表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

冬の女王と勇者

作者: 六葉

冬の女王は出て来ない


『四季の塔』から出て来ない


女王が出ないと春が来ない


困った王様御触れを出した


『冬の女王と春の女王を交代させよ』






国中の色んな人々頑張った

貴族、平民、商人、果ては奴隷まで

あの手この手で女王を塔から出そうとした


けれども女王は出て来ない

何故出て来ないのか誰もわからない




ある時、世界中を旅してた勇者が帰って来た

すっかり春になっていると思ったのに

まだまだ雪が降っててびっくり

王様急いで勇者に頼んだ


「冬の女王を追い出してくれ」


勇者はよくわからないけど頷いた

勇者は塔へと続く雪道を歩く

誰も知らない、女王が出て来ない理由

果たして聞くことができるのでしょうか


勇者は辿り着いた

塔の外壁白く凍って、塔の扉は分厚い氷で閉ざされて

武力行使は多分無理


「冬の女王様、こんにちは」


塔を見上げて勇者は挨拶をした

返事は無いけど代わりに泣き声


「女王様、泣いているのですか?」


返事は無いけど代わり泣き声


「何故塔から出ないのか、教えてくれませんか?」


返事の代わりの泣き声止んだ


「何故…?何故ですって!?」


泣き声の代わりに怒った声


「馬鹿なことを聞く貴方は誰?」


「勇者です、世界中を旅していました」


「勇者、この塔を出た後、女王が何処で何をしているのか御存知?」


勇者は首を傾げる

この塔には春夏秋冬、4人の女王が交代で住んでいる

女王が交代すると季節が変わる

子供でも知ってる有名な話


けれども確かに、塔に住んでない女王が何処で何をしてるのか

勇者は知らない、考えたことも無い

だから勇者は女王に聞いた


「いいえ、存じません。何をしているのですか?」


返事の前に、馬鹿にしたような笑い声


「えぇ、知らないでしょう…この真実は誰も知らないの!」


誰も知らない真実を

勇者は知りたくなったので


「教えていただけませんか、女王様」


女王に聞いた

返事に呆れた声が聞こえた


「…教えたところで、貴方は私を塔から追い出すでしょう」


「多分」


王様とても困ってた

国民もとても困ってる

理由はどうあれ最終的には

女王に塔を出てもらうことになるでしょう


「正直ね…良いわ、馬鹿みたいに正直な貴方には教えてあげましょう」


一息置いて女王は叫んだ

怒ったように悲しそうに女王は叫んだ



「死ぬの!殺されるの!次の季節が来てしまったら私はいらない存在だから!」


「私は死にたくない!」


「冬が終わらないから塔から出ろって言われたって、死にたくないから出たくない!」



それを聞いた勇者はまばたきした



「…マジで?」



「マジよ!」



勇者は引いた

そりゃ出たくないわ、と女王に同情した

出ると死ぬなら自分だって籠城するだろう


「それはどうにかならないんですか?」


「知らないわよ!」


再び女王の泣き声がした

なんだか女王が可哀想


「…貴方は他の土地でも冬にすることができますか?」


「できるわよ、冬の女王だもの」


「それでは冬が必要な土地に移住するのはどうでしょう」


「冬が必要な土地?あるわけないじゃない!冬は嫌われ者なのよ!」


言われて勇者は考えた

確かに冬を特別必要とする理由はない

寒いし、作物は育たないし、雪は降る

でも勇者は冬が嫌いではない


「女王様、待っていてください、きっと冬が必要な場所を見つけて来ます」


「あるわけないわ」


「きっとあります、だからそれまでここから出ないでください」


「別の誰かが私を追い出しに来るわ」


「出ないでください、必ず僕が貴女を迎えに来ますから」


そう言うや否や勇者は旅立つ

冬が必要な土地を求めて

あまり時間はかけられない

それでも勇者は探しに行った

可哀想な冬の女王を殺したくなかった




「寒いから」


「雪かきしないと屋根が潰れる」


「冬なんて来なければ良い!」


何処へ行っても冬は嫌われ者

早くしないと女王は追い出されてしまう

追い出されたら死んでしまう


すると別の国でこんな話を聞いた


「冬が来ない、困ったなぁ」


「何故困ってるのですか?」


「もう冬が来る時期なのに、ぜんぜん寒くならないんだ」


「冬に備えて食料を蓄えていたのに、このままじゃ腐ってしまう」


勇者は目を輝かせた


「冬を連れて来ます、空き家を用意してください」


勇者の話を聞いた人々はきょとんとした

けれども国の端っこに、

主のいない古城があるのを教えてくれた




勇者は急いで国に戻った

勇者は急いで塔に行った


「女王様!冬が必要な国がありました!」


返事の代わりに塔の上にある、

窓から女王が顔を覗かせた


「冗談でしょう?」


「本当です!行きましょう!」


女王は信じられなかった

自分を必要とする国も

わざわざそれを探してきた勇者も


「貴方はどうするの?」


「僕も貴女について行ってはいけませんか?」


それを聞いた女王はびっくり


「どうして私について来るの?」


勇者は答えた


「一緒に旅をしましょう!冬が必要無くなったら、また必要な場所に!」


「どうして貴方も一緒なの?」


「…冬が好きだからです!」


それを聞いた女王は笑った

涙を零しながら笑った

そうして塔から降りて来た


「じゃあ、新しい家まで案内してちょうだい?」


「はい、女王様!」


勇者は1つ言わないでおいた

女王に恋をしました、とは言わないでおいた




こうして冬の女王は塔から出た

勇者と共に、冬が必要な土地に旅立った

勇者は王様に褒美を貰った

女王と一緒に移動するためのドラゴンを貰った


冬の前に吹く冷たい風は

冬の女王がドラゴンに乗って来る時に起きる風だそうです


勇者と女王は次の年も、また次の年も一緒に旅をした

とても幸せそうに旅をした


めでたし、めでたし















ところで、塔から出た女王達は『本当はどうなるのでしょうか』



『誰も知らない』、秘密のお話




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ