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キズナの鬼  作者: 孔雀(弱)
第3章「勾陣の位と平和な一日」
18/86

「これはトマトジュースだから」

 今朝はすっきりと目を覚ますことができた。

 もうリュウの意味不明な起こされ方で起こされるのは嫌だからね。

 さて、朝食用意しないといけないんだろうなぁ。

 といっても、僕には普通にトーストをぐらいしか朝食っぽい料理はできないけどね。


「おはよう、孔弌」

 一番だと思ったら、キッチンには既にアルテが来ていた。

「やぁ、おはようアルテ」

 見ると台所で何やらやっていた。

「何してるの?」

「ん? 朝食というものを作っていたのだ。昨日トーストというものの作り方を教えてくれただろ?」

 そういえば、ハンバーグ作ってる時に説明したようなしてないような。


「したんだ。そんなことよりもとにかく、その、お前が起きてくる前に色々とな……準備を……おこうと……」

 最後のほうはごにょごにょしていてよく聞こえなかったけど。

「つまり、僕の代わりにみんなの朝食を用意してくれたんだね」

「あぁ」

「そっか、ありがと」

「あれ、これ一枚だけ焦げてるよ?」

 並べてある中に一つだけ黒こげのパンが乗った皿があった。いや違うな。これはもはやパンじゃない、そのぐらい焦げてる。


「それは私のだ。実は焦げているのが好きなんだ」

「へぇ、変わった嗜好なんだねぇ」

 まぁ妖怪にはガンとかはないだろうし(多分)、好きなら、いくらでもコゲ食べればいいと思うけど。

「すまん、今のは嘘だ」

 アルテが目線を逸らしてカミングアウトした。



「実は最初、この機械の使い方がよくわからなくてな……。昨日教えてもらったというのに、情けない」

「あぁなるほど、加熱時間を間違えたんだね。意外とうっかり屋さんだね」

 どんな事でも万能にこなせそうな人っぽいんだけどなぁ。

「……私の専門は元々チームの指揮だ。料理はあいにく守備範囲外でな」

 言い訳をしてるはずなのに、無駄にかっこよく見えるな。


「ふー、いい匂いだねぇ、まさに紳士の朝だ。コーヒーも頼むよ」

 リュウがいつの間にか椅子に座っていた。

 この野郎め、コーヒーと見せかけて泥水出してやる。

「アルテ、ちょっと庭から土持ってきて」

「かまわないが、何に使うつもりだ?」

 何に使う……ふふ、そんなの決まっているじゃないか……。マジカルコーヒーを味わえ、くっくっくっ……。


「……孔弌、何か悪いこと考えている」

 振り返るとテンちゃんがいた。

「いや、悪い事じゃないよ。邪魔な荷物を排除しようと思ってね」

「ちょっと待って、排除って僕の事!?」

 今日のリュウは察しがいいな。

 と、そんな風にガヤガヤとみんなが集まってきたので朝食にすることにした。





「さーて、今日も特に目撃報告はないんだよなぁ。式神も妖怪のほうも」

 情報係(無論戦力としては問題外)のリュウが恒例のその日の方針会議を始める。

「だから、まぁ緊急の連絡が入るまでは昨日の午後と同じように自由行動にしようと思う」

 思っていたより消極的な式神や妖怪達だなぁ。そもそも悪事してるのかな……。

「やっほう! 休日最高! イェイ、インドア!」

 思っていた通り消極的な(引きこもり的意味で)神様だ。


「では、わしはいつも通り街の徘徊をしようかのぅ」

 気ままな御方だ。

「僕もそうだな、町の見回りをしてみようか。流石に当事者が休むのは少し申し訳ない気分だ」

 ていうかお前はしろよ! 神なんだから!

「今日の作戦名は昨日までの『命を大事に』を改め『何事もフリーダム』でいこう」

「えっ!? 昨日まではそんなふざけた作戦名だったの!?」

 新しいのも十分ふざけてるけど。

「命をふざけたとか言うな!」

「……ごめんなさい」

 謝ってはみたものの、このシーンだけ見ると僕がすごい悪者。


「そういえばさ、実はテレビを買ってこようと思ってるんだけど。居間用に」

 昨日の事を考えるとテレビはやっぱりいるでしょ。

「兄ちゃんがテレビを買いに行くなら、僕はテレビを探しに行ってみる!」

 スザク、君のいってることが正直よくわからないよ。

「もしかしたらテレビ落ちてるかもしれないじゃない?」

 そうだね一応可能性はあるよ。粗大ゴミクラスがそう簡単に道端に落ちてるとは思えないけど。


「天奈、私達は一緒に留守番をしていようか」

 留守番多いねアルテ。

「……どうして? ボクも孔弌と一緒にお外に行きたい」

「気持ちはわからないでもないが、今日は少し頼みがある」

 何かたくらんでいるような顔で笑うアルテ。


「実はな……」

 テンちゃんの耳元で何か小言で言ってるけど。

「……わかった、ボクもアルテと一緒に留守番してる」

 一体何を言ったんだ……凄まじく気になるぞ。

「てっきり誰か着いてきてくれると思ってたんだけどなぁ」

 というわけで、一人で家電屋さんへと向かう事になった。





 この先を少し行った所にデパートがあって、その中に行きつけの電気屋がある。

 デパート内の店だから、町中にある普通の店舗より広さとかの面で圧倒的に劣っているけど、店員さんの親切さは指折りだ。

 僕も何度か家電買ったりしているうちにすっかり店の人と顔馴染みになってしまったので、何か電気屋に用事がある時はそこを利用するようにしている。


 普段お金持ち歩かないけど、前もって軍資金は用意してきた。これだけあればテレビは買えるだろう。

「あ、やぁ孔弌君!」

 店の入るなり、若い店員が寄ってくる。

「こんにちは木林さん」

「今日はどうしたの?」

「うん、今日はちょっと大きいテレビを1つ買おうと思ってね」

「テレビか……うん、大型テレビなら丁度いいのがはいってるよ。見てってよ」

 そういってテレビのコーナーへと誘導してくれる。


「50型液晶テレビ、319,760円! 安いでしょ? 驚いた?」

 そんな50型とか値段とか言われても正直よくわかんないんだけどね……。

「プラズマのほうがよかった?」

 いや、プラズマと液晶の違いもわからないんだけど僕。

「よくわかんないけど、これでいいです」

 とりあえずあのバカみたいに広い居間に置くにはサイズは丁度よさそうなのでこれに決めた。


「相変わらず凄まじい決断力だね……買うことに全くためらいがない。悪い人に騙されないように気をつけるんだよ? 君はすぐ騙されそうだから」

「なんていうか……馬鹿にしてますね」

 それぐらい僕でもわかるんだぞ。

「それで、支払はいつもと同じでいいのかな?」

「あ、うん。それでお願い」

「はい、それじゃこれは昼頃に孔弌君の家に届けるから」

「うん、お願い」

 こう、僕みたいな少し変わった客だと、すぐに覚えてもらえるから色々と便利だなぁ。


「まいどあり!」

 店員の兄さんが笑って見送ってくれた。

 さて、意外と時間が余ってしまったぞ。

 僕の計画では優柔不断にあれやこれやと悩む予定だったんだけどなぁ。

 昼に一度家に戻ることになってるけど、今すぐ帰ろうかな。

 別に外出義務はないし、テンちゃん達の事も(嫌な意味で)気になるからなぁ。


「あの……」

 デパートから出て少ししたところで後ろから声がした。

 周囲に誰かいないか確認してみる。

 どうやら僕しかいないみたいだ。

「僕ですか?」

 振り向きながらそう言う。

 これで僕じゃなかったらかなり恥ずかしいな。家までダッシュしよ。


「あ、やっぱり昨日の人だね。こんにちは」

「あ、君は……。うん、また会ったね。こんにちは!」

 見ると僕の後ろには昨日荷物運びを手伝ってくれた人が立っていた。

 よかったぁ、勘違いじゃなくて。

「今日も何か買い物?」

「うん、実はさっきテレビを買ってきたんだ」

「テレビ……?」

 あぁ、そりゃいきなりテレビ買って来たなんていわれてもすぐピンとは来ないよね。


「あ、そうだ。もし時間があるなら、昨日のお礼も兼ねてどこかでお茶でも飲んでいかない?」

 なんかデートに誘う口実みたいだなぁ。

「お礼なんて、そんな、気にしなくていいのに」

「う~ん、でもそうはいかないよ。あ、もしかして時間なかったの?」

 僕は手持ち無沙汰だけど、この人の事情だってあるわけだし、それならまぁ仕方ないかな。

「えっと、私も時間なら持て余してるから」

「そっか、それなら大丈夫だよね」

 ということで近くの喫茶店に行くことになった。

 お姉さんとサテン。心がときめく。





「何でも注文していいよ。今日はお金多めに持ってるから」

 この店のメニューなら、まぁ恐ろしいぐらいの量を注文しなければ大丈夫だ。

 さぁ来いと思って構えていたら、女の人は小声で何か聞いてきた。

「あ、あの、私こういう所は初めてなんだけど、どうすればいいのかな?」

 え? 喫茶店来たことないのか、けっこう珍しいな。

「えっと、ここのメニューに書かれてるものから食べたい物や飲みたい物を選べばいいんだよ」

 こんな説明でいいのかなぁ。


「う~ん、要領はわかったけど、今度は何を選べばいいのか……」

 そっか、ん~そうなるとメニューを一つ一つ説明すればいいのかなぁ。

「わからないから、任せてもいいかな?」

 それは僕のオススメメニューを選べってことか……。

 今日の店長のお勧めは……田舎雑炊か。素人には難しい一品だな。


「それならこの蜂蜜のトーストとグレープジュースなんかいいんじゃないかなぁ」

 ただたんに僕の好きな物を選ぶ。

「うん、じゃそのトースト? とグレイプジュース(アクセントはレ)でお願い」

「ちょっと待って! 変なところ強調しないで! はしたないよ!」

「え? あ、うん、えっと……」

「グレープジュースだよ、」

「うん、それで」


「すみませーん!」

 メニューが決まったところで店員を呼ぶ。

「はい、ご注文お伺いいたします」

 そりゃ決まったから呼んだわけで。


「僕はホワイトモカで」

「そちらのお客様は?」

「あ、えと……その」

 どうしたんだろ、しどろもどろになってるし、そのまま声がどんどん小さくなっていく。顔も俯いている。

「…………」

 そして困った顔で僕の方をジーっと見てるぞ。う~ん。メニュー忘れちゃったのかな。


「あ、この人は蜂蜜トーストアイスとグレープジュース。以上で」

「かしこまりました。ご注文確認させていただきます……」

 代わりにオーダーを言うと店員は確認を取って奥へと下がっていった。

「ご、ごめん……」

 店員がいなくなったことを確認して口を開く。

「いや、僕は構わないけど、どうかしたの?」

 さっきの慌てっぷりは異常だったと思うんだけど。


「実は、私……誰かと話すのには慣れてないというか、うまく、話せないんだ」

 へぇ、そういう人もいるんだなぁ。って、ん?

「僕とは普通に話してるよね?」

「あ、それは、あなたと話すときはなぜだか大丈夫なんだ。安心するというか。一目見た時から、なんだか落ち着かせてくれる人だと思ったんだけど。そう思ったら、自然と声をかけちゃって」

 そんなこと言われたのはじめてだ。

 よく『お前と話すると自分までアホになりそうで怖い』って言われるんだけどなぁ。


「昨日だって自分から誰かに声をかけたのは、はじめてなんだよ」

 それは流石にジョークだよね……。

「そういえばお互いまだ自己紹介もしてなかったよね」

 一緒にお茶してるのに互いの名前を知らないって少しおかしいね。


「僕の名前は阿保孔弌、好きに呼んでくれていいよ」

「うん、孔弌だね。呼び捨てでいいかな?」

「うん、構わないよ」

「あの、私の名前なんだけど……。職業柄というかなんというか、とにかく真名は言えないの。ごめんなさい」

 ふむ。そういえばリュウがこの世界(要するに妖怪関係者)にはおいそれと本名を明かせない人が多いって言ってたなぁ。

 なんでかは知らないけど。

 そもそもリュウや蛍さんも本名じゃないって言ってたし。

 この人もこっちの世界に少なからず関係ありそうだし、そういうこともあるか。


「そっか、それなら仕方ないね。ごめん」

「私のほうこそ……孔弌は気にしないでね」

 本当に気の毒そうな顔で取り繕う。

 ていうかそんな顔されるとむしろ僕のほうが物凄く申し訳ないんだけど。

「あ、注文来たみたいだよ」

 奥からスタスタと美しく歩いてくるウェイターが目に入った。

 よし、ナイスタイミングだ。ベストウェイターオブジイヤーの称号を贈ろう。


「はい、こちらグレープジュースとホワイトモカでございます」

 どうやら飲み物だけでパンはまだみたいだ。そしてかっこよく去っていくウェイター。

「そういえば孔弌は討魔師なの?」

 唐突に今度は向こうからの質問だ。

「僕? 違うんじゃないかなぁ……。ていうか、どうなんだろ? 正直僕もよくわかんないんだ」

 僕ってまさか、もう非一般人なんだろうか?


「どういうこと?」

「あー、えっと実はその、こういう世界があることを知ったのは三日前なんだ。式神とか神装具とかっていう力を手に入れたのもその時だし」

 まさにスーパールーキーって奴だな僕。

 あれ、スーパールーキーってウーパールーパーに似てない?


「え? それ本当!?」

 珍しく大きな声を上げる女の人。

「うん、実はこの町でちょっとした事件があって、それの成り行きで」

 まさか公園で女の子と遊んでてこんなことになるとは思わなかったけど。

「事件……か。この町で起きた事件っていうと十二式神のことだね……」

 どこか申し訳なさそうな顔で女の人は答える。


「うん、その通りだよ」

 全く、リュウの管理責任問題だな。

 問い詰めて尋問して、ねちねちといびってやらないといけないな。

「成り行きでここの神の手伝いをすることになっちゃってね」

 手伝いっていうか、ほとんど僕の仕事だけど。まぁ今はやりがいを感じちゃったりもしてるんだけど。

「ということは、孔弌は……十二神を消滅させようとしてるの?」

 神妙な面持ちで問いかけてきた。


「はは、それが僕さ、友達……いやできれば家族になりたいと思ってるんだよね」

 僕がずっと望んでいたものなんだ。

 テンちゃん、スザク、アルテは僕の望みをかなえてくれた。

「えっ? 家族って? あの凶悪な式神を?」

 疑問符の多いセリフだ。いや、どうでもいいね……。

「僕は、あの式神達がそこまで悪い存在だとはどうしても思えないんだ。だから……まず話し合う」

 ていうか、悪事してるにはしてるけど、下手すれば幼稚園児のほうがたち悪かったりする程度の悪戯だし……。


「いきなり問答無用で殺されるかもしれないよ?」

「そんなことはないよ。きっとみんなわかってくれるって信じてるから」

 それに頼もしい仲間もいるしね。

「…………」

 テンちゃんは僕のことを苦しみを我慢して守ってくれた。

 スザクもノリがよくていい奴だ。いきなり僕達の命を奪うような攻撃はしてこなかった。

 アルテは正々堂々と戦ってくれたし、スザクと同じように命までは取ろうとしなかった。

 ていうか、本気とか言いながら絶対手抜いてくれただろアルテ……。


「孔弌は優しいんだね……」

 それだけ言うと女の人はどこか遠くを見つめているような、そんな目をした。

「私なんか、仲間の事も気に留められない、気に留めるどころかまともに顔を合わせようともしない。それに一度我を忘れると何をするかわからないし、酷い女なんだ……」

 どうしたんだろ、口べたそうだし同僚とかと上手くいってないのかな……。


「お待たせいたしました、蜂蜜トーストアイスでございます」

 横から突然声がした。

 どうやら、いつの間にか店員がきていたみたいだ。

 ていうか気配まったくしなかった……この店員絶でも使ってんのか?

「店の方針でございます」

 暗殺者でも量産する気なんだろうか、この店。


「このパンすごくおいしいんだよ。ここまで贅沢すぎるパンの食べ方はなかなか無いと思うよ」

 これをみるといつも興奮してしまう。

「そうなの?」

「うん、パンに切れ目を入れて、蜂蜜をたらして、その上にアイスをのせる……。たったこれだけの工程だけどそのパンには無限の夢が詰まってるんだ」

 ちなみに僕の大好物の一つでもある。

 今日はもうすぐお昼ご飯なので我慢だ……。


「美味しい……」

 女の人は嬉しそうにパンを口に運ぶ。

「喜んでもらえたならよかったよ」

 まぁ、これで喜ばない奴がいるのなら、今すぐ僕の所に連れてこい。七日七晩耳元で蜂蜜トーストって囁き続けてやる。


「う……」

 突然女の人の顔色が変わり。

「ゴホッ……ッ……ゴホッ」

 赤い液体、多分血を吐きだした。

「え? え?」

 何が起こったんだ? まさかパンの中に毒が!?

 この店、やっぱり暗殺者を……。


「き、気にしないで」

 いや、気になるよ、この吐血は。

「大丈夫……ただの、トマトジュースだから」

「え!? トマトジュースなのそれ!?」

 衝撃の事実だ……。


「って、明らかに違うよね!?」

 いくら僕でもそうホイホイとだまされると思ったら大間違いだぞ。

「うん、実は嘘なんだ。本当は……ゴホっ……ブラッディマリーっていうトマトジュースのカクテルで……。賞味期限切れてるから飲まないでね」

「え!? そのいいわけも十分無理あるよ! ていうかアルコール含んでる分さっきより無理があるよね? あと飲まないから!」

 そんなもの口から出せるわけないよ!

「信じて」

「いや、流石に無理だよ!」

 おもむろに女の人は、さっきまで飲んでいたグレープジュースのグラスを手に取り。


 地面に叩きつけた。

 ガラスが粉々になる甲高い音が店内に響いた。

「ハァハァ……」

 一体その行為に何の意味があるんだ……。

「もう、大丈夫だから……」

 疲れきった顔でそう言う。


「お客様、お怪我はありませんか?」

 驚くぐらいの素早さで店員がやってきて、ものの数秒で机の血と飛び散ったグラスを処理した。

「あの……その、す……すみません…」

 女の人は顔を伏せて消え入りそうな声で必死にそれだけを言う。

「いえ、お気になさらず。それではごゆっくりどうぞ」

 それだけを言うと去って行った。

 かっこいい店員だ……。


「もう大丈夫?」

 一応一段落したところで声をかける。

「うん、もう、その軽くなったから大丈夫だよ」

 軽くなった?

「今のは持病みたいなもので、定期的に苦痛がやってくるだけだから」

「持病って、まじ?」

「うん、多分一生治らない病だと思う。忌々しい呪い……」

 本当に苦々しくそう呟いた。


「あ、こんな話してても面白くないよね」

 ということでこの話題はここで切った。

 そのあとは特に何もないまま、おしゃべりをして

 お互いに一杯ずつおかわりをし、昼飯前になったところで店を出た。





「今日は、色々と迷惑をかけてごめんね」

 店の前で深々と頭を下げる女の人。

「いや、そんなことないよ。僕も昨日あんなにたくさんの荷物もってもらったしね」

 ていうかそんな病弱な体質でよくあの量の荷物持てたな……。

「それじゃ、また会ったらよろしく」


 そう言い残して女の人は町の中へと消えていった。

「さてと……」

 僕も家に戻ってみんなのご飯作らないとなぁ。




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