「式神説明回」
そのあとスザクの部屋を用意して、家の使い方を教えたりなんだかんだしてるうちに夕方になった。
ちなみにお昼ごはんはラーメン、夜ごはんは中華の出前だ。
「ふぅ……なんだか人間の暮らしも思ったより楽しそうだね」
満腹満腹といった感じでスザクがお腹を撫でている。
「兄ちゃんはバカだけど楽しいし。うん、僕ちょっとこういうの気にいったよ」
それは何よりだ。だが、僕は決してバカじゃない。少し個性的なだけだ、うん。
「天奈も……兄ちゃんの事好きなのか?」
「うん、ボクは孔弌の式神になれてよかった」
「……僕、頑張るよ」
「……孔弌、どうしたの?」
「いや、なんかね、正直に言うと最初僕がリュウにこの仕事を手伝うって言ったのは興味半分だったんだ」
だって、こんな面白そうな事普通はとりあえず関わってみようと思うよね?
「そりゃ、妖怪の戦いだって言うから危険な事がたくさんあるかもしれないけど、まぁ何とかなるかなぁとか思ってたんだ」
正直今日の戦いみてたらそんな気も失せたけど……。
「でもなんかさ、今はテンちゃんの元仲間の妖怪達と会ってみたい。もっともっと、仲良くしてくれたらいいと思う」
それに、テンちゃんみたいに別に悪い事したいわけじゃないのに命令で仕方なくやってる妖怪もいるかもしれない。
だから、僕はそういうのも救ってあげたい。
自己満足の偽善かもしれないけど、これが僕の今の気持ちだ。
「今まではあんまり誰かのために僕がしてあげられる事ってなかったけど、今は君たちの助けになれるかもしれない。だから僕は自分の意志で式神達を探し出すよ」
「………………」
「………………」
「あ、あれどうしたの二人とも?」
もしかして、何かまずい事言った? 地雷あった?
「……孔弌がまじめなことを言ってる」
「そんな事に驚いたの!? ていうか僕の事どう思ってたの!?」
「さてと、和気藹藹としたところ申し訳ないが今後の事について話してもいいか?」
リュウが咳ばらいとともに仕切り出した。どっから出てきたお前!
「失敬な、最初からいたぞっ!」
なんだ、ただ単に僕の眼にうつってなかっただけか。ふぅ。
「まず、残り十体の式神のことなんだけど、できれば君達に残り十体の式神の特徴や得意な術を教えてほしいんだが。何分僕も昔の事だからほとんど覚えてなくて」
あれ、そういうのって普通昨日のうちにテンちゃんに聞いておくものじゃないの!?
「いや、ちょっと、忘れてた……。えへへ」
照れるリュウ。きもいからやめれ。
「んっとねー、まず僕達の中で一番強いのが騰蛇の位。これはまず間違いない。騰蛇の位は僕たちの中でもとりわけ一番凶悪だったから多分すごく苦労する」
「とうだ……投打……!」
「あぁ……そういえば君達が最初に大暴れしたとき最後まで猛威を振るったあの炎の蛇か。僕に似て美しい体だったねぇ。親近感を覚えたぐらいだからね」
炎の蛇? RPGとかに出てきそうだね。
ていうか蛇の体に親近感覚えるなよ……。
「……うん、騰蛇の位の火はボクの水なんかじゃ勝てない」
今日の戦い見る限りテンちゃんは火に相性いいみたいだった。
それでも勝てない程って……。
「まぁ騰蛇の事については時間をかけてゆっくりと考えようか。生半可な力で挑めば恐らく全滅だろうから」
えぇ、そんな恐ろしいのと戦わないといけないの……。
さっき決意を新たにしたばかりなのに怖くなってきた。
「次に強いのが恐らく勾陣の位」
「そうだね、勾陣の位は騰蛇の位の次に力が強くて、僕たちの中で多分一番頭がよかったと思う。戦術指揮ってやつ?」
「あぁあの軍配とか剣で戦うあれかい?」
「そう、それ」
見たことあるリュウと違って僕は話についていけないんだけど。
「……それから一応ボク達のリーダーの貴人の位。貴人の位は味方だとすごく邪魔で役立たずだけど、敵にするととっても手ごわいと思う」
テンちゃんが邪魔っていうほどだから相当役立たずなんだな……。
「貴人には多分弱点とか苦手なものはないと思うよ」
スザクが付け加えるように言う。
マジか……。
「あーあとあれ……あれ誰だっけ? あのバカ?」
スザクの口からバカという単語が出た瞬間パッと僕を見るリュウとテンちゃん。
「ちょっと待って、今明らかに違う話してるよね? どうして僕を見るの?」
「ふっ、ごめん、つい、ふふっ」
リュウが笑いながら謝ってくる。くそっ、むかつく。
「……あ、思い出した。……大裳の位?」
「うん、それそれ」
「……大裳の位はまともに相手すると苦労するけど、バカだから簡単に捕まえられると思う」
うわっ、ひどい言われよう。相当バカなんだな。
「どっちのほうがバカなのだろうか……」
「リュウ今何か言った?」
「いや、何も」
おかしいな、確かに聞こえたんだけど。
「あと気をつけないといけないのは青龍の位かなぁ。青龍の位は、すごく頭がいいし、力も強い。勾陣とは似ているようで全く違う戦い方をするし」
なんだか、癖者ぞろいなんだね君達。
ってそりゃそうか。なんせ相手はかつて国を滅ぼす寸前までいったぐらいだ。
それにしてもテンちゃんやスザクがその一旦を担っていたのが未だに信じられないんだけど……。
「……六合の位は捕まえるより見つけるほうが難しいかもしれない」
「あいつは僕たちの中でもかなりの変わり者で戦いがあまり好きじゃなかったから」
逆に言うとその式神以外はみんな好戦的なんだ……ブルッ。
「太陰の位、白虎の位、玄武の位は、それぞれの特性と武器に気をつければ大丈夫」
あー、なんか名前いっぱい出てきて混乱してきたぞ。
「……それから天空の位は、仲間だったボクたちもよくわからない」
「うん、あいつは普段から何を考えてるのかよくわからなかったから。もしかしたら一番めんどうかもしれないよ」
ふむふむ。
よし、今までの話をまとめると
騰蛇……一番強い炎の蛇。
勾陣……二番目に強くて、一番賢い。指揮官。
貴人……仲間だと役立たず、敵にすると恐ろしい。式神達のリーダー。
大裳……強いけどバカ。
六合……戦いが嫌い。探すのが難しそう。
青龍……強くて頭がいい。勾陣とはまた違った賢さと強さを持つ。
白虎、玄武、太陰……特性に気をつければまぁ大丈夫。
天空……謎。
「式神達の大体の特徴はわかったかい孔弌君」
「うん、つまりあと十体もいるわけだ、まだまだ大変だね」
「まぁ、最初から君の頭には期待していないから大丈夫だよ!」
何が大丈夫なの!? 僕の心はそのアーミーナイフのような言葉でズタボロに切り裂かれたよ。
「……大丈夫、孔弌にはボクがついてる」
「その、僕も一応兄ちゃんの式神になったから、ちゃんと守るよ」
あぁ頼もしい式神達だ。
それに比べてこの神様は……。
「さて、それじゃ、今日の所は特に連絡もないから休もうか……」
リュウがそういって解散の合図をだした。
「……ん!? ちょっと待ってくれっ!」
突然リュウの顔色が変わった。
「町はずれの橋のところに町の妖怪たちじゃ手に負えない妖怪が出たらしい。今すぐ退治に行くぞ!」
はい、緊急出動の命令が出ました。