「交渉」
途中朱雀君は何か言ってたみたいだったけど、泡と水のロープのせいで何言ってるか全くわかんなかった。
悪く思うなよ少年。せめて世の中の厳しさを学べたと思って割り切るんだな。
「よし、それでは今から君の処遇について話し合おうと思う」
食卓兼会議室に集まってそれぞれが椅子に座った状態で話し合いが始まった。
「まず君には三つの選択肢がある」
リュウがそう切り出して、指を三つ立てる。
なんか交渉してるみたいでカッコイイ。
「まず一つ目、以前と同じように封印されるという選択肢だ」
「…………」
朱雀君は無言でリュウを睨んでる。とりあえず僕も無言でリュウを睨んでみた。
「いや、気色悪いからやめてくれないかい」
リュウが本当に嫌そうな顔をしたのでやめておくことにしよう。
「そして二つ目は封印ではなく完全な消滅だ。僕の知り合いに頼んで塵一つ残さず消滅してもらう」
「へっ、僕たちはみたいな強力な妖怪は、そう簡単にはこの世から消せないんだぞ! だからお前たちだって封印してたんだろ」
今度は反論する朱雀君。僕は……難しい話はよくわからないから傍観だな。見安定の流れ。
「確かにあの頃の僕たちにはその力はなかった。でも今はいるんだよ、白面が」
「!」
朱雀君の顔が急にこわばり出した。恐らくリュウの言ったことは本当の事だと悟ったんだ。
「最後に三つ目……」
リュウが僕の方をちらりと見る。そんなあからさまにチラ見されるといら立つな。
「そこにいる孔弌君の式神になって僕たちに協力することだ」
「……え?」
「……え?」
僕と朱雀君の声がハモる。ちなみに僕の担当はテノール。
「ねぇ、それってどういうことっ!?」
「僕もよくわからないんだけど」
「言ったとおりだよ。そこにいる天奈君……天后の位と同じように孔弌君に使役されるってことだ」
「な……」
朱雀君が僕の方を見てくる。
「そんな! そんじょそこらの人間に僕らが調伏できるものか、ましてやこのバカそうな兄ちゃんなんかに」
あれ……何故に僕はほぼ初対面の男の子にバカって決めつけられてるの?
「それができるんだよ、彼には類まれな式神・使い魔使いとしての才能があってね、現に天后の位も今は彼の式神だ」
「ほんとなの……?」
「……うん」
「さて、どうするんだい?」
リュウが花をいじりながら再度問いかける。それにしてもいちいちうざい動作だなぁ。
「っ……うぅぅ……」
頭を抱えて唸る朱雀君。
ていうか、リュウが言ってたのって式神にならないなら殺すぞって意味なんだよね……。 それってなんだかなぁ……。
「……朱雀の位、孔弌はいい人。それは保証する」
テンちゃん……。
「バカだけど」
その最後の言葉いらないけどね。
「こうなったら、なってやるよ兄ちゃんの式神に!」
やけくそ気味に答える。
「で、どうすればいいの? 根源の断ち切りと霊液交換とか糸紡ぎとかすればいいの?」
霊液交換? 糸紡ぎ? そんな場違いな言葉をこんな作品で連呼されてもなぁ。
「いや、彼はただ、名前を決めるだけで式神を調伏できるんだよ」
「そんなばかな! そんなことで契約ができるわけないよ!」
「嘘だと思うなら見てればいい」
そういうとリュウは僕の方に向き直り
「で、この子の名前どうするんだい?」
あー、そういえば名前考えないといけないのか……。
「君は、心を彼に預けてしばらく待っていてくれたまえ」
名前、名前……。
「もうそのままスザクでよくない?」
僕がそう言った途端
「うわっ、お、なんだこれ」
スザクの体が輝き始め、あのときと同じように風が発生する。
「うわぁぁああ」
そして赤い光は僕の左手に吸い込まれていった。
「くぅぅう……」
風がやんだあとで左手を見ると
「あ、変わってる」
左手の刺青が変わっていた。
いや、形自体は前と同じ円形だけど、色が増えてる。
半分が水色で半分が橙色になってる。
「こ、これでいいの……?」
隣にはいつのまにかスザクが倒れていた。
「ん、糸も正常につながっているみたいだし。うん大丈夫、君は今からここにいる孔弌君の式神だ」
「そっか、これからよろしくな兄ちゃん」
「うん、これからよろしくね」
握手を交わす。
「……むぅ。孔弌ボクも」
「え!? テンちゃんも!?」
言われたままとりあえずテンちゃんとも握手をした。
なんで?