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キズナの鬼  作者: 孔雀(弱)
第3章「勾陣の位と平和な一日」
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「お風呂レクチャー」

「孔弌、風呂の使い方がわからないのだが」

 ご飯を食べ終えて部屋に戻ろうとしたところでアルテに捕まった。

「捕まったとは人聞きの悪い。家主に家の事を聞いただけじゃないか」

「あ、うん。ごめん」

「うむ。わかればよい」

 ていうか、人の脳内実況盗み聞きしないでよ。僕の周りにはテレパスが多すぎる

「風呂か。うん、わかったよ。それじゃついてきて」

 そういえばお風呂……テンちゃん達にも説明してなかったけどどうしてたんだろ。


「お風呂?」

 首をかしげるテンちゃん。

 あ、入ってなかったのね。

「元来式神は下僕のように扱われるもの。ましてや風呂や湯浴みなどとは無縁だ」

 そういえば昼間もあの女の人からそんな事聞いたような。


「まぁ高位な妖怪自体、風呂にはあまり気を使わないんだがな」

「へぇ、そうなんだ」

 にしては、アルテの体は汚れていないし、髪の毛もさらさらだ。妖怪だから?

「ある程度ランクが高くなると汚れや穢れを払う自浄能力が自然と身につく。だから必要性がないんだ」

 なるほど。いわば、オートリフレッシュみたいな能力を備えているのか。

 食事もあんまり必要ないとか言ってたし、妖怪の生活って楽そうだ。

「その、でもだな、全く入りたくないわけでは……ないんだぞ?」

 僕も嫌いじゃないなら入ったほうがいいと思う。


「それに、その、孔弌も清潔な女子のほうが好きだろう?」

「そうだね。僕もお風呂には入るほうがいいと思うよ」

 あのリュウとの強烈な出会いのシーンが脳内で蘇る。

 衝撃的な臭さだったなぁ。奴には自浄作用が無いに違いない。

「……孔弌、ボクも入りたい!」

 話を聞いていたテンちゃんも入る気になったようだ。

「ふふ、よかったな孔弌」

「……? まぁいいや、それじゃ二人ともついてきてよ」

 使い方を教えるために風呂場へと向かう。





 風呂場は居間からは少し離れた所にある。

 洗い場が二つあって、浴槽は一つだけどかなり大勢ではいれるそれなりの広さがある。

 一人暮らしだと正直言ってかなり邪魔なんだけどね。

 お湯沸かすのに時間かかるし、凄まじく水道代がもったいないから滅多に湯船は使わないし。

 それに、寂しいし……。


「ん? 今から風呂か?」

 脱衣所から蛍さんが出てきた。

「ふ~、いい湯じゃった。それにしてもなかなか広い湯船じゃな」

「あ、うん。ちょっと広すぎるけどね」

「そうか? わしは丁度よい広さじゃったと思うのじゃが。まぁよい、ではわしは部屋に戻るぞ」

 そう言って蛍さんは奥へと歩いて行った。

 ていうか妖怪もバリバリ風呂はいってるじゃんっ!


「それで、こうやって赤いレバーを捻ればお湯の量が調整できるから」

 洗い場の所の説明を一通りして。

「湯船はもう溜めてあるから大丈夫か……。あとシャンプーとボディーソープは間違えて使わないようにね」

 髪の毛がパサパサになって、すごく不愉快だから。

「うむ、あらかた理解した。この程度御茶の子さいさいだな」

「……ボクも」

 僕に似て物覚えのいい子達だ。


「助かった孔弌。これで大体の使い方は理解できた。では、早速入らせてもらうとする」

 脱衣所で服を脱ぎ始めるアルテ。厚着の上からじゃわからなかったけど、すごく弾力性のありそうなハリのある肌に、その……。

「って、何冷静に解説してるんだ僕は!」

「……ボクも」

「って、うわぁぁあ」

 両手で目を覆ってしゃがみ込む。


「見ちゃダメだ……見ちゃダメだ……見ちゃダメだ……」

 いや、この場合ってむしろ逃げないといけないんじゃないか?

「何をやっているんだ?」

「何って、だって急に服を脱ぎだすから……」

 紳士的な僕は猥らに女性の裸を眺めたりしないのだ。

 それに、見るのではなく見てしまうのが真の主人公。覗いたら主人公失格……。


「ふふ、何を自分の式神の裸に恥ずかしがっている。ほらほら」

「うわっ、ちょっと、やめてよ!」

「恥ずかしがらずに一緒に入っていけばいいだろう?」

「……ボクもそれがいいと思う」

「全然よくなぁぁっぁああい!」

 とにかく急いでその場から逃げだす。





 ――バタン。

「ふぅ、危なかった。…………この痴女どもめ」

 何が危なかったかはよくわからないけど、とにかく紳士の面目は保てたぞ。

 っていうかどうして服を着てる僕のほうが恥ずかしがらないといけないんだ、もう……。

「まったく、愛いやつだ」

「アルテ、孔弌どうしたの?」

 うぅ、早くこの場から離れよう。


「あれ、兄ちゃん何してるの?」

「ん? あ、スザクか」

 一刻も早く離脱しようとしている僕の所にスザクがきた。

「あのね、ナチュラルに僕の事無視しないでくれるかな?」

「あ、ごめん。素で目に映らなかった」

 いたのか、リュウ。


「僕がまぶしすぎて、まともに見られないわけだな。まったく、仕方ないな……ふっ」

「そうじゃなくて、あまりにも存在がちっぽけだったから。あ、存在イコール存在感じゃないからね?」

「意味深長な物言いだね……」

「それで二人はどうしたの?」

 って、そりゃここに来る目的は一つか。


「うん、お風呂に入りに来たんだよ」

「ふふん。紳士として当然だね。特に僕のようなイカス紳士にとってはね」

 そもそもこの二人一緒って風呂に入るくらい仲良かったの!?

「何を言っている。昨日だって一緒に入ったぞ僕達は」

 そうだったのか、全然気づかなかった……。


「君も誘おうとしたんだが、先に入ったみたいだったからね」

「そっか、それじゃまた今度でも」

「今度といわずに今行こうではないか諸君!」

「あ、今はアルテとテンちゃんが入ってるから後からにしたほうがいいよ」

「そっか、それじゃもう少ししたらまた来ようかリュウ」

「ま、仕方ないか……」

 二人は居間の方へと戻っていった。





「お、いよいよクライマックスか……」

 リュウの喉がごくりと音を立てる。

「二話からこの盛り上がりとは……やるのぅ」

 蛍さんが感嘆を漏らしている。

「僕は切るか切らないかは四話で決めるから早いうちに頭角を現してくれると助かる。たまに八話とかから盛り上がる作品とかがあって困るんだよ」

 なんかリュウって考え方が色々とコアだな……。


「孔弌、お茶を頼む」

「はいはい」

 傍に置いてあったペットボトルのお茶をコップに注いであげる。

「うむ、かたじけない」

 視線を画面に向けたまま僕のほうを見ずコップを受け取る。

 蛍さんもかなり集中して見てるようだ。


「ふむ、人の創作したものもこれでなかなか面白いものだ」

 見直したかのようにドラマに見入るアルテ。

「孔弌、キスって何?」

「口づけの事だよ」

 キスも知らないなんて……ピュアだなぁテンちゃん。


「……接吻のこと?」

「そうとも言うね」

「あぁっ、ここで終わりかぁ。兄ちゃん続きはいつやってくるの?」

 バリバリ男の子のスザクでも恋愛ドラマは面白いのか。

「この続きは一週間後じゃ。次が楽しみじゃのぅ」

 僕が答える前に蛍さんが答える。


「ていうかさ……」

 なんだかんだで今までスルーしてたけど……

「どうしてみんな僕の部屋に集まってるわけ?」

 そこそこ家具が置いてある八畳の部屋に六人は狭いよね!? よね!?

「そりゃ仕方ないだろ、君の部屋にしかテレビないんだから」

 最近すっかり神様とは思えないリュウ(ドラマに夢中)が答える。


「あ、そっか」

 そういえばリュウの言った通りこの家には僕の部屋にしかテレビないんだった。

 まぁ、この部屋しか使ってなかったからそれで足りてたんだけど。

「居間にもひとつおこうかなぁ、テレビ」

 ポツリと誰にも聞こえないように呟く。

 居間にテレビか……。

「いいな、こういうの」


 皆が解散したところで僕もベッドに入る。

 学校から出てる宿題とかは全くやってないけど、夏休みはまだ二日しかたってないんだ。余裕だよねッ!

 いや、そもそも課題なんて出てたっけ?

 う~ん、そういえばそんなものは出されていないような。

 きっと先生が宿題を配っていたあの光景は多分誰かに植えつけられた偽の記憶だ。蜃気楼だ。幻想だ、うん。

 さて、明日はどんな一日になるんだろうなぁ。





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