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キズナの鬼  作者: 孔雀(弱)
第2章「朱雀の位とお助け猫」
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「熱戦」


 少し―といっても今の僕にはかなり辛い距離を走ったところで二人に追いついた。

「ハァハァ、ねぇ二人とも、ハァハァ、少し休まない? このままじゃ僕がとってもグロテスクな事になっちゃうよ?」

 こう、とろけたこんにゃくみたいな。

「君は主人公補正で立ち絵が表示されないからどんな顔をしていても問題あるまい」

 なんというゲーム脳。それにしても、万が一かっこいいシーンで僕のアップCGがはいったらどうするつもりなの。

「孔弌君、あそこにいる男の子が見えるかい?」

 えっと、男の子、男の子っと……。


 尖った橙色の髪にキラキラした瞳。

 小柄な体に、半そで短パンというラフで動きやすそうな格好。見た目はテンちゃんと同じぐらいの年齢に見える。

 なんというか、遠目から見ていても眩しいぐらいに純粋そうな子だ。カブトムシとか探しに行きそう。


「……朱雀の位」

 テンちゃんが誰にとも無く呟く。

「あれが式神……」

 とてもリュウが説明していたような凶悪な存在には見えない。

 あぁ、それを言ったらテンちゃんもそうか。

「朱雀の位……さてはとんでもない悪さをするつもりだな、図書館を跡形もなく消し去ったり」

「そんな、それなら今すぐ捕まえに行かないと」

 図書館は僕の暇つぶしスポットのひとつなんだ。消されるわけにはいかないよっ!


「だめだ、今ここで動くより、確実なタイミングで捕まえたい。もちろん攻撃の姿勢をとった場合は止むを得ず突撃することになるが」

 なるほど、しばらく観察ってわけか。

 そうして少しみんなで観察していたけど、男の子はその場所から特に動かない。

「何してるんだろ……」

「……しまった、そういう事かっ!? あの式神、何て極悪非道な奴なんだ! 孔弌君! 天奈君早く奴を捕まえるぞ突撃だ!」

 突然リュウの指令がでる。


「え、何!? あの子何かしてるの? もしかしてとんでもない力を溜めているとか!?」

 僕にはあそこから特に動いてないように見えるけど、もしかしたら本当に図書館を吹き飛ばすための力を溜めているのかもしれない。

「あいつ、さっきから渡らないのに横断歩道の歩行者スイッチを連打しているんだ! あんな悪事を平気でやるなんて……絶対に許せない!」

「えっ? ……スケールちっちゃっ!? ちっぽけすぎだろ!?」

 なんだその小悪党っぷりは!? 小学生じゃあるまい。

 いや、傍目からは小学生にしか見えないから見た目相応?


「……むぅ、それは許せない」

 テンちゃんまで!? ていうか歩行者スイッチの意味わかってんの?

「とにかく行くぞ!」

 またもやリュウは一人で先行して突っ込んでいった。

 雑魚で体力も僕より無いくせに……無茶しやがって。





「やいこら、そこの君! 今すぐ悪事をやめるんだ」

 威勢良く飛び出していくリュウ。

「……! うわっ、この街の神か!?」

 たじろぐ男の子。

「朱雀の位だな! このような悪事を繰り返す君をこのまま放置することはできない。よって再封印させてもらうっ!」

 こんなことぐらいでいちいち封印されるんだったら近所の悪がきどもは一体何なんだろう。


「嫌だ! 僕はまだ外で遊ぶ!」

 男の子の周りに赤いオーラのようなものがまとわり始め

「え? ちょっ、ま……」

 オーラは1点に収束して、そこからレーザーのようなものが出てきた。


「ちょ! ……ぎゃああぁぁぁああああ」

「そしてレーザーはリュウに直撃して爆発&炎上! すごい勢いだぁぁぁあ! その衝撃で更に軽く数メートル吹っ飛んで行ったぁ! 森崎君ッ!」

「君はどうしてそんなに冷静に解説していられるんだいっ!?」

 おっと、思わず心の声が口から洩れてしまった。てへっ。

「リュウ、こっちこっち、とにかくこっちにきて」

 とりあえず草むらから火ダルマになったリュウをこっちに呼んで男の子の視界から隠す。





「テンちゃん水出せるよね? 消してあげて」

「うん」

 テンちゃんの水でリュウの火を消火する。

「ごほ……僕の美しい顔と髪が……」

 焼けてボロボロになっている。全く、ただでさえ酷い顔がより酷くなったな。

「ミディアム……いやウェルダンかな……」

「そんなことはどうでもいいよ。き、君達は、僕にかまわずあいつを捕まえに行くんだ……」

 ヨロヨロと立ち上がるリュウ。


 もうボロ雑巾みたいな容姿のリュウ。……ゴミみたいな体力の癖にタフガイにもほどがある。

「とにかく、朱雀の位を図書館の裏にある公園まで誘導しよう。そうすれば万が一の場合でも一般の人を巻き込まないで済むだろう。天奈君、水気の結界と人避の結界を張っておいてくれ」

 なるほど、確かにここで交戦すれば周りに迷惑をかけることになるな。

 妖怪の戦いがどのぐらい激しいものか知らないけど、多分凄まじい戦いになるんだろうなぁ。

「とりあえず、僕が囮になって公園まで誘い込むから、君達は先に行って待ち伏せしていてくれ」

 リュウ、君はその体で囮まで買って出るのか……。


「神には……身を呈してでも自分の町を守る義務があるから」

「リュウ……」

「僕この戦いが終わったら、もうちょっと自分の好きなように生きてみようと思うんだ」

 黒こげのまま親指をビッと立ててリュウは再び男の子のもとへ向かっていった。

「テンちゃん、僕たちも彼の犠牲を無駄にしないためにも早く公園に行こう」

 天国のリュウ……いや、もうすぐ天国に行くリュウ、ちゃんと見てるかい? 君の犠牲決して無駄にしないよ。

「孔弌、リュウはまだ死んでないし……死にもしない……と思う、多分」





「よし、ここらへんでいいか」

 リュウに言われたとおり、素早く公園まで来て身を潜める。

 あとはリュウが男の子を誘き出してこの公園まで来るのを待つだけだ。

「ぎゃあぁぁっぁああ、ちょまっ、ほんと、このままじゃ炭になるって。イヤ、マジで!? おい、ふざけんなマジやめろ」

 リュウの悲鳴が聞こえてきた。っていうか、最後マジギレしてる。

 とにかくもうそろそろだな。


「このっ、やられてばっかりだと思ったら大間違いだぞ」

 リュウは近くにあった石を拾うと男の子に向かって投げた。

「こんなもの!」

 男の子は石をひょいと避けて、足元にあった空き缶を蹴る。

 これが神と、かつて恐れられた凶悪妖怪との戦いか……。


「ごふっ」

 飛んできた缶がリュウの顔に命中した。あの子、将来いい選手になるな。何の選手かはわからないけど。

「僕の美しい顔が……」

 リュウが何か嘆いている。

「さぁこれでいいだろ! もう僕の封印は諦めろ!」

 男の子は人差し指をリュウにつきつける。


「くくくっ、あっははは」

 突然笑い出すリュウ。

「何がおかしい!」

 いや、リュウは基本全てがおかしいでしょ。

「君は罠にかかったのだよ、天奈君結界の発動を!」

「結界発動」

 僕の隣のテンちゃんが淡々とそれだけを口にする。


 すると、丁度僕たちのいるところを中心に円形の青いドームが広がっていく。

「な、これは」

「そう、結界だよ。こんな簡単な方法に引っかかるなんて随分と子供だね」

 その子供に痛めつけられていた奴のセリフとは思えない。

「よし、今のうちに三人で取り押さえるぞ!二人とも出てくるんだ」

「仲間がいたのか!」


「阿保孔弌、推参だぁぁ!」

 虎のように勢いよく草むらから飛び出す僕。

 ――ガッ。

「へぼっ……」

 枝に足を引っ掛けて転んだ。

「…………」

「…………」


「……もう孔弌、危ない」

 僕に続いてのそのそと草むらから出てくるテンちゃん。

「な! 天后の位! どうして神の味方になってるんだよ」

 朱雀君(仮名)は信じられないものでもみたような顔でテンちゃんを見ている。


「神の味方じゃない……孔弌の味方」

「くっ、どっちにしろ寝返ったんだな!」

 このままじゃ、僕が会話から置いて行かれる。自己主張しなくてはっ!

「とにかく観念するんだね、僕はこの街のために君たちを好き勝手にはさせないっ!」

「だけど僕たちのように絶対の命令を受けた式神は主の命令を遂行する時が一番力を発揮できる」

「あれ、僕のカッコイイセリフはスルー?」

 くそ、やっぱり転んだせいで印象が弱くなったのか。


 目の前の朱雀君はゆっくりと両手を広げ

「例え、相性が悪くても、命令に背いている今の天后の位には負けない!」

 両手にさっきの赤い光が収束していき

「はぁ!」

 ふたつの手を正面で構えて、赤い輝きを放つ光線を発射してきた。


「…………」

 テンちゃんは無言のまま水の盾を出してその攻撃を受け切った。

「え!?」

 その力が予想以上だったのか、朱雀君が驚きの声をあげる。

「……孔弌の力、感じる(ぽ」

 いや、先に断っておくけど僕は別に何もしてないからね?


 今度はテンちゃんの手が淡い水色の光を放ち始め

「水芽」

 水が集まってきて剣の形を作ったかと思うと、それは具現化し始めて本当に剣になった。そしてその剣をひと振り、ふた振りと振るたびに

「くぅっ!」

 水のカッターのようなものが出て、朱雀君を確実に追い詰めていく。


「どうして、なんでだっ!」

 朱雀君は背を向けて逃げ出そうとする。

「無駄。結界から出られないようにした。火の力じゃ破れないようにしたから朱雀の位はここから逃げることはできない」

 テンちゃんすげぇ。一方的じゃないか。

「こうなったら!」

 男の子は一瞬辺りを見渡して


「こうだ!」

 僕とリュウに向かって二本のレーザーを発射した。

 さっきのリュウへ放たれた物より光が激しい。当たったら、どう考えてもただではすまない……。

「くっ……!」

 そして炎のレーザーが直撃する……って

「あれ……なにも痛くない」

 とりあえず状況を確認するために顔をあげて前を見ると


「これは……」

 水の縄のようなモノが僕の前でクルクルと回って盾をのようになっていた。これ、僕が出したのか?

「……結界収束、彼の者の力を封じて」

 周りの水色のドームが収束していき

「く、やめっ!」

 男の子を包み込んだ。


「……孔弌、その縄で捕まえて」

「えぇ!?」

 いきなり捕まえてって言われても……。

 よ、よし、とにかく捕まえるんだっ!

 そう強く思うと


 ロープが一人でに男の子の所に向かい

「なんだこれ!」

 グルグル巻きに縛った。どうやらこの縄は本当に僕の技だったらしい。

「ふぅ……これで何とかなったか」

 さっきのレーザー、僕は無意識に水の縄で防いだけどリュウは直撃したらしい。黒コゲになってる。

「よし、すぐに担げ! ずらかるぞっ!」

 神としてその言葉遣いは大丈夫なの!? どう考えても盗人とか盗賊の類だよ。

 リュウの号令の下、即座に朱雀君を確保して家へと向かう僕たちはどう見ても人攫いだった。




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