「ベッドメイキング」
「テンちゃんはどこがいい?」
「……孔弌の部屋はどこなの?」
僕の部屋……って僕が寝起きに使ってる部屋だよね。
「僕の部屋は二階に上がってちょっと行ったところだよ」
「ボクは……孔弌の部屋の隣がいい……」
「そっか。それなら大きさも丁度いいし、そこを使いなよ」
「うん」
「それじゃ僕は一階の奥にあった部屋を使わせてもらうよ」
屋敷を探検しに行ったリュウが戻ってきた。早いな……。
「あそこが一番日あたりがよさそうだったからね」
さいですか。
「あ、使ってないからホコリとかたまってると思うし、ちゃんと掃除して使ってね」
そりゃたまには掃除するけど
一人で掃除すると家の中だけでも丸5日以上かかるから、それこそ夏休みみたいに長い休みがないとできないんだよ。
「あぁわかったよ。それじゃ悪いけど僕は先に休むよ」
「あれ、ご飯とか食べないの?」
「あぁ、実は君達に会う前に一人で○クドに行ってお腹いっぱい食べてきたんだよ」
くそ、神様のくせにファーストフードかよ! 関西かよ!
「それじゃ」
と言ってリュウは部屋のほうへ向かっていった。
「僕たちはご飯食べよっか」
冷蔵庫からピザを出して解凍する。
「孔弌これは?」
「これはピザだよ。ほら、食べてみなよ」
「美味しい……」
お腹も満腹になったところで僕たちも部屋に向かった。
とりあえずテンちゃんの部屋を掃除しないといけないからね。
「……孔弌少し部屋から出て」
ん? どうしたんだろうテンちゃん。
理由はわからないけど、言われたままに部屋から出ると
――ゴゴゴッォォォォオオ
扉が閉まった途端、部屋からなんだかすごい音が! 大丈夫なのか!?
「孔弌、もういいよ」
恐る恐る中に入ると
「あれ、何これ……」
一体何があったんだこの部屋で……。
部屋は全体が何だか湿っておりおり、ビショビショとまではいかないが、ベッドなどの布系の家具は湿っていて恐らく今夜は使用不可能だ。
「この部屋で水を回した」
うん、その説明だとよくわかんないよ。
「これで綺麗になった」
うん、綺麗にはなったね。
「でも、このベッドは今日は使えないね……」
これで寝たら夏とは言え風邪をひいちゃうかもしれない。
妖怪が病気になるかどうかは知らないけど。
「仕方ない……今夜は僕の部屋に布団を敷くからそこで寝なよ」
「これでよしっと……」
「ん、ありがとう」
テンちゃんはモソモソと布団にはいっていく。
「さて、色々あって疲れたし、今日はもう寝ようか」
色々あったっていうか、人生変わったレベルだけど。
「孔弌……」
しばらくしてテンちゃんが話しかけてきた。
「ん? どうしたの」
暗い部屋の中、ベッドに転がったまま返事を返す。
「…………孔弌の隣で寝たい」
隣って……。
「今隣で寝てるじゃないか」
ベッドと布団だから高さはあるけど。
「ううん、そうじゃない」
そうじゃない?
「一緒の布団で寝たいってこと?」
かな?
「……うん」
そういうことらしい。
「あ、もしかしてテンちゃんベッドがよかった? 昔の妖怪なら布団のほうが寝慣れてると思ったんだけど、ベッドがいいなら……」
ていうか今更だけど妖怪って寝るの?
これってトリビアになりませんかねぇ。今度送ってみよう。
「ううん、そうじゃなくて孔弌と一緒がいい」
「一緒? 僕は別にいいけど、狭いよ?」
ベッドも布団も1人用だ。そういえば昔はよくベッドから落ちてた。
「ん」
もぞもぞと何かが布団の中に入ってくる。
まぁテンちゃんだけど。
正直言うや否や入ってくると思わなかった。
「なんだか……恥ずかしいね」
天井を見ながらテンちゃんに話しかける。
「どうして?」
「いや、なんだか女の子と一緒に寝るのが……ね」
そりゃやっぱり、こっぱずかしいよ……。
テレビとかマンガですごい甘酸っぱいシーンがあったら、見てるこっちのほうが恥ずかしくなってきて直視できないような男だからね僕は。
いや、でも待てよ……待つんだボク。
そもそもテンちゃんを女の子として意識していいのか?
見た目的には……危ないんじゃないのか……?
でも実年齢は750歳……。
更に妖怪というオプションまでついている。
う~ん……、これは判定シビアなところだ。
僕の中の審判も判定に悩んでいるぞ。
テンちゃんはどうなんだろ、恥ずかしくないのかな……。
「……ボクが生まれたばかりの頃は、仲のいい人間は……皆、閨を共にしていたよ?」
閨って……そんなまた、微妙な言い回しを。
だけどまぁ
「確かに、そうだね。僕もこうして誰かと一緒に寝られるのはすごく幸せなことだと思うよ」
小さい頃憧れていた、僕の幸せの1つ。
「……ボクも。誰かと一緒にいることがこんなに楽しいことだと思わなかった……」
そっか……。
テンちゃんも僕と同じでずっと一人だったんだ。
「……だから、教えてくれてありがと孔弌」
「うん」
「テンちゃん、明日から頑張ろうね」
夏だけど、布団を深めに被る。
「うん」
僕に何ができるかはわかんないけど、一生懸命頑張りたい。
やっと過ごしがいのありそうな夏休みになったんだからね。