「遭遇、勾陣の位」
「あのね、ラーメン以外に何かないのか? 神に朝からラーメンを食べさせるのはどうかと思うんだけど」
「兄ちゃんは、このラーメンってのが好きなのか?」
「ふむ、静哉もラーメンは好きじゃったのぅ」
「ボクも好き」
今日も今日とて僕達の朝はインスタントラーメンから始まった。
塩ラーメンにバターをのせるという軽いアレンジをしてあるだけ、昨日のラーメンよりは愛情がこもっているはず……多分。
「さてと、それじゃあ今日の事について」
ぶつぶつと文句を言いながらもラーメンを完食したリュウが打ち合わせを始める。
「早速だけど、先ほど式神らしき者の目撃情報があった」
いつもいつも思うんだけどどうやって連絡取り合ってるのリュウは?
「まず、中央公園の所で目撃が一つ。それから四条通りにあるコンビニの近くでも一件」
「え、二ヶ所?」
「あぁ、公園のほうはやけにおどおどした女の子だそうだ。コンビニのほうは銀髪でマント羽織っていた変な女がいたという情報しかない」
確かに、マント羽織ってるなんて変な女だ。しかもこの時期に。そんあのが許されるのはゲームだけだ!
「……公園のほうは多分六合」
「それでもう一か所のほうは間違いなく勾陣だね」
テンちゃんとスザクがそれぞれ口を開く。
「ふむ……同時に二か所とは厄介じゃの。ワシがもう一方のほうで時間稼ぎをしようか?」
蛍さんが提案する。
「いや、蛍君には予定通り妖怪の退治を頼みたい。式神達とは別に街のはずれのほうで五ヶ所ぐらいに妖怪が出たって言う情報がはいってきたから」
えー、なんかそこらへんでヤバイ妖怪出まくってるとか、この街大丈夫?
いや、リュウが管理してる時点で相当やばいのか?
「大丈夫だよ、以前は月に一、二回ぐらいしかそういう仕事はなかったから。今は結界の関係で一時的にちょっと治安が悪くなってるだけさ」
「んむ、普段からこんなに出てきておったら討魔師や妖怪は皆金持ちじゃ」
それならいんだけどさ。でも結界って奴があっても月に一、二回は出てたんだ……。
「まぁこの町は普通の町などに比べ、元から悪妖が出現しやすい所にあるからのぅ。普段は結界があるから問題ないのじゃが」
え、なんでそんなやばいとこの守りをリュウがやってるの!? キャスティングミスにも程がある。
もっと頼もしい人派遣してよ。
「とにかく、それならば仕方ない。わしはすぐに妖怪のほうに向かおう」
蛍さんが立ち上がる。
「あ、蛍君これ」
リュウが何やら石のようなものを渡す。
「龍鳴石か……うむ、預かっておく」
そう言うと蛍さんは威風堂々と部屋から出て行った。
その背中は、そう、頼もしい海の男の背中を彷彿とさせた……。カニ漁船とか捕鯨とかの。
「さて、それじゃ僕達のほうだけど……」
残ったメンバー(僕、テンちゃん、スザク)に向かって
「思い切って戦力を分散させようか」
なん……だと……?
これ以上戦力を分散したら……ていうかお願いします、リュウとペアだけはやめてください!
「まず、僕とスザク君は公園のほうに向かう」
ほっ、とりあえず一安心。
オカラより脆いリュウは実質戦力外だから、一人で戦うことになる。ここはスザクの孤軍奮闘に期待だ。
さて、その話の流れによると僕とテンちゃんがコンビニのほうを担当って事だね。
「六合の位は戦闘より発見のほうが難しいらしいから、先に僕達が公園で見回りをして探し出しておく。可能なら弱らせておくけど、調伏は君にしかできないから、基本的に時間稼ぎ専門になるね」
「僕達はどうすればいいの?」
コンビニのほうにいる勾陣っていうのって確か二番目に強いんだよね? 僕大丈夫かな。
「君達はもちろん二人で勾陣を捕獲してもらう。そこで調伏を済ませることができたらすぐにこっちの応援に来てくれ。もし調伏に従わない場合は、仕方ないから身柄を確保して一旦ここに戻ってこようか」
つまり僕の式神になるのを断った場合はここで封印って奴をするってことか。
「それじゃあこれを」
リュウがさっき蛍さんに渡したのと同じような石を渡してくる。
「これは?」
「それは龍鳴石。それに霊力を込めて念を送れば僕と会話ができるから」
よくわからないけど、携帯電話みたいなものか。
「まずは無くしても大丈夫なように名前書いておくか」
ペン立てからサインペンを取り出して石に名前を書いておく。阿保孔弌……っと。
「だぁぁぁあああ! 君は何をしているんだ!? 神聖な龍鳴石にペンを入れるなんて!」
「え、あ、名前」
「……もういい。 君のバカは、その、わかってるから……」
え、何を分かってるの!? ねぇ。
その諦めたような顔は何なの!?
「とにかく、一旦別行動になるけど頼んだよ」
「うん、リュウ達も頼んだよ」
というか、頑張るのは主にスザクだろうけど。
そう言って石をポケットの中に突っ込んで、テンちゃんと家を出る。
「リュウが言ってた場所まではまだ少しかかるかなぁ」
テンちゃんとゆっくり歩きながら目的地に向かう。
「孔弌、勾陣の位は賢いし無駄な破壊活動もしないけど……とても強いから気をつけて」
「うん。テンちゃんも頑張ろうね」
頭を撫でてあげる。
「うん、孔弌が一緒ならボク頑張れるから……」
「さてと、この辺のはずなんだけど」
とりあえず例のコンビニの近くまで来たんだけど、それらしいのはいないよなぁ。
『あの、リュウ? コンビニの所まで来たけど』
言われたとおり石に心の中で語りかける。
『そうか、なら周囲に悪事を行う者はいないか探してみてくれ、それからくれぐれも一般人を巻き込まないように』
そういえば僕ってもう一般人じゃないのかなぁ。
えっと悪さする人、悪さする人……。
周りを見渡すと
「なんか人あんまりいないなぁ」
少し街の中央から遠ざかっているこの辺りは普段から人が少ないから、パッと見た感じ人っ子一人いない。
「……孔弌、隠れて」
「え?」
テンちゃんはそういうと僕の服を掴んで建物の影へ引っ張った。
「どうしたのテンちゃん?」
「しっ、あそこ」
テンちゃんの目線を僕も目で追うと
「何あれ……」
家の塀の所に女の子が立っていて何やら落書きのようなものを描いていた。
蒼銀の髪に、黒いミリタリージャケット? に黒いマント。
変わった格好をしている人だなぁ。しかも壁に落書きって……。
「……あれが勾陣の位」
「え!? 悪事ってもしかしてあの落書き!?」
ていうか、なんだあの落書き。数字やアルファベット、演算式が羅列している。
見慣れないけど多分学校とかでやるような数学だよね。
どうして大昔の妖怪がそんなものを壁に描いてるんだ?
スザクにしろ、あの勾陣の位にしろいくらなんでもスケールちっちゃすぎじゃない!?
ほんとにそんな恐ろしい妖怪だったの!?
「あ……」
僕が建物の陰から顔を出した瞬間、女の子がこっちを見て目があった。
ミッドナイトブルーの綺麗な瞳がじっとこちらを見続ける。
いやぁ、そんなに見つめられると恥ずかしいな。
仕方がないのでしぶしぶといった感じで出ていく。
改めて見ても、やっぱり変な格好だ。
女の子自身は流れるような銀髪を携え、それが身に纏った衣の色と対を成しているみたいでかっこいい。
「や、やぁ……」
片手を上げてフレンドリーに挨拶をする。
とにかく人間関係っていうのは第一印象が一番大切だ。
ここで僕が爽やか人間だということをアピールしておかなければ。
「やぁ!」
向こうも笑って返してくれた。
僕の受信機がフレンドリー電波を受信した。この妖怪は友好的だ……多分!
「神……ではないな。神の手助けをする討魔師といったところか?」
あら、あっさりと正体ばれたね。
「あ、うん、実はそうなんだ」
「……孔弌、そんなにすんなり正体ばらしたちゃダメ」
未だに建物の陰に隠れているテンちゃんが呆れ顔で僕にしか聞こえないようにツッコミをいれてくる。
「ということは、もちろん私を封印または消滅させにやってきたのだな?」
向こうは、余裕綽々といった感じでこっちに問いかけてくる。
「いや、そうなんだけど……」
さて、どういえばいいものか。
「……孔弌、封印するくらいならボクの式神にしてやるって言うの」
テンちゃんが物陰から耳打ちのようにぼそぼそと僕に話しかけてくる。
「封印するくらいなら僕の式神にしてやるっ!」
反射的に言ってしまったぁ。
「そうすれば、封印も消滅もしないですむ……よ? ダメカナー?」
とりあえず、そう言葉を続ける。
「少年が私をか? ふははっ、確かにお前の式神になれば私は神や討魔師らの抹消対象ではなくなるだろうな」
笑いをこぼしつつ。
「だが、それは一筋縄では行かないぞ? 私達を従えるにはおよそ人間には到達できない領域の力がいる、大神といえど容易い事ではないのだぞ」
「うん、知っているよ」
リュウも普通の人にはこの式神達を従えるのは絶対無理だって言ってたしね。
「でも、できるよ。多分!」
"多分"の一言のほうが"できるよ"より声が大きかった気がするけど気にしない。
「ふふっ、威勢のいい少年だ気に入ったぞ。よし、ならば私に勝てたら調伏でも封印でも好きにするといい。私を従えるつもりなら、最低でもそれくらいの実力が無いと無理だからな。もっとも少年では私に勝つ事すらできないだろうが」
そう言うと勾陣さんは臨戦態勢をとり
「人除けの結界を張っておいた、これで戦いに集中できるだろう?」
「え、あ、ありがとう」
お礼言っちゃった。
「ではいくぞ」
突然彼女の手に軍配団扇のようなものが現れた。
「これが私の武器だ」
なんてイカス武器なんだ。イケメンすぎる。
手に持つ軍配団扇が銀色に光り出した。
凄まじいプレッシャーだけど、ここで退くわけにはいかない!