「命名会議-六合編-」
そうこう考え事をしているうちに家の前まで来た。
うん、部屋の明かりついてるみたいだし、みんないるみたいだなぁ。門をくぐって玄関に向かう。
ていうかまだこんなに明るいんだから電気代節約してよ。
「ただいまー」
ただいま。なんていい言葉なんだろうか……。
「ただいまー!」
もう一回言ってしまった。
「あ、兄ちゃん、やっと戻ってきた!」
スザクが居間から飛び出してきた。
「ん? どうしたのスザク。そんなに慌てて」
「どうしたもこうしたもないよ。あれから大変だったんだからね。とにかくみんないるから、早く来て」
そう言って、そのまま強引にホールに連れ込まれる。
「…………きゃぁぁっ!!!」
「うわぁっ!!」
部屋にはいるなり悲鳴があがって、ビックリ。
「こら、だからこいつは私達の主人だから大丈夫だって言っているだろう」
「孔弌ぃ、おかえり」
「…………、ただいま」
ホールからの出口を瞬時に押さえるアルテと天ちゃん。
「で、どういう状況なのこれ……」
「……孔弌が連れていかれたあとボク達で気絶した六合をここまで運んできた」
そっかー、それは大変だったろう……頑張ったね。
「うむ、それで連れてきたはいいんだが、お前がいないと契約を結ぶこともできないし……。話をしようとしても逃げ出そうとするから困っていたんだ」
逃げ出すって、仲間だったんでしょ君達……。
「いや、元々仲間意識があまりない集団だったからな。特に三大(以下略)の三体とは私も含めて皆、ほとんど話をしたことがないと思う」
「とにかく、僕の式神になってもらえばいいんだね」
「あぁ」
よし、それなら……
「あのさ、ちょっと話をしてもいいかな?」
「…………っ……」
六合の位が起き上がって怯えた目でこちらを見ています、仲間にしますか? って感じだな……。
「ぁー、そんなに警戒しないでくれるかなぁ……」
といっても、流石に裸で疾走してきた男に無防備になれっていうのも無理な話か。
「あの、少しでいいから話だめかな?」
う~ん、こりゃ本物の対人恐怖症みたいなものなのかもしれないなぁ。
人前でどもるとか、あがっちゃうとかはたまにいるけど……。ここまで極端な人は初めて見たよ
本当に他人を怖がっているというか。
「あ、あの…………」
おっ、やっと話しかけてくれた。
「……私達……また封印…………されるんですか?」
不安げにそう訊ねてくる。
「いや、できれば僕の式神になってほしいかなぁ~なんて思ってるんだけど……」
「…………」
「その……だめ、かな?」
「私達に……悪いことさせるんですか……?」
悪いこと?
「いや、多分悪い事はさせてないと思うけど……」
「うむ、安心しろ。こいつは頼もしい。この私が言うんだぞ」
アルテの言葉ってなんか説得力あるなぁ……。
「…………」
「それから、悪行従事の縛りもなくなる」
「縛り?」
どういう意味っすか?
「あぁ、私達は悪事をしていないと激痛や苦しみがくるんだ」
そういえばテンちゃんもそんなこといってたなぁ……。
「あ、あの……私、戦いとか……、好きじゃないんです」
うん、それは見ればわかるよ。
「だから、役に立てるか……」
「大丈夫だよ、役に立つとか立たないとかじゃなくて、ただ一緒に暮らしてくれていたらそれでいいよ」
「ぁ…………」
「そ、それなら……な、なってもいいです」
おぉ!
「それじゃ、名前を決めないと」
「名……前……ですか?」
「うん、君達って正式な名前ないんでしょ? 僕が名前をつけるとどうも式神としての契約みたいなのが結ばれるみたいなんだ」
なんでかは知らないけど。リュウやアルテとかも意味不明な現象みたいだし、僕なんかにわかるわけないんだけどさ。
「何か名前に希望とかあるかな?」
「あの、なんでも……」
なんでもと言われると困るなぁ。名前は大切だからいいかげんなものをつけるわけにもいかないし。
えっと、六合だから……。
「ちなみに六合という量は1.08234リットルらしいぞ」
アルテ、それを僕に伝えて何の意味があるのさ。
「つまり、1.08234なんて名前はどうだ?」
「却下」
そんな呼びにくい名前……っていうか名前じゃないだろそれ!!
六合さんに何か恨みでもあるのか!?
「兄ちゃん、ヤ○は?」
「却下……。リュウといいスザクといいそのネタ引っ張りすぎ。ヤ○はもういいからね」
まったく、同じネタしか使えない芸人はすぐ消えるんだから。
「孔弌、孔弌」
今度はテンちゃんか
「孔弌、昔、周っていう国にいた太公望っていう人が書いた兵法書の名前が六韜っていうらしい」
「はいはい、却下却下」
かなり微妙なポイントに攻撃してきたなテンちゃん。
でもそんな書きにくい漢字はやめようよ。
なにかあった時に書くのがめんどくさいから。
「兄ちゃんはどんな名前がいいと思うの?」
「僕か、そうだねぇ」
ん~、この子は弓を使って敵を裸にするんだよね。
てことは弓使い。
弓……。
弓といえば矢……。
矢は英語でアロー……。
「アロなんてどう?」
「どういう意味でつけたの?」
意味ってそんなたいそうなものはないけど。
「いや、こう……裸から連想して」
「意味がわからないよ!」
って言われてもねぇ。そうなったものは仕方ないよ。
「アロ……か。六合は横文字でもかまわないのか?」
アルテはカタカナでも一発でOKだったね。
「私は、かまいません……」
「そうだなぁ、一応漢字をつけるなら亜露だな」
「漢字まで瞬時に出てくるなんて孔弌すごい」
うんうん、ボクの偉大さがわかるかテンちゃん。
「ちなみに露は露出のろだ」
「…………」
六合さん(もうすぐ改名予定)は、僕の方を『いや、それだけはやめてください』みたいな瞳で見つめ続けている。
「そ、そっか。それなら……鴉鷺はどう? いやぁ、僕さ、鴉鷺合戦物語とか好きなんだよね」
「ほぅ、鴉鷺合戦物語か。私も好きだぞ」
「アルテ知ってるの?」
「本屋で読んだのだ。私達が封印された直後に書かれた文章らしいな」
いや、いつ書かれたかとかは知らないけど……。
「とにかく、この名前でいい?」
コクリと頷く。
「よし、今から君の名前は鴉鷺だ!」
名前を決めた瞬間、ブワッと例の感覚が襲ってくる。
自分の中に何か新しい力が流れてくるのがはっきりとわかる……わけでもないけど、まぁ、うん、何か流れてきてるんじゃない?
「ふぅ……」
光がおさまってくる。
四回目ともなると流石に慣れてくるものだなぁ。
水色・橙色・銀色・萌葱色。
左手がどんどんカラフルになっていくけど、最後はどうなるんだろう……。
「あ、の……」
「ん? どうしたの?」
事が済んだばかりだけど、アロが話しかけてきた。
「え……え、と……えっと……」
「あぁ、そういえば僕の方はまだ自己紹介してなかったね」
いやはや、拙者すっかり忘れていたでござるよ。
「僕の名前は孔弌。阿保孔弌だよ」
最近自己紹介する機会多いなぁ。名刺作ろうかな。
「あ、お……孔弌……」
うつむいているけれど、ちゃんと名前を呼んでくれた。




