女神様に憑依しました。
なんか思い付いたので描いてみました。
「ルカちゃーん一緒に迷宮に行かなーい?」
冒険者ギルドの中、どの依頼を受けようか迷っている少女、ルカが一人の男性に声を掛けられた。
少女にとっては何度かギルド内で見たことのある程度の男性で名前も知らない。
「おい!お前抜け駆けは許さん!」
「俺と食事でもどうだい?」
「どうかその足で踏んで下さい!」
ギルド内にいる他の男性にも声を掛けられる。
ルカは容姿淡麗でありスタイルも抜群、性格も良く、冒険者としても実力派の十七歳の少女である。
当然ギルド内でも人気がありルカの知らないところでファンクラブもできていたりする。
「すいません。もう今日は帰るので結構です」
ルカは声を掛けてきた男性の方を向き、優しげな笑顔でやんわりと断った。
ルカにとっては何気ない普通の笑顔なのだが、この笑顔でファンがまた一人二人と増えていることにルカは気付かない。
誘いを断ったルカだが、良さそうな依頼を見つけると堂々と受付に依頼を持っていく。
その様子を見て崩れ落ちる男がいれば、これがルカちゃんだよなと頷く男もいる。
この程度ではルカの人気には少したりとも影響しないようだ。
「罪作りな人ですねルカさん」
依頼を受領してもらうため受付に行ったルカは依頼の受領が終わると同時に受付の女性に声を掛けられた。
しかし、それは皮肉のようなものではなく、純粋なルカに対しての感想であった。
図らずともルカは男女共に好かれているのである。
「?」
しかし、その事を知らないルカにとってはよくわからずただ首をかしげるだけである。
そしてそんなルカを見てさらにファンが増えていたりする。
♢
ルカの人気はギルドの中だけにとどまらない。
ルカがこの街を拠点にしてから約三カ月が経過している。
この街は大陸一賑わっているとされる国の近くにあり、その国の保護を受けているのでそこそこ賑わっている。
そんな街で様々な依頼をこなしているルカはどんどんファンを増やしている。
「ルカちゃん、ちょっと寄っていかないかい?いい食材が揃ってるよ!」
「ルカちゃん、この前はありがとうね!」
ルカが今歩いているのは商業区。
普段この街で一番の賑わいを見せる所である。
そんな賑わいを作り出していると言っても過言ではないのが、露店などの店長達である。
そんな店長達から素材や食材を採取してくる依頼を受け、完璧にこなしているルカは、この商業区でも大人気なのである。
「今は急いでいるので、またあとで買いに行きますね」
ここでも優しげな笑顔を振りまき、周りの関係のない人々すらも見とれさせる。
ここまでくると一種の才能である。
だが、ここもルカは全く気付かず華麗にスルー。
依頼を済ませ、さっさと宿屋へ戻るのだった。
♢
「ふぅ、今日も疲れたな〜」
宿で部屋をとり、リラックスしているルカ。
ここでは街のような優しい表情ではなく、気の抜けた表情である。
「それにしても、この体にはなかなか慣れないなー。女神様に憑依って言っても実感湧かないしなー」
そう、ルカは女神である。
しかもかなり高位の女神である。
しかしルカの言ったようにルカに憑依しているのである。
実際は彼女ではなく彼。
精神は男なのだ。
▼
地球の日本在住の中山聡は、普通の男子高校生だった。
しかし、ある日突然おかしな夢を見たのである。
周りには何もなく真っ白な空間。
無という言葉をそのまま表せるような空間であった。
そんな空間の中にいきなり放り出された中山聡は当然パニックに陥った。
そんな時一人の少女が後ろから抱きつき声を掛けた。
「いきなり呼び出してすいません。戸惑うのも分かります。ですが、怖がらないで頂きたいのです」
中山聡は驚愕した。
振り向けばすぐそこにある自分と同い年と思われる見たこともないような可愛い女の子。
背中に抱きつかれ、伝わる柔らかい感触。
心を落ち着かせるような女の子の優しい匂い。
心に直接響くような綺麗で透き通った声。
中山聡は理解した。
これは夢であると。
中山聡は、すぐに目を閉じ再び眠りにーー
「寝ないで下さい!」
つかなかった。
「私はルカと申します。俗に言う女神というやつです」
衝撃のカミングアウトである。
しかし今時の高校生がそんなこと言葉に惑わされる訳もなく、再び眠りにーー
「だから寝ないで下さいよぅ!」
自称女神様は中山聡の背から離れ、正面へ移動する。
中山聡はまたもや驚愕した。
高すぎず、低すぎない身長。
出ているところは出て、引っ込んでいるところは引っ込んでいる抜群のスタイル。
大きく青い澄んだ瞳。
腰ほどまである白く長い綺麗な髪。
まさに女神であった。
「えーと、話を聞いて欲しいのですが」
声を掛けられてハッとする中山聡。
「あっ、はい、聞きます」
パァッと笑顔を輝かせる女神ことルカ。
その笑顔に中山聡は心を打たれた。
「今日は、貴方にお願いがあってこちらにお呼びしたのです」
「お願い?女神様が僕なんかに?」
一応女神として認識している中山聡は意外と大物なのかもしれないとルカは思いつつ口を開く。
「はい。その願いと言うのは私と精神交換して欲しいのです」
「精神交換・・・ですか?それはまた、どうして?」
「そのぅ、あのですね、端的に行ってしまいますと・・・あなたに恋をしてしまったのです!」
中山聡またもや驚愕。
現在高校生の中山聡だが、今まで彼女ができた事がない中山聡。
それなのに、こんなに可愛く、美人な女の子に告白のようなものをされれば驚きもするだろう。
「一目惚れのようなものなのですが、好きになってしまったものは仕方がないのです」
もう中山聡の顔は真っ赤である。
ルカの顔もほんのりと赤い。
「しかし、人間と神は結婚できないのです」
中山聡は一気にドン底に落とされたような気分になった。
少なからず中山聡も、ルカの事が好きになってしまったらしい。
「そこで精神交換の出番なのです。神と精神交換をする事によって、人間は半神へと成り上がるのです」
中山聡には理解し難いものだったが概要だけはなんとなく理解したようである。
それを察したルカが、今の部分について噛み砕いて説明する。
「神と精神交換をすることによって、神の象徴でもある神力と、人々からの信仰を共有する事が可能になるのです」
「つまりは女神様の力と信仰を共有すれば、人間から半分だけ神に成り上がる事が出来るというわけだな」
中山聡は、頭が悪いわけではないのだが、今回は話がファンタジーな内容なので理解に時間がかかったようだ。
「はい、それであっています。あ、あとルカと呼んで下さい」
中山聡は女子を呼び捨てにしたことなど今まで一度も無く戸惑っている。
そんな中山聡を見てルカは、くすりと笑う。
二人は存外相性が良いようだ。
「そっ、それで、る、ルカ、精神交換はどれくらいやっていればいいんだ?」
中山聡に名前を呼ばれ内心喜びながら、その問いに答える。
「それは〜、大体三カ月と言ったところでしょうか」
意外にも長い間精神交換をしていなければいけないようで、中山聡はいくつかの疑問が浮かび上がる。
「その間、俺は高校とか、どうすればいいんだ?」
「それは私が聡さんの代わりに、聡さんの体で通います」
「それは、大丈夫なのか?」
中山聡もまた、名前で呼ばれたことに動揺しながら質問をする。
「精神交換をする、した相手の記憶もそのまま受け取るので、だいたい大丈夫だと思います」
名前を呼び合い、顔を赤くする二人はお互いに初々しく、新婚のようである。
「ルカは僕の代わりに高校行くとして、僕はその間ルカの体で何をしていればいいんだ?」
「それは、アザーズという、聡さん達にとっての剣と魔法の異世界で楽しむのもよし、そのまま地球でまったりするのもよしです」
ふむ、と中山聡は考える。
高校生とはいえ、やはりファンタジーは男の憧れの一つなのである。
「精神交換が終わった後はどうなるんですか?」
「それは、その、私の求愛に答えて頂ければと、そう考えています。はい」
中山聡にとって、文句の一つもなく即答でOKするのだが、ここは小心者の中山聡、何か裏があるのではないかと考えるのだ。
「結婚したとして、その後はどうなるんですか?」
「いえ、特に何もありません。聡さんにはファンタジーの世界で私と暮らすのもよし、地球で私と暮らすのもよしです。普通に私と夫婦をしてくれればそれでいいのです」
中山聡は顔を赤くする。
高校生で彼女もいない中山聡には結婚や夫婦などという話など考えてもいないのだ。
しかし、こんな美少女に求婚されるなどもう二度とないだろう。
「じゃあ、とりあえず精神交換して、その後にお互いのことを知るという意味で恋人同士から始めましょう」
いきなり結婚など中山聡にとっては物凄く高いハードルなのでせめてもの妥協案を提案した。
それに、ファンタジーの世界も捨てきれないようだ。
「それでは、結婚してくれるんですか?」
「その前に恋人同士というクッションが入りますが」
しかし、ルカはノープロブレムです!と精神交換の準備に入る。
「それではいきます、えいっ!」
精神交換などという非現実的なものをこれから行うというのに、随分と軽い掛け声だと、山中聡はおもった。
次の瞬間、中山聡とルカの視界が真っ白になった。
▲
こうして、現在は中山聡はルカの体を使ってファンタジーの世界を満喫しているのである。
最初は慣れない女の体に戸惑ったり、顔を赤くしたりしたが、今ではもうすっかり慣れたようである。
「そろそろ三ヶ月だなぁ」
誰もいない静かな宿屋の一室で、ルカの体の聡は呟いた。
ルカが言っていた精神交換の期間は約三ヶ月。
聡がファンタジーの世界に来て今日で三ヶ月なのだ。
「なんかこの体にも、愛着が湧いてきたな」
その体が中山聡の嫁になるというのに何を言っているのだろうか。
「ファンタジーの世界か地球か、どっちで暮らそうかな?」
ファンタジーの世界も地球も中山聡にとっては、どちらも自分の住む世界になってしまったようだ。
「精神交換で美人の嫁ができるって言うのも悪くないな」
中山聡が、そう呟いた直後、宿屋の一室から女の体をした精神が男の複雑な女神が一人消えた。
♢
中山聡は、三ヶ月前と同じように無を表したような白い場所にいた。
そこには、一人の少女・・・の精神を持った中山聡の体が存在していた。
「どうでしたか?ファンタジーの世界、アザーズは」
「楽しかったよ」
…………………。
無言の空間が広がる。
これから恋人同士になるのでお互いに意識しているようだ。
「そっ、それでは体を元に戻して、恋人になりましょう!」
「そっ、そうだな!」
お互いオタオタしながらも、話を進める。
「では、行きますよー。えいっ!」
また、どこか気の抜けた掛け声がすると、二人の視界が真っ白にーーーならなかった。
「あ、あれ?」
「どうしたんだ?」
「体が元に戻りません!」
「えっ」
二人の間に無言の空間が流れる。
「ど、どうするんだ?」
「ど、どうしましょう?」
こうして、体が女神で精神が普通の男子高校生と、体が普通の男子高校生で精神が女神の、複雑な恋が始まったとか、始まらなかったとか。
続かない!