけど今のところ金もないし、実はやばい。
考えないようにはしてたけど、金がないから宿にも泊まれないし、服も着替えられない。
だからこその、まずはギルド、なんだけどあの宝石ぽいのが売れなかったら、後はもうそん時のノリだ。
それしかない。
ノリは世界を救うから。ノリ&PEACE。
「…ん?」
ごっつい体つきをしたおっさんの群れが建物から出てきた。
むさ苦しさに、うわぁとかこっそり思いつつ、その建物に目を向けると、
冒険者ギルド
と書かれた看板が掛かっていた。
「お、見つけた」
なんで読めるか。普通に日本語で書いてあったらそりゃ読める。
俺に合わせて変換されてるのか、元々そうなのか知らないが、読めるし書けるだろう事実で充分。
余計なことに頭を回す余裕もないし。
扉をあけて中に入る。
「おお…」
悔しいけれど、さすがに感動した。
まっすぐ歩けば多分受付。
右側奥の方に行けば多分酒場なのか休憩所なのか。
左側には沢山の紙がボードらしきものに貼り付けられている。
受付に向かう。
「あの…」
「いらっしゃいませ、どのようなご用件ですか?」
受付のお姉さんから、教科書通りの営業スマイルいただきました。
そりゃあ、さっきのむさ苦しいおっさんの群れに比べたら、俺は貧相だしね。
いわゆる依頼者側だと思ってるんだろう。
「えーと、ここに関して色々教えてもらいたいんですが…それ専門の人とかいます?」
「あ、ギルドは初めてでいらっしゃいますか?でしたら私がご案内しますよ」
「え、受付の邪魔になりません?」
「お気になさらず。職員は他にもおりますしね」
どうぞこちらへ、と左側のボード付近にあるテーブルへと誘導される。
促されるままそこに腰を下ろして、対面に座った受付さんに顔を向ける。
「改めまして、ラルハイトの冒険者ギルドへようこそ。トリア・ユチルと申します」
「村崎 紫朗です」
「ムラサキ様ですね。お名前と服装からして…ムルリダのご出身ですか?」
「ムルリダ?」
「ええ。あの国は色々な種族がおりますし、自由な国ですからね」
違いましたか?と言うように首を傾げられる。
違うと言うのは簡単だったが、それじゃあ何処だ、とも答えられない。
悪魔の証明じゃぁないけど、ここはとりあえずムルリダ出身ということにしておく。さすがによくお分かりですね、と答えて。
「職業柄ですよ。さて、それでは依頼者様に関するご案内を…」
「あ、ちょっと待って」
言葉を遮られ、再び首を傾げる受付さん。
さっきから仕草がいちいち可愛い気がする。
「依頼者の案内ってことは、受ける側もあるってことですよね。俺、実はそっちの案内を聞きたいんです」
「受ける側…冒険者と言うことですか?」
はい、と答えると、彼女の雰囲気が少し変わる。
値踏みをされているかのような、なんというかそんな雰囲気。
「…そちらのお怪我は?」
「ここに来る途中の森で、えーと、ゴブリン?に襲われまして…」
傷は治っているから問題はないけど、そうだよね。
血が流れた跡はそのままだから、見た目血まみれだもん。
現実逃避してたけど、すれ違う人がびくってしてた理由わかってたよ、これだろ。
引くわ、自分でも。
「失礼ですが、何か証明できるものはお持ちですか?」
「あー…これとか?」
ポケットから例の石を取り出して机の上に置く。
「ゴブリンの魔石、ですか」
そういう名前なんだ、とか思いながら顔には出さないようにしておく。
拝見しても?と聞かれたので勿論どうぞ、と。
魔石を手に取り、光にかざすように目の前にもってきた彼女は、少しの間の後でそれを下ろす。
「…確認いたしました。確かにムラサキ様が倒されたようですね」
あれ、ここに来るまでの道中で俺も光に透かしてみたりはしたけど、何も見えなかった。
不思議そうな顔をしていると、察してくれたらしい。
「ギルドの受付は、仲介者でございます。依頼を達成された方が虚偽の申告をしていないか、確認できるスキルを持っています。魔石を見ると、誰が倒したかがわかるのですよ」
おー、なるほど。
便利というか意外としっかりしてるんだな。
にしても、スキル、か。
悔しいけれどまたもワクワクさせられる言葉が出てきた。
「冒険者の登録も問題はないようですね。それでは改めて、冒険者の案内をさせていただきます」
よろしくお願いします。
頭を下げて俺は説明をお願いした。