「買出し&クッキング」
そんなこんなで気がついたら既に昼過ぎだったから、一旦お昼ごはんを食べることに。
「……うん、晩ごはんはちゃんと作るよ、だから今はこれで我慢して」
みんな大好きカップ焼きそば。慌てて食べると喉に詰まるよ。
しかも気を抜くとお湯を捨てる前にソースを入れてしまって、ラーメンになってしまう危険な逸品だ。
更に湯きりの時に蓋がとれるかもしれないというトラップまであるので、最後まで油断ができない恐ろしい製品だ。
そもそも焼かないのに焼きそばという矛盾した物体でもある。
「で、ご飯も食べ終わったし、昼からの予定なんだけど……」
「うん」
「実は特に連絡とかがはいってきてないから、各自自由行動にしようと思う」
「要するに?」
「そのまんまの意味だよ。言葉の通り自由時間さ町に出るなり、家にいるなり各自の好きにしていてくれてかまわない。ただ、町に出るのなら式神がいるかもしれないから、その時は連絡をくれ」
「ふむ、ならば私は部屋の掃除をさせてもらおう」
ちなみにアルテの部屋は二階、スザクの部屋の向いだ。
あの埃まみれの部屋をそのままにして使うわけにはいかないだろうから、まぁ掃除は必然か。
「そうだね、大変そうなら僕も手伝うけど?」
一応家主だし、君達の主人だし。
「いや、孔弌は気を使わなくていい」
きっぱりと断られる。
「なら僕は何をしようかなぁ」
久々に勉強でもしようかなぁ、宿題ってやつはでてるけど、夏休みになって一回も手をつけてないし。
いや、そもそも僕は今までの人生で課題というものに手をつけた覚えがあまりないんじゃないのか? それなら今更やらなくてもどうということはないか。う~ん……。
「……孔弌はボクと遊ぶ」
「ん~、そうだね。遊ぼうか」
テンちゃんが一緒にいたいのなら付き合おうかな。僕もすることないし。
「ちょっと待て孔弌君、天奈君」
会話を聞いていたリュウが割って入る、というかそんな大声出すなよ近いんだし。
「孔弌君には既に予定があると思うんだが?」
え、僕の予定? はて、何かあったかな。
「買い物と晩御飯の用意だ」
あぁそっか、そうだよね。僕一人ならともかく、流石にそろそろみんなにインスタント・レトルト食品を食べさせ続けるわけにはいかないからね。
「そうだね、なら買い物に行ってくるよ」
「ボクも行く」
「それなら、僕はこの辺りで散歩してくる」
と、スザク。
「この町のことまだあんまりわからないから、探検してみないとね」
少年だ……眩しいくらいの少年だ。僕には直視できない。
「よし、それなら各自の予定は決まったな!」
「あれ、リュウは何するの?」
「僕は街の巡回だ」
あぁ、僕はてっきり家で惰眠をむさぼるのかと。
「いやぁ、家でゴロゴロも悪くないんだけど、ま、これでも神だからねぇ。ははは」
何このフランクな神。
「それに蛍君も妖怪退治が終わったみたいだし」
そういえば蛍さんは、僕達とは違うところで頑張ってるんだった。
「そういうわけで解散!」
「さてと、今日は何を作ればいいのかなぁ」
材料の買い出しと調理なんて久しぶりだからなぁ。
「テンちゃん何か食べたいものある?」
「ボク、人間の食べ物ってよく知らないから」
そっかー、そうだよね。
こんなことならリュウにでも希望を聞いておけばよかった。
「じゃそういうのはスーパーについてから決めようか
「う~ん」
いざ来てみると余計迷うなぁ。
「もうこうなったら」
目にとまったもの適当に買いまくってやる……!
「……孔弌、そんなに買うと帰りが」
「………………」
「……孔弌、やっぱりボクもう少し持つ」
「いや、いいよ……」
最近ハードワーク多いなぁ。
スーパーにある、荷物のせるカートごとそのまま持って帰ったらだめかな。
とにかくすごい量買った。
多分あの人数なら一週間以上もつ。
「あの……」
僕が全く進めないでいると声をかけられた。
「はい?」
声のした方に振り向くと、女の人が立っていた。
不思議なうねりを持つ真っ赤な髪と控えめな光を放つ紫色の瞳が特徴的……かな?
って、誰に聞いてるんだ僕は。
「えっと、荷物大変そうだけど、その、手伝おうか?」
心配した顔でそう提案してきた。
いや手伝うって言っても……。
「すみません、気持ちは嬉しいんですけど女の人には辛いと思います」
見たところ特別マッチョなわけでもない、スラッとした普通の体格だし。
「えっと、こう見えて力仕事、得意なんだ」
そういって僕の荷物を奪い取る。
「あ、あの」
申し訳ないので荷物を取り返そうとすると
「う、うん。このくらい大丈夫だよ」
そういって軽々と荷物を持って笑ってみせる。
「ほ、本当はもっと力あるんだけど、今は事情があってこれが限界なんだ」
……ん? 病気や、怪我をしてたりするのかな……。
だとしたら悪いなぁ。
「あ、違うよ。あ、いや、確かに病気かもしれないけど、とにかく大丈夫だから」
もうここまでしてもらって断るのも忍びないので、結局運ぶのを手伝ってもらうことにした。
「家、遠いのかな?」
「あ、十分ぐらい歩けば付きます」
まぁこの荷物全部僕一人で持って十分歩くのは不可能だったけど。
「えっと、あなたは妹さんかな?」
テンちゃんに聞く。
「……違う」
むすっとした様子でテンちゃんが答える。
「テンちゃんは、その僕の友達というか家族というか……」
「……孔弌の式神」
まぁそうなんだけどね、そうなんだけどそういうこと一般の人に言っても通じないでしょ。
「へぇ、式神なんだ」
何がへぇなんですか……。
「式神って主との契約で主従関係になるっていうあれだよね?
まさかこんなにすごい子が紙ってわけないだろうし」
「えっと、なんていうか、驚かないんですか?」
当り前のように平然としてらっしゃる。この人一体……。
「あ、あぁ……あの、そんなに警戒しなくていいよ。私も、ちょっとそういうのにはわけがあって詳しいだけだから」
無意識に距離を取っていた僕を安心させるように
あー、この人はあれかな、リュウが言ってた討魔師とか。それともこの町に住んでいるただの妖怪か。
「え、いや、ホントに詳しいだけだよ。だから直接関係あるわけじゃなくて、知っているだけっていうか……」
ふーん、つまりオカルトマニアみたいなものなのかな。
「私の知識だと式神って主人に奴隷のように扱われる存在だと思うんだけど……、あ、嫌な気分にさせたらごめん。でも……」
ちらりとテンちゃんの方を見て。
「あなたはそんなことはないみたいだね」
「とんでもない。テンちゃんにそんなことできるわけないよ」
テンちゃんやスザクやアルテを奴隷のようにか。こんな僕に従ってくれた3人に酷い扱いはできない。
「テンちゃん、か」
「うん、ボクの名前は天奈って言うの。孔弌がつけてくれた」
「羨ましいぐらい素敵な名前、だね。それに、天奈さんはいい式神さんだね」
いい? 性格の事かな。
「妖怪としての質は信じられないくらい高いみたいというか……。正体はかなり高名な妖怪に連なるのかな」
あぁそういうことか、なるほど。
「そうだね、テンちゃんはすごいらしいよ。それにとってもいい子だし」
しみじみとそう思う。
「…………孔弌が優しいから……」
「そっか、仲がいいんだね。ところで、どうしてこんなにたくさん一度に買い物したの?」
不思議そうな顔で尋ねてくる。
「あ、なんか急に家族が増えちゃって、それで急遽自炊を再開というか何というか……」
「はぁ、大変だね」
そうこうしているうちに家の前までついた。
「あ、ここが僕の家だよ」
「えっと、すごく大きいんだね。あ、荷物玄関まで持っていくよ」
そういって玄関の方へと向かっていく。
「それじゃ、荷物はここにおいておくね」
玄関からすぐに上がったところに荷物を置いた。
「あ、ありがとうございます本当に、僕一人じゃ絶対無理だったから」
「あ、私のほうこそ……ありがとう。なんだか素敵な話をたくさん聞けたから。それに初めてなんだ、こんなにリラックスして誰かと話ができたのは。だから、えっと……またどこかで会ったらよろしく」
といって丁寧に頭を下げる。
また会ったら、か。結局あの人は何者だったんだろうか。
女の人を見送って玄関に戻ってくると
「孔弌、買い物はすんだのか」
二階からアルテが降りてきた。
「…………おい、これはいくらなんでもちょっと買いすぎじゃないのか」
荷物を見たアルテから突っ込みがはいる。
「というか持って帰ってこれたお前たちに私は驚いた」
「うん、それが途中で親切な女の人が荷物を運ぶの手伝ってくれたんだ」
「ふむ、ではさっきの気配はその女か」
顎に手を当て神妙に考え込むアルテ。何か引っかかることがあるのかな。……確かに引っかかる所がありまくる怪しい人だったけど。
「それでそいつの名は聞いたのか?」
そういえば名前聞いてないや。
「……敵でなければいいんだがなぁ」
ボソボソっとアルテが何かつぶやいた
「え? 何か言った?」
遠くてよく聞こえないんだけど。
「まぁいい、気にするな。それより今から調理を始めるのだろう? 私も部屋の整理が終わったからな、何かあったら手伝うぞ」
と、アルテが手伝いの申し立てを立ててくる。
「ありがとう。それならお手伝いを頼むよ」
「ふふ、任せろ」
「孔弌、ボクも手伝う」
というわけで三人で料理を作ることにした。
「それじゃテンちゃん、このひき肉混ぜててくれる?」
といって合びき肉を入れたボールを渡す。
「わかった」
「アルテはにんじんとじゃがいも切ってくれるかな」
「刃物の扱いならば慣れている、任せておけ」
アルテの手から黒い大剣が出てくる。
いや、普通に包丁で切ってください。
「それじゃあ、僕は今のうちにスープの準備をしておくから」
あれやこれやと指示を出しながら、料理を作っていく。
わいわい騒ぎながらやっているはずなのにいつもより調理が早いような気がする。う~ん、まぁ単純に人手がいつもより多いからかな。
それに……料理ってこんなに楽しかったんだ。いつもはすごくめんどうな仕事だと思ってたんだけどなぁ。
「よし、これで完成だ!」
お皿にハンバーグとにんじんとじゃがいもを盛りつけ、ついでにさっき焼いた目玉焼き。
それからスープをくんでできあがりだ。
「……美味しそう」
「あとは三人が帰ってくるのを待つだけだな」
そう、みんな揃わないと食べられないからね。
冷める前に帰ってきてほしいなぁ。
「ただいま~」
リュウの声が玄関の方から響く。
「ただいまぁ」
ついでスザクの声がなぜか窓の方から響く。
「今帰った」
最後に凛とした蛍さんの声が響く。
「タイミング超よすぎないっ!?」
「知っていたか孔弌、ナイスタイミングとご都合主義は紙一重なのだぞ」
ご都合主義にもほどがあるよ、まったく。
……実は三人で狙ってたのか? 同時帰宅。
食卓にていつものごとく食事と雑談が始まる。そう、カオスタイムの始まりだ。
「で、リュウ達は何か式神達の手がかりはあったの?」
見回り組(リュウ、スザク、蛍さん)に結果を尋ねる。
「いや、それがまったくだ。あははは!」
そんなさわやかに言われてもねぇ。
「わしのほうも町の妖怪に挨拶をしたり、結界の補修をしておっただけで特に目ぼしい情報はないのぅ」
ていうか、結界の管理ってリュウの仕事じゃないの!?
「いや~、悪いねぇ蛍君。ははは!」
何こいつ!?
「うむ、料理というものは初めてだが、最初にしてはなかなかよいではないか」
アルテはうんうん頷きながら食べている。
「ホント、これ美味しいよ」
二つ隣の席のスザクはガツガツハンバーグを食べている。
「兄ちゃん、明日もこれにしようよ」
いや、気に入ってくれたのは嬉しいけど、流石にそれは……。
「ボクは孔弌と一緒に作ったものなら何でもいい」
「じゃ明日は一緒にカップラーメンを作ろうか」
僕がお湯を沸かす役で、テンちゃんが注ぐ役。
「……はじめての共同作業(ポッ」
「カップラーメンぐらいで何を言っているんだテンちゃんは!?」
しかも共同作業なんて今までも結構やってると思うんだけど。
「君達はバカだろ?」
「……リュウ、ボクはバカじゃない。孔弌だけ」
「どうしてそうなるのテンちゃん!? 思わぬ裏切りにすごいショックを受けたよ!」
「明日はパスタがいいなぁ」
「自分から話題振っといて突然話変えたし!?」
あとリクエストするぐらいなら、少しくらい家事手伝ってよ。
「ノージョブ(ニヤリ)」
ウインクしながら親指を立てている……。無職ってことか?
なんでこいつが神なの? ばかなの? 死ぬの?
僕って今までこれに何度も願い事とかしてたの?
恐らく僕はもう二度と神には祈らないな。この世に神なんていないんや。