3話 寝て起きたら森の中-3
『えー、なにこれ、なんでこんな雑魚にやられそうになってんの?うわー、最悪ー』
「…誰、だ?」
急に聞こえて来た声。
いや、正しくは自分にしか聞こえていない声。
証拠に、ゴブリンが俺の声にしか反応していない。
『誰って。ここに送ってあげたわ・た・しっ!』
「だから誰、だよ…!」
『え、覚えてないの?ちょっと前に話したじゃん。神様神様』
「俺の、知り合い、にそんな軽そうな神様、いない」
どうしても呼吸が荒いままで、皮肉を送る。
そもそも、軽くなくても神様なんかに知り合いはいないが。
とりあえずうるさい。
『あー…覚えてないね、これは。まーいいや。とりあえずそいつぶっ倒して、それからだね。さ、やっちゃえーっ!』
いえーい☆とか言ってきそうな勢いでかけてくる言葉が、もうほんとウザい。
やれるならやってる。
やれないから、こうなってるんだ。
『あ、覚えてないんだよね。んー…しょうがないか。今回は手伝ってあげるよ!復唱してねっ』
るんっ、とか効果音が聞こえてきそうな明るい感じで言われても、もう何が何だか。
「…一回だけ手伝っ『あ、そこはいい、今から。…え、余裕あんの?』
普通にツッコまれた。
この声も余裕あるよな。
『はぁ…んじゃいくよ?』
その後に聞こえてくる言葉を、よくわからないままに復唱する。
俺の幻聴だったとしても、もういっそ委ねてみよう。そんな感じで。
「【封ずる轍・塵芥の窓】」
―ザンッ
何かが飛んだ。
ゴブリンが割れた。
え、割れた?
「割れ、た…」
文字通り、縦に真っ二つ。
青い鮮血を噴き出しながら両方の体が倒れて、消えた。
「…なん『おっつかれー。』だこれって、だから誰だよ…っ」
また遮ってきた声に、ツッコミ。
『はい、次次っ!』
「つ、ぎぃいいっ!?」
左腕に激痛が走る。
刺さっていた刃物が引っこ抜かれていた。遠慮なく。そりゃもう遠慮なく。
『もっかい復唱ねー』
「~~…っ、【緋色の隙間・累積する鎖】…っ」
声に出した後、左腕から痛みが消えていた。
傷を見る。
「ってぇ…?…痛、くない…あれ、傷…ない」
見間違えようもなく、腕から生えるように刺さっていた刃物。
その傷がない。
というか、なくなっている。
流れていた血の跡もそのままなのに、ただ傷だけがなくなっている。
「どういうことだよ…」
『落ち着いたー?落ち着いたねー?よし、それじゃもっかいだけ説明してあげるっ☆』
「っ、その前に!いい加減姿見せろよっ!」
『無理だよー?頭の中に直接話しかけてるだけだし』
キャハ☆とか聞こえてきそうでイラッとした。
イライラしっぱなしだ、さっきから。
けれども実際、声の言う通りなんだろう。
さっきのゴブリンの反応からして、そうとしか思えない。
違う混乱を抱きかけている俺をほぼ無視して、声は言葉を続ける。
『君に神様へお願いする権利が当たりました、おっめでとー!いぇーい!で、昨日お願い事を聞きに行ったら、異世界って言うからここに転生、というか召喚してあげたんだ』
「待て待て待て待て、昨日?こんな声、つーか話し方忘れるわけない。…いつだよ」
『えーと、君の感覚で…夜中の3時くらい』
「寝てたわっ!寝落ちしてたわ!」
『うん。でも私も疲れてたし、いいやと思って聞いてみたら「んー…?…いせかい…」って答えてくれたから、わかったー!って』
「完全に俺の寝言じゃねーか!アホか、神、アホかっ!」
と言うことは昨日夢だと思っていた、あの声は現実で、寝ぼけてた時に色々と起こっていたことだってのか…。
『アホとは失礼だなー』
「アホだろっ!と、ともかくそのお願いはなし、ノーカン、やり直しでっ!」
『えー、勝手ー』
「どっちがだよっ!疲れてたから寝言叶えたって、どっちがだよっ!」
『さっきまで死にそうだったのに元気だね。まぁどっちにしろ、無理だけどねー』
「いや、無理じゃなくてさっさと戻してくれ、元の世界に!」
『力使っちゃったからさー、待ってもらわないと』
ふー、やれやれ、なんて頭に聞こえる。
こっちは疲れてるんですよねー、とでも言いたそうな声音。
実際、そういう意味で言ってるんだろうさ。
「待つなら待つから戻してくれよ、何分だ?1時間くらいかかったりする?出来れば早くが『千年』いいんだよ、明日じいちゃんちに……」
また話してる最中に声を被せてきた。
だからよく聞こえなかったと言うか、聞き間違えたんだ。うん。
「…ごめん、どんくらい、待『千年』つってだから被せん、千年っ!?は!?」
『うん、千年。いーち、じゅーう、ひゃーく、せーん、ねーん』
ねーんてなんだよ。まーん、みたいに言うな。
いや、それよりも。
「せん、ねん…」
『異世界に喚ぶってのは、それくらい力使うんだよー?』
寝言を叶えた位のくせに、何を偉そうに「肩こったー」みたいな雰囲気漂わせてるんだ、この野郎。
『まぁいいじゃん。寝言って言っても異世界だよ?剣と魔法の異世界ファンタジーっ!君もラノベ読んでんでしょ?あんな感じの大冒険が君を待っている!かもしれない気もするっ!』
ぶん投げっぱなしもいいところだな最後。
というか。
「…魔法?」
『お、食いつくねっ!さっきゴブリン割って、君の傷治したじゃん』
「…【封ずる轍・塵芥の窓】」
―ザンッ
目の前にあった切り株が割れた。
縦に真っ二つ。今度は消えたりしない。
『お!よく覚えてたねー。それそれ』
ぽす、とどこからか巻物のようなものが落ちてきた。
『後はそれ読んでよ、神様からの優しーい!説明書みたいな巻物』
一回読んだら消えるけどねー、ってどこのスパイだ。
爆発すんのか。
『んじゃねー。頑張ってね!センパイ!』
「誰がセンパイだっ!っておい、おいっ!?」
最後に訳のわからない、完全にふざけてる言葉を残して、それからいくら呼びかけても声はもう、聞こえなかった。
まさかの寝言を叶えやがった神様とかのせいで、俺は死にそうになった。
元の世界に戻るには千年かかる。
ここは剣と魔法のファンタジー。
詰んだ。
なら、もうどうしようもない。
だけど、別に諦める気もない。
元の世界に戻る方法を、あのアホを待つ以外で見つけてやる。
それしかない。
「寝言が叶って異世界召喚、って…どんなラノベだよ、マジで…」
ほんとよろしくお願いします。