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キズナの鬼  作者: 孔雀(弱)
第1章「天后の位と近所一のバカ」
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「この中に一人戦力外がいる」

「さ、それじゃ今後の事について話させてもらおうか」

 改めてリュウが話し始めた。

「今後の事?」

 そんなこと言われても僕はピンとこないんだけど。

 今後って言っても、テンちゃんが新しい家族として家に来た以外は別に僕の生活は変わらないと思うし。


「そうだな、単刀直入に言うと君達には僕の手伝いをしてほしいんだが」

 リュウの手伝いっていうと……。

 あのゴミ捨て場の鮮明な光景が脳裏に浮かぶ。

「ごめん、ゴミまみれになるような仕事はちょっと……」

 僕だって困ってる人の手伝いはしてあげたいけど……。

 公園のごみ拾いとかならまだしも、ゴミ捨て場荒らしはねぇ。


「君は何か勘違いをしてないか?」

 勘違い? 僕の意見のどこに勘違いがあるんだろう。

「まず僕は、ゴミの収集業者でもゴミ漁りでもゴミ屋敷の住民でもない」

「なんだって!」

 リュウからゴミが抜けたら、無じゃないか、何が残るって言うんだ!

 そんなの鬣のないオスライオンのようなものじゃないか。

「あのね……僕だって好きであんなところに倒れてたわけじゃないんだからね」


「ふふん、実は僕は一応ここらの神をやっているんだよ」

 かみ?

「かみって神様の神?」

「まぁ君たちの思い描く神とは少し違うかもしれないけど神だよ。主な仕事はここら一帯にいる妖怪や討魔師への協力と氏子を見守る事だ。まぁ僕の管轄に現在討魔師はいないんだけど」

「へぇ……リュウ、神様だったんだ……。もしかしてゴミの神様とか?」

 ゴミにも神様とかがいたんだなぁ。


「紳士的な僕もそろそろほんとに怒るよ?」

 話の腰を折るなよ という怒りをこめて見つめてくる。

「って、ちょっと、眉をピクピクさせながら拳を強く握り締めないでよ!」

 うん、正直話をちゃかしたのはリュウには悪かったと思う。

 かなり真面目な顔で僕のほうを見つめてくる。

 気持ちが悪かったから目を逸らした。

 逸らさざるを得なかったんだ……。


「そういえば聞きたいんだけど、さっきからちょろちょろっと言ってる討魔師って何?」

 僕には討魔師の才能があるだとかなんとか言ってたし。

「あぁ、討魔師っていうのは簡単に言うと妖怪関連の仕事をしている人間の総称だよ。ちなみに、魔を討つとか言ってるけど、実際はあんまり討たないんだよ!」

「なんだそれ……」

「ぶっちゃけ、今思うと恥ずかしいネーミングの職業だよね。でもこの言葉が現れ始めた平安時代なんかはみんな『我は魔を持って魔を討つ者なり! モノノケ、覚悟しろぃ!』とか中二臭いセリフを堂々と言えてた時代だったからねぇ」

 すごく嫌な話を聞いている気がする。もうちょっと世界観的なものを大切にしようとは思わないのだろうか? そして僕はどういうリアクションをとればいいのだろう?


「と、話が逸れてしまったね。まぁ討魔師ってのは今じゃ妖怪関係の何でも屋みたいなニュアンスで使われるから、君もそう思ってもらって構わないよ」

 霊媒師とかお坊さんとかあんな感じか……。

 …………なんか嫌だなぁ。

「まぁ霊と妖怪は厳密には違うけどね。かなり似たようなものではあるけど」


「さて、ともかく僕は神としてこの町で霊的な仕事をしていたんだけど」

 話の軌道修正。

「君も知っての通り、かの凶悪な式神達の封印が解けてしまったんだ」

「随分とまぬけなんだね。何かあったの?」

「まぬけ……。まぁいい、今朝僕が花の手入れをしていたら何故か突然僕の神社が爆発して、そのうえ封印を施していた石も吹っ飛んでしまってね」

 あ、今朝神社が爆発したのってそういうことだったのか。

 ていうか、バカだ! この人……いや、この神バカだ!


「それですぐに僕も飛び出して式神を一体見つけてね、追いかけて行ったんだけど、ちょっと苦戦して取り逃がしちゃったんだよ」

 ふむふむ。

「それで、せめて逃げられないように、十二式神だけがこの町を出入りできない結界を張ったんだけど……。それで力を使いすぎてあそこに倒れてしまったんだよ、これが」

 ゴミ捨て場で結界ってやつを張っていたのか……どっちにしろ変な人……いや、もとい変な神だな。


「そんなわけで、僕一人じゃ無理だから、君にも式神の封印を手伝ってほしいんだよ」

「やだなぁ、そんなの僕にもできるわけないじゃないか」

 頭脳戦ならともかく、さっきみたいな戦闘だと明らかに戦力外だと思うんだけど。

「いや、君はもう天奈君と契約した一人前の討魔師だ……彼らと渡り合うこともできるだろう、多分……メイビー……」

 ちょっと! 何か最後の言葉すごく不安になるんだけど。

「つまり僕とテンちゃんに式神を探すの手伝ってってことでしょ?」


「そう、この土地の神として頼みたい……リュウという神として頼みたい」

 さっきまでの軽いノリではなく、本気で懇願してくるリュウ。これは僕も真面目に答え――

「YEAH! すぐにボウダチ、僕達トモダチ、君はマブダチ、僕の好物はスダチッ! ふぅ……もちろん手伝ってくれるよね?」

 油断したらこれだよ。ていうか何そのラップ!? 意味わかんないし。

「他に手伝ってくれる人は?」

「ん~、実はこの町には討魔師は存在しないんだよ。それから妖怪達も平和的な者たちばかりだから探すのは手伝ってくれるだろうが、戦闘は無理だろう」

 はぁ……僕とテンちゃんリュウの三人だけで式神を捕まえないといけないのか。


「あ、あと僕も戦力にはならないから」

 リュウがサラリと言いやがりました。

「え!?」

 今までの話を聞くに神様ってのは結構すごいんじゃないの?

「はっはっは、悪いけど僕はネズミサイズの邪霊や魍魎にだって勝つことはできないよ」

 邪霊? 何それ? それって強いの?

「……低級妖怪。多分ボクにぶつかっただけで消滅する」

 テンちゃんが話に入ってくる。

「えっ! それより弱いって……ほんとに神様?」

 こんな頼りない神が僕たちの街の霊的秩序を守っていたなんて……。


「そんなこといって実は普通に強いんだよね? だってさっきは式神一体と交戦したって言ってたし」

 全くうけ狙いでそんなギャグをかますなんて、仕方ないにもほどがあるよ。

「え、いや、僕は本当に戦力にならないよ?」

「……孔弌、リュウは本当の事を言っている。リュウの力感じるけど、本当に弱い」

「………………」

 本当に弱いって……、本当に弱いって言われちゃったよ……。


「そうだなぁ、パイ投げのパイを喰らったぐらいで行動不能になる自信はあるかな」

 そんな自信いらないよ! ていうか幼児より脆いだろ、それ!?

 よくそんな豆腐並みの耐久力で日常生活を送ってこられたもんだ。なんとかフレンズから出演オファーくるんじゃないのか。

「しかし安心してくれたまえ、卵を割れない程度の力は持っているから」

「どこの新人ホストだよ!?」

 大体それだと、私は全く筋肉がありませんって言ってるようなもんだよ。


 リュウの戦力外っぷりに肩を落としていると

「あ、それから式神以外に妖怪退治の仕事もあるから」

「妖怪退治?」

 更にとんでもない事を言い出したよ。

「普通町には邪な気を持つ妖怪達はあまり力を出せないような結界を張ってあるんだが……」

 そんな器用な事ができるのかすごいなぁ。

 器用さだけは一人前だなリュウ、うん。ほんと、器用だなこいつぅ、このこのぉ。

「この町にも張ってたんだが……。今は『式神が絶対この町から出られない結界』も張ってる分、結界の効果薄くなっちゃってるんだよ」

「まさか……公園で襲ってきたのって……」


「結界がなくなって調子に乗った知能の低い妖怪だよ。多分君や天奈君を襲って更に力をつけるつもりだったんだろう」

「……えぇ! あぶなっ、あんなのも僕たちが退治しなくちゃいけないの!?」

 こんな風にまた服が燃えるのかなぁ。僕の服足りるかなぁ。

「しかも、結界が薄くなったことで、周囲の妖怪も多分集まってくるだろうね」

 集まってくるって……。

「それって危ない事だよね?」

「人や妖怪を襲ってくる悪質な妖怪達がこの町に集まってくるってことだからね……」


「そっちのほうは町の妖怪達にもできることはやってもらうつもりだから、君は式神と町の妖怪の手に負えない強力な妖怪の退治だけに専念してくれ」

 ていうか、僕が手伝う事はもう決定事項なんだ!?

「この町を守りたいだろ?」

 そりゃもちろん守りたいさ。

「僕にできることなら、手伝いたい!」

「……ボクも、孔弌の式神だから孔弌のお手伝いする。大丈夫孔弌はボクがちゃんと守る」


「え……? でもそれってテンちゃんは仲間だった人と戦うってことでしょ?」

 元は同じ人の式神だったらしいし、つまりそういうことなんだよね?

「大丈夫。ボク、もう孔弌の式神だから」

 あぁ何ていい子なんだテンちゃん。

「よし、そうと決まれば……」

 リュウが立ち上がり。

「電話貸してくれる?」


「あ、うちは固定電話はないんだよ。携帯でよかったら、はい」

 割と最近買い換えたばかりでまだピカピカしてる。

「そして、何といってもその画素数。デジカメいらずのカメラ携帯さ!」

「それじゃ少し借りるよ。……電話……か」

「ボクの話も少し聞いてよ!? カメラの自慢させろよ!」

「あ、もしもし? ちょっと聞きたいんだけど、猫神蛍の連絡先教えてもらえますか?」

 聞いてないし……。


 一体どこに電話してるんだ……?

「あ、はいはい。ちょっと待ってくださいメモるんで」

 近くにあったメモ用紙とボールペンをとり、番号をメモっていく。

「助かりました。どうもありがとうお嬢さん」

 と言って電話を切る。


「あの、一体どこに電話かけてたの?」

 すごく気になるんだけど……番号案内? 

「いや、ほら、流石に助っ人の一人ぐらい必要かと思ってちょっと友人に連絡を取ろうと思ってだね。彼女、ちょこちょこ居場所変わるから連絡つけるのが難しいんだよ」

 そういってメモ用紙を見ながら再び電話をかける。

「あ、もしもし、箭野せんや町の神なんだけど、蛍君いますか?」

 友達んちに電話かけるぐらいの気楽さだ……。


『おや……リュウかい懐かしいね』

 電話から女の人の声が漏れてくる。結構若そうな声なのに、不思議と落ち着いてる。

「あれ、ほのか君……? ふむ、蛍君は今そっちに戻っているのか」

『あぁ蛍か。蛍は今旅行中なんだよ静哉達と』

「あ、例の子かい?」

『蛍に用があるなら、静哉の携帯の番号を教えるけど?』

「お願いできるかな」

 再びメモ帳にペンを走らせる。


『それじゃまた今度遊びに行くよ』

「あぁ、静哉君達にもよろしくね」

 一瞬リュウの体が淡い光に包まれる。

『こらこら、わざわざ花の香りを送りつけないでくれないか……ていうかどうして君はそう無駄にすごい力を持っているのか……』

 電話を切って

「よし、今度こそ」

 再びダイヤル。


「暇だねぇテンちゃん」

 リュウが電話している間ソファでゴロゴロする僕とテンちゃん。

「……孔弌、このジュース美味しい」

「あ、おかわりもっとあるから、どんどん飲んでね」

 すっかりオレンジジュースが好きになったなぁ。

 それにしても電話が長い。

「ぅ~、孔弌ぃ~」

「ぅぁ~、テンちゃん~」

 二人でまったりとくつろぐ。


「あ、もしもし、箭野町の神なんだけど、蛍君いるかい?」

 さっきと同じ言葉だ。口調が更に軟派になってる。

『えあ? 神……ですか?』

 今度は男の人の声が聞こえてきた。

『どうしたんですか静哉さん?』

「あぁ、はじめまして。君が静哉君だね? 僕は仄君や蛍君の友人でリュウという名前なんだけど、蛍君に少し急ぎの連絡があるんだが」

『あぁはい、よくわからないけどとりあえず蛍にかわればいいんですね』


『もしもし、リュウか?』

 少しして女の子の声が聞こえてきた。

「あぁ蛍君か、旅行中にすまないね。どうしても君の……できれば君達の力を借りたいんだけど」

『ん? 何か厄介事でも起きたのか?』

「あぁ、例の式神の封印が解けた。できれば再封印を手伝ってほしい」

『なんじゃと……? 例の式神とは……十二式神が蘇ったのか?』


「あぁ、あと十一体ほど捕まえないといけないんだ。結界のおかげで街からは出られないんだけど」

『ふむ、じゃがそれだと悪妖どもも動き出すのでは?』

「うん、そうなんだよ。それも兼ねて君に助力を頼みたい。できれば君のマスターにも。場合によっては即完全消滅が必要になるかもしれないからね」

『そうか……悪いが、わしはできれば静哉達にはこの旅行を楽しんでほしいのじゃ……。わし一人でもかまわないか?』


「あぁ、彼らが来てくれるに越したことはないけど、今の僕らにとったら君ひとりでもかなりの戦力だ。充分だよ」

『そうか、じゃ、ちと話をつけてくる』

「うん、本当にすまない、やっと出会えた、君達の旅行なのに」

『何、事が事じゃ。それに二人きりでの旅行も婚前旅行……いや、むしろハネムーンみたいなものじゃから、あの二人なら楽しむじゃろうて』

「そう言ってくれるなら助かるよ。二人にも申し訳ないと言っておいてくれ」

『うむ、わしの準備もあるので今すぐは無理じゃが、明日の夜ぐらいにはそっちに行くからの』

 そう言って電話を切る。


「よし、助っ人来てくれるぞ……って君達なんで寝てるの!? 僕が一生懸命電話で頑張ってたのに」

 あ、終わったんだ電話。

「ごめんごめん、こう二人でまったりしてたら……つい?」

「僕はこれでも一応神なんだから、少しは労っておくれよ……ちょっとリスペクトが足りないんじゃない?」

 あ、そういえば神様だったっけ……。

 それにしても待ちくたびれたなぁ……。


「とにかく、今日の所はこれぐらいにして、式神探しと妖怪退治は明日から早速始めようか」

 あ、そういえばもう夜だね……。

「ってそんなに適当でいいの? こういうのって普通一日中探しまわるものじゃないのか!?」

 仮にも街の一大事レベルの事件が起きてるんだよね?

 しかも妖怪って基本夜に活動するものじゃないんだろうか。

「あ、大丈夫大丈夫。街の妖怪達が見つけたら、僕に連絡が来るようになってるから。その時はその時で出動だ」





「さてと、それじゃ僕はどの部屋を使えばいいのかな?」

 ごく自然にそう言う。

「へ?」

「いや、僕の部屋だよ」

 部屋? それって……

「うちに泊まるってこと?」

「そうだよ? 僕の家……つまり神社は爆発しちゃったから」

 ホームレス神様……。


「それじゃ仕方ないね。僕の部屋以外なら全部空いてるから好きなところ使ってよ」

 無駄に広いからなぁこの家。空き部屋なんていくらでもあるよ。

「……孔弌ボクは?」

「あ、そっかテンちゃんも僕と一緒に暮らすことになるのか」

 そういえばそういうことになるんだよなぁ。




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